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安芸咲良

イントロ

「あたしには時間がないの」

 山都由真やまとゆまはそう言った。

 夕日の照らす校舎の屋上。フェンスを背にして立つ山都は、逆光になって表情がよく見えない。たぶん、泣きそうな顔をしているんだろう。

 だけど彼女は泣かない。そう決めたのだとさっき聞いたばかりだ。

「入学式の日に一目見てビビっときたの。これは運命だって。ジョージがいいって思ったの」

 シチュエーション的にはまるでラブコメだ。なんて考えてしまうあたり、俺も結構動揺しているかもしれない。

 冷静な頭が警鐘を鳴らす。彼女から目を離すな、と。

 山都の真っ直ぐな目が、俺を射抜いた。

「だからお願い! あたしと一緒にバンドやろう!」

 思えば最初からこいつの願いはただ一つだった。

 アホでうるさくてめんどくさくて。だけど音楽への情熱は人一倍だった。誰よりも音楽を愛していた。

 だから俺は言ってやるのだ。

「いやだ」


 このとき断らなかったら、今とは違う未来が待っていたのだろうか。

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