短編集
たかむつ
似たもの家族
1mはあるその大きな蓋をあけると、湯気を立てた緑色の液体が現れた。と同時に、鼻をついたのは葉っぱのような、なんとも言えぬ人工的な匂い。ぼくは思わず、顔をしかめた。
何を隠そう、僕は入浴剤が嫌いなのだ。
「なんで入浴剤をまた使ってるんだよ。」
ぼくはリビングにいる息子にむかって叫んだ。
「だってなんか気持ちいいじゃん!」
と、息子の声。こんなものを買い与えた母さんも理解しがたい。仕方なく、その毒々しい液体に身を滑り込ませた。
体を洗い、風呂場に置いてある入浴剤の缶を手に取った。「優しい森の香りが、あなたを心地よい森林浴のようなひとときへと誘います!」と書いてあるのを見た。そのまま、原材料一覧に目を滑らせる。硫酸ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース…見知らぬカタカナ薬品のオンパレードだ。思わず笑ってしまった。こんな化学物質だけでできた、プラスチックのような悪臭の、どこが森の香りなのだ。こんなものでリラックスする人間の理解ができない。
その化学物質の煮詰まった流体を、手ですくってみた。一般的に、みどり色というのは人を落ち着かせる効果があるという。しかし、こいつは例外である。怪しい蛍光色に光った液体は、リラックス効果とは程遠い何かだった。こんなスライム状の物質の中にいたまま落ち着く訳がない。
添加物のスープに入れられたカップラーメンの麺は、いつもこんな気持ちなのだろうか。そんな想像をして、一人で苦笑していた。僕は風呂から上がった。
服を着て、ぼくはあの忌まわしい匂いを打ち消すために、全身に香水をふりかけた。フローラルのいい香りがする。そうだ、この感じだ。花の香り、もりのかおりっていうのは、こんなやつのことを言うんだよ。
そのままリビングに戻った。
「うわ、お父さんくさいよ、また香水つけたでしょ。そんな化学物質の詰まった匂い、家の中で振りまかないでよ。」
息子が顔をしかめると、妻も同調した。
「そんな化学物質でできた、プラスチックみたいな匂いでリラックスする人間の、理解ができないよ…」
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