怪猫モフリモフ

いときね そろ(旧:まつか松果)

怪猫モフリモフ

猫も長生きすれば尻尾が二つに割れて猫又になるというが、

そうならなかった場合、何になるのか。


怪猫モフリモフになるんである。


モフリモフは基本、人間の家に居ついている。

だからといって完全家飼いにはならない。彼らは怪猫であって飼いネコではないからである。


モフリモフは布団が大好きである。むろん、人間用のやつだ。

シングル布団の横幅三分の二をモフリモフが占める場合、人間は残りの三分の一で眠ることになる。当然である。人間は湯たんぽと認識されている。


モフリモフの好物は多岐にわたる。

刺身、一夜干し、鶏のささ身、鶏卵、たまにはスイカも食する。

いわゆるカリカリや猫缶も嫌いはしないが、同じものが続くと叛乱を起こす。

冷や飯にカツオブシを混ぜただけの安易な猫まんまなど論外である。

あれは下僕が喰うものである。


モフリモフとの関係を良好に築くホシは「もふり」にある。

頭をぐりぐり擦り付け、その艶やかなる背中を向けてきたら「さあモフれ」の合図である。何人たりとも従わねばならない。

存分に、丁寧に、心を込めてもふり尽くすべし。

ただし突然気が変わって拒絶を示されたら急いで離れなければならない。

タイミングを失えば、至近距離から空気砲を食らう。

幸運なら猫パンチ。


モフリモフの行動半径は立体的である。

テーブルの上、TVの上、ソファにカーテン、網戸、エアコンの上、すべては彼らの動線上にある。スマホを落とされたの花瓶を割られたのという苦情はこれ人間側の都合であり、モフリモフにとっては移動に邪魔なものを排除したにすぎない。


モフリモフは突然姿を消すことがある。

たいがいは家の中のどこかに気に入った昼寝場所を見つけて入り込んでいるのだが、たまに何日も姿を見せないこともある。

だが慌ててはならない。

彼らは瞬間移動の術を心得ている。

油断したころに突然現れて背中から飛びつく、スリッパの踵を踏む、夕食の一品をかっさらう、などは古典的な技といえよう。

どこに行っていたとかどこから出入りしたなどと詮索するのは無駄というものだ。


人間側が取るべき対応はただひとつ。


抱きしめ、もふれ。もふり尽くせ。

モフリモフとの生活が戻ってきたことにただ感謝せよ。



そして本当に


何日も


何年も


彼らが姿をあらわさない「その日」が来たならば



ああ帰るべき場所に帰ってしまわれた、と納得して

記憶の中の彼らを愛おしむべし。


怪猫モフリモフとはそういう存在である。

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