いいえ、マジックじゃありません。本物の異能力です。

南雲 千歳(なぐも ちとせ)

第1話

 或る日曜日の昼の事──。

 陸上部の練習も昼休みに入り、俺は部の後輩と2人で昼飯を食べていた。

「……県大会で3位なんて、凄いじゃ無いですか」

「たまたまだ。体調が悪ければ、順位はもっと下がっていた」

「先輩のそれ、飲み終わってますか? 良かったら、ついでに捨てて来ますけど」

「ああ? じゃ、頼んだ」

 彼女は缶を両手に持ち、歩いて行った。


 カランカランッ──。


 そんな音がしたので、俺は彼女がころんだのでは無いかと、後を追った。

 音の鳴った辺りを見回したが、彼女の姿は無い。

 俺は自分の視界に映しだされた範囲を、ゆっくりと視点移動させて探った。

 見た光景に何か──違和感がある。

 自販機の隣に置かれた分別用のプラスチックのゴミ箱──のそばに、それはあった。

 空き缶で満杯になったそのゴミ箱の下に、何かが落ちている。

 丸くて、平たい物体。

 近付いて見ると、それは縦に真っ直ぐ潰された、スチール製のジュースの空き缶だった。

 円筒の周りの壁の部分は滅茶苦茶に折り畳まれているが、缶の上と下の端の丸い部分は、全く変形せずに、真上から見事に押し潰されている。

 後輩はと言えば、少し離れた場所にある水道の辺りで顔を洗っていた。

俺はその、縦にぺしゃんこになった缶を掲げる。

「おい、お前。これ……どうやった?」

「え? どうしたんですか、先輩?」

 彼女はタオルで顔を拭き、如何いかにも気軽な口調で聞いた。

 彼女はしばらく俺の手の中にある物体をじっと見つめると、そっぽを向く。

「は──何ですか、それ? 知りませんよ」

 とぼけるので、俺は叱り飛ばす。

「しらばっくれんな。お前さっき、これ飲んでただろうが。こいつは潰れてるが、まだ缶の温度が低いから、俺には分かる」

 こう言うと、彼女は押し黙って仕舞った。

 そして、その怒ったような恥ずかしいような緊張した目を強く見つめ続けていると、やっと口を開いた。

「それは……秘密です」

「おい、はぐらかすな」

「しょうが無いですね。──じゃあ、お話しますので、こっちへ来て貰えませんか」

 どこかに、缶を潰す為の道具でも隠してあるのかも知れ無い。

 そんな事を思いながら、俺は黙って彼女について行く。

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