悪い男に飼われました。
佳乃こはる
第1話 宿命
それはまさに晴天の霹靂________
その日まで私は、本当に平凡などこにでもいる主婦だった。
私とパパと息子の圭太、3人だけの核家族で、新婚さんが多く暮らす賃貸アパートに住み、パパはそこそこ名の知れた会社のサラリーマンで私は専業主婦。
生まれたばかり赤ちゃんがいて、普通よりか、ちょっとだけ幸せそうな。
「かーらぁすー、なぜ鳴くのぉ~」
人通りがないのを見計らい、童謡を口ずさむと、ベビーカーの前方に座ってあちこち興味深そうに見回していた圭太が、嬉しそうにキャっキャと笑う。
「かぁらすはやぁ~まぁ~にぃ~」
独特のこぶしがはいった歌声が面白いのか、圭太はドスンドスンとお尻を動かし、拍子をとってバンザイをはじめる。
「こらこら圭ちゃん。あんまり暴れたら落っこっちゃうから。さ、はやく帰ろうね…もーっ!かわいいんだからっ」
下校中の小学生が冷やかな視線を向けてくるのもお構い無しに、こんな親バカそのものをやってのける。
圭太の足元に目を向ければ、篭の中には今晩の夕飯の具材が入った買い物袋。
ちょっと奮発して、今夜はすき焼きの予定だ。
とはいっても不況の昨今、お財布事情が厳しいから、牛じゃなくて豚肉だけど。
※※※
「…ただいまー。
さあ圭ちゃん、おうちだよー。ヨッコラショと」
誰もいない玄関に声をかける。
今月で8ヶ月になる圭ちゃんはなかなかに重たく、声でも出していないとやってやられない。
旦那には「おばさんくさい」なんて言われてしまうけれど、圭ちゃんと買い物袋と一緒に抱えていると、どうしてもそうなる。
最近、一人言が増えたと思う。
私たちの住む郊外のアパートは、価格的にも造りも2DKの新婚さん向けのもので、ほかに似たような家族が3世帯住んでいる。
赤ちゃんを育てるにはもってこいの、恵まれた平和な環境。
贅沢とは言えないが、慎ましくも幸せな日々。私の望むものを全て与えてくれた夫、圭吾くんにはすごく感謝している…
だから家計は苦しくっても、お肉をしっかり食べさせてあげたい。
んー、私ってばいい妻!
そんな幸せを噛み締めていた時。
「…あれ?」
私の目に、異様な情景が飛び込んできた。
リビングにある箪笥や鏡台、大切なものを入れている戸棚の引き出しまで、全て引き出されている。
そのうえ、あちこちに服やら何やら散乱し、バケツをひっくり返したみたいにぐっちゃぐちゃになっている。
「うそやだ、泥棒?!」
私はすっかりパニックに陥った。
やだやだ、どうしよう。
こんな時はどうしたらいい?
どうすべき?
そうだ、まずは警察に通報を…
いや、それよりまず、大事なものが盗られてないか確かめるべきか。
とりあえず夫の圭吾に連絡しよう。
大きなトートバッグの奥底にあるはずの、スマホを取りだそうと奮闘していた、丁度その時。
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