第14回:とにかく私は目の前の世界を必死に征服するんで、それに付き合ってくれてどうもありがとう、って感じです。

ーーモードランド征服跡地。かの有名な初代魔王、モードランド卿の出身地であり、エリザさまなど歴代の魔王たちが激戦を繰り広げた、伝説の戦場跡地である。月日とともに朽ち果てた遺跡では、少し地面を掘れば戦死者たちの骨が出てくると言われている(写真25)。征服ファンの間では長らく『聖地』として親しまれたこのモードランドに、我らが魔王さまも九村目に足を踏み入れた。征服者のみならず、勇者もまた一度はこの地を目指すと言われる場所で、魔王さまの想いを辿る。



□目標であっても目的地ではない□



花:九村目は『モードランド征服跡地』です。一見するとただの荒地ですが……地面に半分以上埋もれた建物が特徴的ですね。

魔:ここには昔王宮がありました。デルリィン平野に移る前は、ここが王都だったんですよ。歴代の戦争により建物の多くは壊され、打ち捨てられた結果今では砂漠に近い姿になってしまいました。

花:『モードランド』は、征服者も勇者もロックバンドも映画俳優も劇作家も、一度は目指すと言われる人気のスポットですね。『モードランド』で観客をいっぱいにできれば、一人前と言われています。

魔:ここを目指す若者は多いですね。この大地に立つことが、ある種のステータスと言うか。モードランドが目標地点になってる事は確かですね。

花:魔王さまも、昔はここに来たかったですか?

魔:もちろん。


魔:憧れはありましたよ。この丘の上から見る景色はどんな感じなんだろう? って、子どもの頃寝床でずっと想像してました(笑)。

花:魔王さまが初めてこの地に立たれたのは、前回の戦争、三百年前の事です。当時実際に憧れの地に立って見て、どうでしたか?

魔:もうかなり昔の話だから……(笑)。覚えてない事も多いですけど、若い頃はモードランドに立つのが目標になってて、そこから先なんて考えた事もなかったんですよね。

花:なるほど。


魔:実際に『そこ』に行けるのなんて一握りだけで。行けるかどうかも怪しかったですからね。ただ実際に憧れの地に立ってみて気がついたのは、『そこ』が終わりじゃなかったって事ですね。

花:と言うと?

魔:むしろそこから先の方が長かったと言うか。若い頃は魔王になれば、世界を征服すればそれで終わりなんじゃないかと思っていたんですけど。じゃあ実際に征服した世界をどう維持していくのかとか、宇宙はどうするんだとか、もっと広い世界が私を待っていた。エリザ先輩なんか、今は隠居されて、月面開発に毎日飛び回ってますからね。


花:隠居されても他の分野でご活躍されてると言うのは、魔王さまにとっても励みになったんじゃないですか?

魔:そうですね。モードランドは目標地点の一つではあったんですけど、目的地ではなかった。ゴールはもっと先だったって気付かされたのが、伝説の場所に立って一番の衝撃でした。



ーー『井の中の蛙大海を知らず』と言うことわざ(言葉の技術のようなもの)が、取材班の国にはある。もともとは、広い世界を知らずに自分の知っている世界をこの世の全てだと信じ込むような、どちらかと言うと悪い意味、さげすみの意味の言葉である。だがこのことわざは、後にこう続きが綴られた。『されど空の青さを知る』。少年時代、大海に憧れモードランドが最終目的地だと信じて疑わなかった魔王は、その地に立ちやがて空の高さそして青さを知る事になったのだろう。



□『ここで感動してくれ!』とか『ここ泣くスポットです!』みたいなのは、どうも押し付けてるようで苦手なんです□



花:隠居後の目標について教えてください。

魔:そうですね。今はまだあまり先のことは考えられないと言うか……とにかく今年の夏のラストツアーに向けて、構想を練っているところです。このモードランド征服跡地も、もちろん征ットリストに入れるつもりです。

花:それは楽しみですね。チケットは既に完売だとお聞きしました。

魔:ありがとうございます。

花:ファンへのメッセージがあればどうぞ。

魔:メッセージ……毎回毎回、感謝しかないですね。とにかく私は目の前の世界を必死に征服するんで、それに付き合ってくれてどうもありがとう、って感じです。

花:最後も感動的なツアーになる?

魔:うーん。征服地ごとに『ここはこんな街にしたい』とか『この村は技術的にこんなところが革新的で』みたいな、征服する側の意図はもちろんあるんですけど。だけどやっぱり、それをどう受け取ってどう感じるかは、受け取る人の自由だと思うので。その村を作っているのは征服者ではなく、実際にそこに住んでる人たちですから。だから『ここで感動してくれ!』とか『ここ泣くスポットです!』みたいなのは、どうも押し付けてるようで苦手なんですよね。無理やり感動的な作りにするつもりはないけど、とにかく毎回必死にやるだけです。


花:なるほど。だけど魔王さまのその必死さが伝わってくるから、毎回ツアーは感動的なものになっているのかもしれませんね。

魔:そうだと良いんですけど……(笑)。

花:お話を聞いていると、非常にファンの方を大事にされているのを感じます。今回隠居を決められツアーも最後だと言うことですが、若い頃と今で何か心境の変化などはありますか?

魔:うーん……若い頃はひたすら、自分のために征服活動をしていた感じなんですけど。でもある時、ツアーにしろライブにしろ『それを見たり聞いたりしてくれる人がいないと成り立たないんだな』って気がついて。それからまた何百年か歳を取って、『やっぱり自分のためでもあるよな、もうちょっと自分の好みとか色を出しても良いかな』と思えるようになりました。一周回って、戻って来た感じです(笑)。


花:(笑)。さて、長らくお届けしてきた世界征服の村紹介も、次の十村目が最後と言う事になります。

魔:はい。

花:最後までよろしくお願いします。最後は魔王さまの故郷でもある『ノドカナ村』ですね。

魔:こちらこそ、よろしくお願いします。最後なので、せっかくなら私の家で手料理を振舞いますよ。

花:え!? 良いんですか!?

魔:もちろん。

花:と言うか魔王さま、料理なんて出来るんですか!?

魔:失礼な(笑)。私だって、カレーくらい作れます。

花:ルーの中にゴブリンの目玉とかゴロゴロしてたらどうしよう……。

魔:そんな事ないです。普通に人間の方でもおいしく召し上がっていただけるよう、お作りします。花:やったあ! 楽しみにしてますね!

魔:こちらこそ。



(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る