属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?
紺野咲良
事の発端
『べ、別にアンタのことなんか好きじゃないんだからねっ!』
――《ツンデレ》。
『あ、あの……ね? 私……ずっと前から、お兄ちゃんの事が――』
――《妹》。
『…………すき』
――……《クーデレ》、か?
「ねぇねぇ、どれがグっときた?」
「……ん~」
全部だよバカやろう。
しかし私はそうとは答えずに、悩んだ振りをする。〝どれが一番か〟と素直に悩んでしまったのもあるが、そもそも答えてしまうと『脈がある』と思われてしまう可能性がある。なのでここは答えないのが正解だろう。
「んー、どれも不合格? じゃぁやっぱり――」
私が悩んでいる様に勘違いしてか、セレナはまた新しい演技を披露してくれるようだ。それ自体は見て損はない――むしろ眼福だとすら思うので、ありがたく拝ませて頂く。
『ねぇ……僕じゃダメ、かな……?』
――《僕っこ》……いや、《ショタ》……?
『いい加減オレのもんになれよ。意地ばっか張ってねえでさあ?』
――……なっ!? 《俺様》だとぉ!!
「やっぱりカナちゃんはこういう方が好み?」
うむ、確かに間違ってはいない。いないんだが――
「それをやるなら〝男キャラ〟にしてきてくれないか?」
「えぇ~……どうしてもそーなるの……」
今私たちがこうして言葉を交わしているのは、『VR』のオンラインゲームの世界だ。
このゲームの自由度は恐ろしいほどに高く、こと職業に至っては非戦闘時ならば好きな時に変更できるシステムがある。
なので別のキャラクターを育てるメリットもさほど無く、その数少ない動機としては、別種族のキャラでプレイしたくなったり、私のように異性のキャラを作成したくなったりした時ぐらいなものだ。
セレナの演技はなかなかどうしてグっとくるものがあるし、私の
けれど本当に男性キャラでそんなセリフを言われた暁には――正気でいられる自信が全くないのだが。
「《
「最悪《ニューハーフ》でも《シーメール》でも……いっそ《ふたなり》でも構わないが」
「いやいや! そんな性別、このゲームには存在しないからね……?」
「ああ。もちろんわかってて言ってる」
そりゃ私だって純物の男性がいいし。生えてればいいってもんじゃないんです。いやでも、そういった性別にはそれぞれにいいところがあるから、それはそれで妄想が
……こほん。失礼。
そもそもなぜこんなことをしてたか、と言うと。
これは今更改まって言うことでもないと思うが、彼女――『セレナ』は女性キャラクターだ。
私――『
前々からどうもセレナは環のことを狙っているらしい。『カナちゃんってどんな子がタイプ? もし環くんが結婚するとしたら、どういう子が良い?』などと唐突に聞かれしまい、答えに
理想の結婚相手を演じようとするなど、なんだか発想がズレている気もするが……あえて突っ込まずに泳がせておく。理由はどうあれ、この子の色んな表情が見れるのは素直に嬉しい。至福の時なのだ。
まあ強いて言うならば、今しがた見せてくれた《俺様》属性な奴が望ましい。もちろん〝男キャラ〟の、である。
……
「なあ。なぜそんなに環と結婚したいんだ?」
「ん~。ほら、このゲームだと同性婚ってできないでしょ」
「そう言われればそうだな。しかしわざわざ私のサブキャラとする必要があるのか?」
このゲームにおける結婚というのは、様々な恩恵に授かれる有り難いシステムではあるが、それに掛かる費用も半端じゃない。そして結婚したキャラ同士で行動を共にすることによって、その恩恵は最大限に発揮されるため、滅多に動かさない私のサブキャラクターとしても元が取れるかは怪しいのだ。
「ほ、ほらぁ。中身がカナちゃんだからってのもあるけど、環くんって強いじゃない? 安心感あるっていうか、パーティ組んだ時にやりやすいっていうか~……」
手厳しいようだが頷ける動機だとは思えないし、何やら煮え切らない反応だ。そう簡単には本当のことが話せないほど、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。
あまり深入りするのはなんだか気が引けてしまうが、こちらにだって事情はある。よっぽどのことでなければ許可などできない。
「とは言っても、私のメインは
セレナはモテる。
ぱっちりと大きく、魅力的に輝く
衣装には特に気を配っていて、全てを生産スキルで自作する上に、その染色やあしらう装飾にも正気を疑ってしまうほどお金を注ぎ込み、細かい部分にまでこだわる。戦闘用の衣装も機能性より見た目を重視しており、特に気に入ったものがあれば、バカみたいに強化してまで意地で着続ける。
そうして作り上げた彼女の外見は正直あざとさを感じてしまうが、その天真爛漫な性格に媚びるような不快さは一切ない。コミュニケーション能力も恐ろしく高く、若干天然が入ってて隙があるところもまた、男女問わず受けが良い。
私は彼女の相方ではあるが、『まったりと仲良く遊んでいる一番の友達』な認識だ。別段独り占めしたいわけでもないので、狩りでの効率を求めた他の相方を作ろうと構わないと思っている。
「んー、でもさ」
「なんだ?」
人差し指を唇に当てて何かを考え込む仕草がこれまた可愛らしい。
やがて、無邪気な微笑みを――天使かと見紛うほどの微笑みを、私へと向けてくる。
「カナちゃん以外の人と、そういう関係になるつもりないし?」
「…………っ」
……あぁ、だめだ。
この子ってば、ほんっとーに可愛いなぁっ、もう! せっかく取り繕っていた口調が崩壊しちゃうじゃない、ばかっ!
あー、セレナの花嫁姿かぁ……見てみたい気もする、けど……うーん。サブキャラだから悪い気もするってのもあるけれど、あのキャラは結婚とかはさせたくない気もしちゃうんだよね。
元々『環』は、私の理想を詰め込んだ――『私の嫁』なんだ。
昔、他の人が自分のキャラを『俺の嫁』と称して遊んでいたのを見かけた。自キャラで目いっぱいお洒落をして、理想のキャラを作り上げて。それを愛でている様を
環でいる際には、その口調も私の好みなように演じていた。お陰ですっかりその口調に慣れてしまい、女キャラでいても同じような言葉遣いになってしまっている。
……それが
話を戻すが……私が環を結婚させたくない理由には、どうかご理解を頂きたい。たぶん私は女性でありながら、『父が娘を嫁に出したくない気持ち』と似たものを味わえてるのだと思う。すっごく貴重な体験してる気がする。
なので、私の正直な想いそのままを
「いやっ! 何があっても、うちの嫁は婿になど出さんからな!」
「な、なんかすっごく支離滅裂なこと口走ってるよ?」
おまけにすっごくフラグっぽい気がする――と言った当人すら突っ込みを入れてしまう。
「それならこっちだって、カナちゃんに結婚を認めて貰えるよう頑張るしーっ!」
「ははは。せいぜい無駄な努力に励むことだな」
……だからどうしてこうもフラグめいた発言が出てくるのだ、私よ。
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