とある独裁者の決断

BrokenWing

第1話 とある独裁者の決断

          とある独裁者の決断



「将軍閣下! 今回は12名でございます!」


 ビシッとカーキ色の軍服を極めた、初老の男が、無表情で食事中の僕に報告してくる。

 胸には沢山の勲章。彼はこの国で、僕の次に偉いと『言われている』奴だ。

 何故、『言われている』という表現なのかって?

 その理由は明白だ。この国では僕が最高。僕に命令できる奴は誰も居ない。なので、僕からすれば、僕以外の奴の事なんてどうでもいいんだ。こいつらの階級とやらも、別に僕が決めている訳じゃあない。こいつらの中で勝手に決めているみたいだ。

 そりゃ、僕も結構口出しはする。この前だって、不味い料理を作った料理人を特殊工作員に配置換えしてやった。きっと彼ならば、さぞかし不味い飯を作って、敵国に損害を与えてくれるだろう。


「じゃあ、食事が済んだら行くよ。準備しておいてくれ。え~っと、お前、なんて名前だっけ?」

「はっ! 準備は既に整えております! 更に、私の名前はツルット・ピカールと申します! 覚えて頂ければ光栄でございます!」


 僕は、この男の帽子を奪いたい衝動に襲われたが、僕は大人だ。そんな失礼な事はしない。


「あ、ツルット、僕のデザートのポテチが落ちてしまった。お前が食っていいぞ」

「はっ! ありがたきお言葉! しかし、このような高価な物を私ごときが頂いていいのでありましょうか?」


 そう、うちの国は、何故か慢性的な飢饉状態だ。油だって貴重なのだ。

 なので、ポテチは高級デザートだ。

 ちなみに、僕のお腹に溜め込んであるあぶらは、僕の大事な財産だ。

 誰にも恵んでやる気は無い。


「勿論だ。これはお前への褒美だ。遠慮なく食べてくれ。おっと、ツルット、食ってもいいが、手を使う事は禁ずる!」

「はっ! ありがとうございます!」


 ツルットは、にこにこしながら、口を床につけて落ちたポテチを食う。

 

 そして、ツルットの帽子の鍔が床に押されて、帽子が転がり落ちる。

 辺りが眩い光に包まれる錯覚を起こす。

 うん、何度見ても心癒される光景だ。


 しかし、僕はそこで異変に気付いた!


「これは何事だ、ツルット! 頭頂部に一本、生命の兆しが見えるぞ!」

「はっ! 将軍閣下! これは大変失礼致しました! お目障りならば、処分致しますが!」

「いや、それには及ばない。うん、僕に考えがある。取り敢えず、今日の予定を済ませてしまおう。ツルット! 案内してくれ」

「は! その12名も、将軍閣下、御自らに手を下されることに、喜びを隠せない様子。全員、感激のあまり、一言も発せずに待ち侘びております!」

「そうか。それは良かった。僕もあまりこういう事は好きじゃないのだが、これも我が国の為、ひいては人民の為だ。彼等も納得してくれるだろう」


 僕は口ではこう言ったが、実はこれこそが、僕の唯一無二の娯楽、もとい、やり甲斐のある仕事だ。

 国家と人民の為に決断を下す。これ以上の喜びがこの世にあるだろうか?


 僕はツルットに案内されて、四方を分厚いコンクリートで固められた部屋に入る。


 目の前には、椅子に座らされた、12人の軍服を着た男達が居る。

 全員、椅子に完全に拘束されている。これは当然の処置だろう。

 僕を見ただけで、感激のあまりに飛び掛かってくる奴がたまに居るからだ。


「では、始めるか」


 僕がそう言うと、僕の背後から銃を構えた二人の憲兵が進み出た。

 12人の顔が歪む。涙を流している奴までいる。きっと、これがこいつらの歓喜の表情なのだろう。


「では、最初に聞く。僕も本人から直接話を聞きたいからな。まず、貴様らは全員、我が国の誇る最新鋭航空部隊、『多分ジェット戦闘機』の、整備兵ということでいいな?」

「「「「「「「はい! 相違ございません!」」」」」」


 全員が一斉に返事をする。


「では、何故そのような栄えある職務の貴様らが、仕事を放棄した? クーデターでも起こすつもりか?」


 すると、一人が答える。ふむ、こいつだけ勲章の数が他の奴よりも多い。多分こいつが整備兵長なのだろう。


「はっ! 僭越ながらお答え致します! 我らは仕事を放棄した訳ではございません! 我らが愛する『多分ジェット戦闘機』は、現在、燃料不足の為、活動できないのであります! 従って、我らにはすることが無いのであります! 誓って申し上げます! 整備そのものは常に万全であります! 燃料さえあれば、海を越え、あの金髪豚野郎に、いつでも正義の鉄槌を下せる状態であります!」


 なんと! 我が国には優秀な航空部隊があるにも関わらず、燃料が無いと!

 油が貴重だとは知っていたが、そこまでとは!

 あ~、そうか。経済制裁とか言う奴だな。

 しかし、これは嬉しい話だ。

 こういうのが、僕の『お楽しみの時間』を増幅させてくれる。


 僕は決断を下す。


「では、処分を申し渡す! 貴様ら12名は、明日より隣国の、『鳥人間コンテスト』への参加を命ずる! 燃料が無ければ人力でだ! この処遇に不満はあるか?!」

「いえ! 我らの技術力を存分に発揮するであります!」


 うん、いい決断だったようだ。全員、歓喜のあまり泣いている。


「続いて申し渡す! ツルット! 貴様は明日より漫画家のアシスタントに転属を命ずる! お〇Qとか、さ〇えさんのお父さんとか、創作活動のモデルとして、存分にその容姿を活かすが良い!」

「は! 光栄であります! これで私の勲章も一つ増えるであります!」


 国家人民の為に、有能な人材を適所に配置する。僕の決断は、この国を更なる発展へと導くだろう。

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