さいわいなことり

東雲 彼方

わたしはわたし。あなたのものじゃない。

 わたしは『さいわいなことり』。幸せなんだって。幸せな家庭に生まれたから、『さち』なんだって。



 でも、



 本当にわたしが幸せな家庭に生まれたのかはよくわからない。友達に言わせると「それは偽りの幸せ」と言われる。幸せって、なんだろう。



 わたしは家族というコミュニティの中で、家という鳥籠の中で飼われている。勿論、わたしにという権利はない。すべてパパとママの言うことを聞かないといけないの。言うこと聞かないと、怒られちゃう。「外は危ない」んだってさ。







 ――私は父と母の言うことを聞けば幸せになれるんだと思ってた。



 けどそれはきっと"洗脳"で。幼かった私はその事実に気付くことが出来なかった。ちゃんと自分で考えられるようになった今、そう思う。怖いな、と。




 私は『束縛』という名の鎖でがんじがらめにされていた、偽りの『しあわせ』を語る小鳥。今日も悲痛な声で虚偽に溢れた『しあわせ』を語る。本当の『幸せ』とは何か、いつも考えながら『しあわせ』を哭く。小鳥のうちはこの棘の鳥籠から出ることは叶わない。はやく、大人にならなければ。この腐りきった鳥籠から抜け出して壊さなければ。


『幸』が『しあわせ』を壊して本当の『幸せ』を探しに行くの。もう縛られない。



 だからまずは、いい子のフリを続けなくては。家から追い出されてもまだ一人で生活できる力は無い。けれど貴方たちに洗脳されたままではいないから。わたしは私。貴方のものじゃない。







 偽りの『しあわせ』を壊すために、この『しあわせ』を偽らなければいけない。




 私は稀代の詐欺ペテン師さ。肉親をも騙す偽りの存在。荒野で躍り狂う道化ピエロなの。



 もう少し、あと数年は躍り続けなければ、彼らの掌で。大嘘吐きは死ぬまで笑顔を絶やさずに、嗤い続けろ。



 私は『さいわいなことり』だから――。

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