07. 第三試合 試合直前
第二試合で戦った両校が退場するのと入れ替わりに、第三試合で対戦する泉野高と大阪東雲の両校がグラウンドに入場する。グラウンドキーパーが試合開始に向けて懸命に整備する中、先攻の大阪東雲は素振りで、後攻の泉野高はキャッチボールで、それぞれのベンチ前で体を動かしてその時を待つ。
登板を控えている岡野も、最終調整のためチームメイトを相手に軽めのキャッチボールで仕上げに入る。いつ試合が終わるか見当がつかず、コンディションを整えるのは難しかったが、肩はまずまずの仕上がりでホッとする。
グラウンド整備がいよいよ佳境に迫ろうとする中、キャプテンの新藤がナインを集めて円陣を組む。真ん中に立つ新藤が、おもむろに話し始めた。
「みんな知っていると思うが、テレビも新聞もネットも東雲の勝つと予想している」
プロの解説者から高校野球ファンに至るまで、王者大阪東雲の勝利はまず間違いないとする見方が大勢を占めている。一方の泉野高は悲観的な意見ばかりで、中には一切触れられていない記事もあった。その事実は泉野高ナイン全員が知っていた。
「誰も俺達が勝つと思っていないのなら、俺達に期待していない奴等を見返してやろうぜ!」
新藤の檄に全員が「オウ!」と応じる。そうだ、俺達は負けに来た訳じゃない、勝ちに来たのだ。例え圧倒的な戦力差があろうと、誰も勝ちを望んでいなくても、勝ちたいんだ。
「やるぞ!」
「オー!!」
キャプテンの一声で、チーム全体の士気が鼓舞された。やってやろうじゃないか、史上最大の大番狂わせを。体育会系の熱っぽさに欠ける岡野も、この日ばかりは周りの熱に感化されたか、闘志を滾らせていた。
内野の土に水が撒かれ、ラインパウダーで線が引かれていく。グラウンド整備もいよいよ佳境に入った。両校ナインもベンチ前に並び、試合開始の時を今か今かと待っていた。
テレビや新聞、ネットの予想では“大阪東雲圧勝”とする見方が九割九分、唯一石川の地元新聞社だけが“諦めなければ勝機は必ずある”と半ば自棄[やけ]っぱちな見方をしていた。特に関西メディアは大阪府代表の大阪東雲を応援する色合いが強いのは理解出来るが、全国展開している大手メディアから見放されているのは流石に堪えるものがある。
でも……みんなが大阪東雲の勝利を望んでいるとしても、負ける気は一切無い。
驚かせてやる。下馬評を覆してやろうじゃないか。
そうこうしている内に、審判団が裏から出てきた。グラウンド整備も完了しており、決戦の舞台は整った。
どんな結末が待っているか想像がつかない。試合終了のその時、自分は笑っているか泣いているか。どうせやるなら、悔いが残らないよう全力を尽くそう。
そして……ほぼ同時に両校ナインがホームへ向けて走り出した。審判団も駆け足で近付いてくる。
大観衆の拍手を受けながら、両校ナインがホームベースを挟んで整列する。
(……オーラが、違う)
間近で大阪東雲の選手を見たが、みんな自信に満ち溢れているように感じた。これが全国制覇を成し遂げた者の風格なのか。
それでも……怖じ気づいたり怯んだりする気持ちは無い。相手は同じ高校生なのだ。必ずどこかでチャンスはあるはずだ。
「お互いに、礼!」
「「お願いします!!」」
主審の一声で両校ナインが頭を下げる。直後、場内から再び拍手が湧き起こった。予定していた時間から大分遅れたが、いよいよ試合が始まろうとしていた。
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