04. 公式練習
三月十九日。泉野高ナインは、憧れの聖地・甲子園に立っていた。
十八日から二十日までの三日間、センバツに出場する高校が順次公式練習を行うことになっている。ただ、三日間で全三十六校が練習するには時間的制約があり、各校与えられた時間は僅か三十分だけだ。
それでも、岡野は夢の舞台を踏めたことに心の底から感動していた。
(……夢、じゃない。これが、あの、甲子園……)
野球を始めた頃から、高校野球の試合をテレビで見ていて「いつかあそこに立ちたい」と思った回数は数知れず。しかし、それは妄想のようなもので、自分がその場所に立てるとは思っていなかった。地方予選一回戦も勝てない万年弱小校の泉野高で「目標は甲子園!」と息巻いても、夢物語だと笑われるのは分かっていた。
その夢物語がまさか実現するとは、想像もしていなかった。
内野の土を、スパイクでグッと踏み締める。確かな感触が感じられる。これは夢でも妄想でもない、紛れもない現実だ。本当に甲子園に居ると確信した瞬間から、喜びが胸の内からじわじわと込み上げてきた。
「投内連携やるぞー! 外野はキャッチボールしながら待機!」
キャプテンの新藤が呼び掛ける声で、岡野は我に返った。
感慨に耽るのは後でいい。まだまだ夢は終わらないのだから。
自らのグラブを右拳で叩いて気合を入れる。今は目の前の練習に集中だ。
甲子園のマウンドの感触を入念に確かめていたら、あっと言う間に持ち時間の三十分が来てしまった。夢の中に居るような気分だったが、また同じ場所に立てる機会は残されている。名残惜しい気持ちに後ろ髪を引かれつつ、岡野はマウンドから下りて片付けに入った。
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