春を照らすカクテル光線

佐倉伸哉

01. 北信越予選




 泉野高校。石川県金沢市にある公立の高校で、県内でトップクラスの進学校として広く知られている。偏差値の高い有名大学へ入学する生徒も決して少なくない。

 学業の面で優秀な成績を残している泉野高校であるが、この秋にスポーツ面でも注目される出来事があった。

 毎年一回戦負けの弱小野球部が、春の選抜高校野球石川県予選において、なんと準優勝に輝いたのだ。創部以来の快挙に、学校関係者や生徒・卒業生は歓喜に沸いた。

 決勝戦では国民的メジャーリーガーも輩出した名門の星城に大差で負けたものの、準決勝では近年力をつけている航空学園能登に完封勝利を収めるなど、実力校相手に互角以上の戦いを繰り広げた。

 あわよくば、このままの勢いで北信越予選に臨んで、高校球児憧れの聖地である甲子園の舞台を踏めるかも……!!と期待を膨らませる人も少なくなかった。

 しかし―――現実はそんなに甘くなかった。

 北陸三県に新潟・長野を加えた五県の成績上位校がトーナメント形式で戦う、北信越予選。北信越地区に割り当てられた出場枠は、三つ。その限られた三枚の切符を賭けて、各校が凌ぎを削るのだ。

 石川県二位の泉野高は、初戦で福井県一位の敦賀実業と対戦。過去甲子園に何度も出場しており、プロ野球選手も数多く輩出している伝統校だ。投打にバランスの取れたチームで、福井県予選でも危なげなく勝ち進み優勝している。

 対する泉野高は、徹底的に鍛え上げられた鉄壁の守備と技巧派右腕の岡野の好投で勝ち上がってきた。失点を如何に少なく抑えるかが、勝敗のポイントとなる。

 試合は一点を争う投手戦になると予想された。泉野高の先発は、エースの岡野。敦賀実業の先発は、プロ注目の絶対的エース藤原。

 初回。泉野高の岡野はスローカーブを低めに集めてゴロを打たせるピッチングで三者凡退に抑える上々の立ち上がり。一方、敦賀実業の藤原は一四〇キロ後半のストレートを主体にカットボール・カーブ・縦に落ちるスライダーを多彩に織り交ぜ、三者三振と圧巻の滑り出しを見せる。

 泉野高の岡野は再三ランナーを出すものの、要所を締めるピッチングで五回まで無失点に抑えた。それに対して敦賀実業の藤原は五回まで一人のランナーも出さないパーフェクトピッチングで、泉野高打線を完全に封じ込めていた。

 岡野の踏ん張りでどうにか持ち堪えていた泉野高だったが、攻撃の糸口さえ掴めず苦しい展開だった。

 六回表、敦賀実業の攻撃。先頭の増川がセンター前ヒットで出塁すると、続く直井が送りバントでランナーは二塁に。次のバッターをレフトフライにして二アウトとするが、続く升がレフトの頭を大きく越えるツーベースを放ち、二塁ランナーが生還。遂に試合の均衡が破られた。岡野は後続を抑え、味方の援護を待つ。

 しかし……

 八回に四番で女房役の新藤がライト前ヒットを放って藤原の完全試合を阻止したが、反撃もここまで。好投手藤原の前に手も足も出ず、一点に泣く形で泉野高は初戦で姿を消した。

 その後、北信越予選は開催県の地元・星城が優勝、泉野高を破った敦賀実業が準優勝という結果で幕を下ろした。この二校に加えて、三位決定戦に勝利した新潟名峰が春のセンバツ出場権をほぼ確実とし、敗れた航空学園能登が補欠に回る見込みとなった。

 初戦敗退の泉野高はセンバツ出場がほぼ絶望的な状況だが、ナイン達は落ち込むことなく夏を見据えて動き出していた―――

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