夜の帳
耕輔は、ガクッと力が抜けて落ちそうになり目が覚めた。
木の上で眠ってしまったようだ。無理な姿勢で長くいたせいもあり体のあちこちが痛い。あたりは真っ暗で自分が木の上にいることもわからないくらいだった。
あまりにも暗く参ってしまった。明かりが全くない世界を経験するのは初めて、自分の手も見えない。自分の世界にいた頃は、街には必ず明かりがあったし、ない場所でも星明かりはあった。明かりを消した室内が暗いといっても電子機器の小さな明かりはあったものだ。
夜はまだまだ始まったばかり、この先眠ってしまって落ちない自信もない。まずはトリガーを取り戻さなくては、と思いそれがあったあたりに目を凝らして見るものの全くわからない。はたと思い立ち玲奈の名を呼んでみた。
「川原さん。
いるの?」
目の前に突然光る金色の目が浮かびあがる。
驚きと恐怖で落ちそうになり思わず声を上げてしまう。
「おうっ!」
ややあって激しい動悸が少し収まってから声をかけた。
「あーびっくりした。そこに居たんだね」
「玲奈、ここにずっといたよ。
耕輔見たらびっくりしておかしいの」
この川原さんはやっぱりいつもと少し違うな——いつもに増して変だ——と思いつつ、今は考えないことにして質問する。
「僕のトリガー……、
えーっと、これくらいの大きさの変な形の楽器」
真っ暗闇の中でわかるのかと思いつつも仕草で大きさを示す。
「上の方にあると思うんだけど、取って来てもらえるかなぁ」
弱気にお願いする。相手が女の子だと思うと強気——別に普通なのだが——になれない、いつもの耕輔だった。
フクロウ玲奈は暗闇でも目が見えるらしく「分かった」というと光る目が消え羽ばたきの風を感じる。上の方で枝の擦れる音が聞こえ、またかすかに風を感じたと思った直後手に何か押し付けられたのでしっかりと握って受け取った。
ひとまず安堵する。試してみたかった方法を行ってみる。
目の前に光の輪が現れる。大きくなったり小さくなったりして消える。
「うん、うまくいきそうだ」
暗闇の中で耕輔は微笑む、自分のアイデアに満足していた。
それから、うなずいた後に正面を向いてトリガーを握りしめ集中する。
空中に次から次へと様々な形の光が浮かんでは消える。耕輔は試していた、電界、磁界を様々な形、タイミングで発生させ維持できる方法を。元の世界ではこんなにコントロールできなかった。どの魔法の効果も一時的で範囲も限られていた。それがこの世界では大気いや、世界に満ちる魔力と言っていいのかエネルギーが自分が行使した事象改変を維持し続けるように感じられた。
元の世界では現実に干渉すると、物理現象を起こすと、世界が借りを返せとばかりになかったことにしようとする。
そんな感覚を覚えていたが、ここでは世界がよし分かったとばかりにいくらでも無担保無利子で貸しを作ってくれているようだった。
ただ、ヴェガの一件で分かったのは、誓いなどの意思の関わる誓約なども、意識するしないを関わらず条件によっては、世界が執行を強制すると言うことだった。
もしかしたら自分のいまの状況は、別の形で借りを返せと言われているのかと考えたが、検証の方法もなかったのでそれ以上考えることを諦めた。そして空中でのプラズマ発生の実験を再開した。
電磁界は光に直接影響を与えることはできない。そのため、耕輔は直接光を発生できなかった。光は電磁界の変化が粒子となって伝播しているものだ。電磁界の変化が仮想光子にエネルギーを与え実光子——物理的実体——となって目に見えるようになる。光の周波数で電磁界を振動させられれば直接光を作れたかもしれないが、それは耕輔の手に余った。
随分時間が経ってしまっていた。時計がないので時間はわからないが感覚的に真夜中をすぎ二時くらいの感じだった。
耕輔は
「ホウ、耕輔やったのね。新しい魔法覚えたの」
トリガーをカバンに戻し玲奈に頷き返した。
耕輔は長時間魔法を使ったので結構疲れていた。リングの魔法を解除し、体の位置を落ちないように調整して仮眠を取ることにした。明かりは使えるようになったがこのままでは獣などにあった時に何もできない、せめて魔法的疲労はもう少し回復したかった。
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