あの白い鈴が咲く頃に

フミ

第1話 A.I.D

20××年。

機械や科学技術が急速に普及したこの世界では、様々なものが生み出されていた。


そのひとつとしてあげられるのが人工知能。

それが搭載された人形が生み出されたことによって、人々の暮らしは大きく変わっていった。


危険地帯を探索させるため、人間には厳しすぎる仕事をこなさせるため、あるいは日常の癒しやサポートとして。

その有能さには数多くの研究者も驚き感慨した。


主人から貰った美しい衣装を身にまとい街中を動き回る人形たち。

独特な紋様を刻まれた銀の髪飾りを付けた彼らは―――


Artificialアーティフィシャル Intelligenceインテリジェンス Dollドール』である。


略称AIDと呼ばれる彼らが人々の注目を集める理由は、職場や工場などで様々な活躍を果たしているからだけではない。


この街で作られるAIDは極めて精巧で美しかったのだ。


柔らかな髪の一本一本。

白く滑らかでふっくらとした肌。

ほんの少しだけ染められた薔薇色の頬。

愛らしく、それでいてどこか不思議な魅力をもった瞳。



そんな美しく愛らしい人形たちが動き、感情を持ち、愛らしく微笑み、主に忠誠を誓う。

それが可能とされていた、夢のような時代。


しかし大量生産すればするほど当然『失敗作』とされる、感情が表せなかったり、うまく動くことができないAIDだって存在する。

全部が全部、完璧に作られるわけではないのだ。


人ではない、から尚更扱いはひどいものだった。

本物の命ではないことをいいこととして、軽々と暴力をふるったり捨てていったりする者もとても多かったのだ。


そんな人形たちは可哀そうなことに、人目に付かないところでひっそりと壊れ、部品はすべて業者に回収されてゆく。



―――この路地裏にも一体の人形がいた。



豊かな感情を持つことができなかった、技術者の失敗作とされたAID。


名前もない。生まれも知らない。各地をたらいまわしにされた挙句、気づけばここにいたのだ。

彼女はいつの間にか折れてしまった右腕を眺めながら、ただただ月明かりに照らされていた。


ほんの少しだけ残っている感情の中で、このまま消えてしまうのだろうと思いながら・・・

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