グルメ・イン・ア・ラビリンス
綾部 響
迷宮の出現する大陸
神世界「ウトビアナサオン」に存在する巨大大陸「クスィラソル大陸」……。
この大陸には、複数の地下迷宮……通称“ラビリンス”が存在しています。
でも、最初からあった訳ではありません。
僅かに昔……私達が生まれる、ほんの三十数年前……。
今から50年前に、突然“初めの”ラビリンスが出現しました。
地上に顔を出したラビリンスからは、今までに遭遇した事も無い様な醜悪で強力な怪物……モンスターが多数出現したのでした。
それまで平和としか言い表し様の無い世界で暮らして来た人々に、突如襲来した不幸を振り払う事は出来ません。
多くの村が滅び、信じられない程の人達が犠牲となってしまったのでした。
この大陸で唯一存在する王国の国王様は、急遽「騎士軍」と言う軍隊を組織なさり、その急変に対処なさろうとしました。
でも現れたモンスターは武装した兵士達よりも強く、王国の騎士軍は被害を食い止めるだけで精一杯だったそうです。
―――だけど同じ時期に、私達人間にも変化が現れました。
大陸の至る所で、僅かな人数ですが特殊な力……後に「タレンド」と呼ばれる能力を保有する者が現れたのです。
その能力は今まで人々が到底持ち得なかった、不可思議でとても強力な力でした。
その力を以て、人々は出現したモンスターを地上から駆逐する事に成功したのでした。
でも、それだけでは到底安心出来る事ではありません。
モンスター達は未だに多くラビリンスの中で存在し、虎視眈々と地上へ侵出する機会を窺っていると考えられたのです。
そこで王様は、その「タレンド」を保有する者達だけで編成したラビリンス攻略部隊を騎士軍とは別に組織して、ラビリンスへと突入させ怪物たちの駆逐を命じたのでした。
幸いにも……と言って良いのでしょう、中の怪物たちは一部を除いて、能力を保有する者達……タレンドキャリアーの手に余る様な物は居ませんでした。
次々と出現する怪物達を倒しつつ、
想像に反してその
―――そこで彼等「タレンドキャリアー」を待っていたのは、全身に青白い光を纏う巨大熊の様な怪物でした。
持てる力を全て使い、タレンドキャリアー達はその怪物と戦いました。
しかし、ラビリンスのボスであろうその怪物は強い力と強靭な肉体を持ち、恐ろしい程素早く動いたと言います。
人の力を大きく超える能力を持つ彼等と言えども、簡単にその怪物を倒す事は出来ませんでした。
長い戦いの末に、幾人もの仲間が力尽きながらも、何とか彼等は怪物を倒す事に成功しました。
そして激戦を終えた彼等は、そこに置いてあった不思議な煌きを放つ水晶に気付いたのでした。
美しいながらも不気味な雰囲気を持つその水晶は、そこにいた戦士達によって直ちに破壊されました。
すると不思議な事に、ラビリンスに出現する怪物の数が激減したのです。
それを以て地下迷宮の攻略を完了したと確信した戦士達は、漸く家族達の待つ地上へと引き返したのでした。
地上に戻ったタレンドキャリアー達は歓喜の声援を以て迎えられ、王城にて王様に労いの言葉と多くの報酬を与えられました。
―――でも、地上に起きた異変はそれだけで終わりとはなりませんでした。
数日後、別の場所で新たな
そしてその
しかも新たなラビリンスはその前の地下迷宮よりも深く、そして出現するモンスターも強力となっていったのです。
そして地上の人間たちと、出現するラビリンスから現れる怪物達との終わり無い戦いの日々が続いたのでした。
そうしてそれは、50年たった今でも決して終わる事無く、今も尚新たなラビリンスの出現に怯える日々となっていたのでした。
しかしラビリンスの出現は、人々に絶望と恐怖を植え付けるだけではありませんでした。
「タレンド」と言う新たな、そして強力な力の顕現は人々に希望を与えるものでした。
ラビリンスから出現する怪物達と、互角以上に渡り合えるだけの力となるこの「タレンド」ですが、その「
王様はその「タレンドキャリアー」を新たに「冒険者」と銘打って組織し、各地に出現したラビリンスの調査や対処に当たらせました。
軍と違いかなり自由を約束されている冒険者達は王国各地に散らばり、王様の期待に応えて着実に成果を上げて行きました。
そうした冒険者達のお蔭で、ラビリンス内に生息する怪物達の生態やそこに生息する植物、採掘出来る鉱物の実態が公にされていったのです。
それにより人々の暮らしにも大きな変化が生じました。
今までには無かった強力な武器防具の生成。
怪物の肉やラビリンス内の植物を使った食べ物や飲み物等、実に多くの恩恵も齎してくれたのです。
それに拍車を掛けるかの様に、様々な種類のタレンドキャリアー達が現れました。
特に鍛冶系タレンド保有者の造る武器防具は殊の外強力で、徐々に強くなってゆく怪物達にも負けない程強い武器や、強力な攻撃に耐える防具を作り出していったのです。
道具系タレンドキャリアーの造り出した様々なアイテムは、ラビリンス探索に大きく貢献しましたし、調理系タレンドの造り出す食事は体力や傷の回復に一役買いました。
それらの事も相まって、冒険者達は順調にラビリンスを発見、攻略していったのでした。
でもある時から、その攻略速度は一気に緩やかとなっていったのです。
攻略が進むごとに深くなるラビリンス。
そして強力になって行く怪物達。
初めて出現して以来、14のラビリンスを攻略する所まで至って、その速度は完全に失われて行き詰ってしまったのでした。
そして人々はラビリンスのモンスターに怯えながら、それでも日々を力強く生き、ある一つの想いを願うようになりました。
新たな「タレンドキャリアー」の出現を。
今までに無い程強力な「タレンドキャリアー」の誕生を。
でもそんな都合の良い願いが早々に叶う訳もなく、15番目のラビリンスが攻略される事も無く十数年の時が過ぎたのでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます