机
青山天音
第1話 土砂降りの雨を避けて飛び込んだ店は、古道具屋のようだった。
俺は荒い息をおさめる間もなく素早く目を巡らせて、店内を検分した。
どうやら年代物の家具や美術品などの価値のあるものを置いているような店ではなさそうだ。
ざっと見まわしただけでも、あるのは昭和の香りが漂う、時代の波間に打ち捨てられた家具ばかり。
そして同じくらい古びて不恰好な日用品がそれぞれの来歴を断ち切られて脈絡のなく雑然とならべられている。
その間には、まさしくガラクタとしか言いようがない物品が隙間を埋めるように所狭しと詰め込まれていた。
外の喧騒は完全に遮断され、電灯が鳴らす微かなジジ…という唸り声が聞こえるのみ。いや、店の奥では古めかしい柱時計だけが容赦なく時を刻みチクタクと騒音を立てていた。
「まるで墓場みたいだな。俺みたいな者にはおあつらえ向きの場所だ」
いささか自嘲気味につぶやくと、俺は窓から覗かれぬように身を低くして店内を移動した。
そう、俺は今、しつこい借金取りから逃げている最中なのだ。
今しがたも男どもにに追いかけられて、土砂降りの雨の中、こっそりとこの店に滑り込んだのだった。偶然入った店だが、ちょうどいい、ここでしばらくやりすごして…
「いらっしゃいませ」
「ひっ!」
見ると老人が立っていた。店内の物品と同じくらい時代遅れの服。薄汚い汚いエプロンはシワだらけだ。
この店の主人だろうか。
「何をお探し?」
「あ、ああ。いやなに、ただのひやかしで。ちょっと店内をぶらぶらしてもいいですか」
(つづく)
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