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「で、話戻るけど、波瑠ちゃんはどうするの? 父親同士はあんなだから別に大丈夫なんだけど、あなたん家のおばさん、そこまでしてたってことは、ちょっとやそっとじゃ引いてくれないだろうし、ウチの母親もこの縁談、超乗り気なのよねぇ。だから、どうにかしないとホントに僕たち結婚させられちゃうわよ?」
「うーん……私、修造さんがそういうつもりだったって知らなかったから、今日直接キッパリ断れば解決するのかなって……」
「なるほどー、それで彼氏連れで乗り込んできたってわけ? あ、そうだ! ねえ、ちょっと聞いていい? この彼氏さんってさ、ホンモノ?」
「へ?」
「なんかさぁ、似たようなこと考えてたのかなって気がしたのよ。だから、ちょっと聞いてみただけ」
俊輔をチラ見しながら、声を落とし答える。
「あの……一応、本物です」
「おい? 一応ってなんだよ?」
「あ、ごめん! 本物! 本物だからぁ」
「フフフ、良いわねぇ、なんか幸せそうで」
私が俊輔の声音に怯んで慌てて取り繕い、ふたりで言い合いをしている様をニコニコと見ていた修造さんは、その言葉を最後に黙り込んだ。
話に夢中になり忘れていたコーヒーに大量のミルクを入れ啜っているのだが、テーブルに肘をつきチラチラと私たちに視線を向けながら、何かを考えている様子が気になる。
「ねぇ、良いコト思いついちゃった」
「良いコト? どんな?」
「それはねぇ……あ、ごめんなさーい。ちょっと電話!」
惜しい。邪魔が入った。
「舞箏? ごめんねー、ちょっと野暮用でさ。……うん、すぐ行くからもうちょっと待ってて! ……うん。じゃあね」
この後、何か用事でもあるのだろうか、修造さんは電話を終えると、話はまだ途中だというのにそそくさと立ち上がった。
どうしよう。今ここでこの話を打ち切ってしまったら、親たちの期待が膨れ上がって、さらに良からぬ方向へ進んでしまいそうで怖い。
「あの……」
「ごめんねぇ、波瑠ちゃん。この後、ちょっと仕事の要件入っててね、人を待たせてるのよ。結婚のことは、多分もう心配しないで大丈夫。ウチの母親説得できる方法思いついたから。あ、でも……恨まないでね」
「えっ? 恨むって?」
「なんでもない、独り言。じゃ、僕行くわねー。浅野クン、またねぇ」
風のように去っていく後ろ姿を眺めながら、大きくひとつ息を吐く。なんだろう。なぜか、妙な違和感が。
「なんなんだ? あいつ?」
「うん……なんか、良さそうな人だったけど……」
「そうか? 波瑠ちゃん波瑠ちゃんって……ムカツク」
気にしているのはそこですか。苦虫を噛み潰したような俊輔の顔がおかしくて、吹きだした。
「なに怒ってるのかと思ったら……馬鹿みたい」
「馬鹿じゃねえよ! あんな馴れ馴れしくされてさ、おまえもなんだよ? 修造さん修造さんって……」
「ちょっとつられただけでしょ? いいじゃないそんな些細なことで一々怒んなくたってさぁ。それ言ったら、こっちだって不快だったよ? あの人、あんたのことばっかり嬉しそうに見てたの気がつかなかった?」
「馬鹿かおまえ。そんなはず……」
「絶対そうだって!」
と、ここまで言ってふたりでギクッと固まった。
「そういえば、あいつ……女には・・興味ねぇって言ってた……よな?」
「うん……。でも、まさか……ね?」
背筋に悪寒が走る。きっと私たち、考えていることは同じだ。
「どう思う?」
「わかんない。あのお坊ちゃんがお芝居だったら、今日のアレもお芝居かも知れない……」
「そうだな……それも無いとは言えない……」
少し混乱気味の頭と気持ちを落ち着けるには甘いもの、と、手付かずのクリームソーダを手に取った。ストローを刺し、クルクルと溶けたアイスとソーダ水を混ぜながら何気なくテーブルを見ると、そこにあるべきものが無い。
「あ! 伝票!?」
テーブルの端に伏せて置いてあったはずの伝票が消えていた。
「……上には上がいるってことか」
「うん。そうだね」
お坊ちゃん、恐れ入りました。
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