22

「それで? 浅野君とあなたはどうなの? あれから進展あった? それとももう終わっちゃった?」

「えっ? 私と俊……浅野君ですか?」

「そうよー。だって浅野君、本当にあなたが好きで好きでたまらないって顔してたもの。あのときは、あなたの方はまったく彼のこと意識してる感じじゃなかったけど、浅野君がいつまでも大人しくしてるわけないしさ、何もなかったってことは無いでしょう?」

「えっと、それは……その……」

「別れちゃったの?」

「いえ、そうではなくてですね……」

「じゃあなによ? 結局付き合わなかったってこと? ここで会ったのも何かの縁よ。いいじゃない、もう何年も前のことなんだから話してくれたって。私、ずっと気になってたのよねー、あなたたちあれからどうなったのかな? って」


 執拗な追及にタジタジとなった。怖い。理知的なやり手キャリアウーマン吉本さんの素顔が、好奇心旺盛なおばちゃんだったとは。 


 これはもう正直に話して、ごめんなさいをするしか逃れるすべは無い。


「あの……あのときの……あれは、お芝居なんです! すみませんでした!」


 私は立ち上がって勢いよく頭を下げた。一秒、二秒、三秒、四秒、五秒、六秒、七秒……。頭を下げたままの姿勢を保ったが、吉本さんからの反応が無い。少しだけ顔を上げ彼女を見ると、目を丸くしたまま固まっていた。


「あっ……藤本さん!? なに? ……いいから、とりあえず座って!」


 正気を取り戻した彼女が慌てて私を座らせた。彼女の頭の中はきっと疑問符だらけだろう。私の顔を不思議そうに凝視したままだった。


「吉本さん……?」

「ちょっと、いやだもう! 突然なんなのよ? びっくりするじゃない!」

「すみません」

「いったいどういうこと? お芝居って何?」

「あの……彼、浅野君と私は昔馴染みで、あれは、頼まれて芝居を……」

「ウソ? あれが芝居?」


 吉本さんはそんなはずはないだろうという顔をしてすぐ、思い直したように顎に手を当て斜めを向いた。きっとあのときの様子を思い出し、頭の中を整理しているのだ。


 その様子を見ながら、私は、すべて正直に話した方が良いと判断し、俊輔とあんな芝居をするようになった経緯と状況を大まかに打ち明けることにした。


「なるほどねぇ。それで毎回あなたが駆り出されてるってことなんだ?」

「そうなんです。それで、浅野君も同じように私の恋人のフリをしてしつこい男の人から私を庇ってくれてて。私も彼も、ふたりでどうこうなろうなんてまったく考えたこともなくて、持ちつ持たれつ……っていうか、そういう感じの飲み友だちなんです。」


 本当のことを話す私の後ろめたい気持ちと反比例するように、吉本さんの目は輝きを増していく。


「へぇ、面白い。じゃあさ、私のとき、浅野君に何て言って頼まれたの? あ、そっか、聞いても無駄ね。覚えてないんだものね」

「すみません。吉本さんのことは思い出せないんですけど、いつも大体一緒で、話つけたい相手がいるから付き合えって呼び出されます」

「それだけ? 相手のこととか、何も言わないんだ?」

「はい。大抵はそうですね」

「なるほど。一応その辺は配慮するわけか。浅野君らしいわね。それで? 相手に会ってどうするの? ああ、わかった。私のときみたいに話すのは浅野君だけで、あなたは黙って隣に座ってるだけなんだ?」

「はい。まぁ……大まかに言えば、そんな感じです」


 吉本さんがなるほどね、と、唸る。







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