Black. Willow. Maple.
菅原 龍飛
第1話
「──そしたらですね、カエデったら彼氏の顔ひっぱたいたんですよ」
「元カレ、だからね。誰があんなやつと付き合い続けるの」
「私はカレと結婚するんだ、って言ってたの誰だったかなぁ」
「先輩まで……。若気の至りってやつですよ、若気の至り」
そうね、と言って、先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべた。そして、再び絵里と私の話を始めた。
飽きないなぁ、と思いつつ私はビールを飲み頬杖をついた。何がそんなに面白いんだろう。そんなに私はネタの宝庫なのかな。まあ、私は
「……クロ、なんでニヤニヤしてんの?」
先輩の方を向くと、彼女は完成したあとに出てきたネジを見るような目でこっちを見ていた。
「え?あ、これはその……カッコいいロボットのアイデアが浮かんだんですよ、はい」
私はなんとかごまかせたと思ったが、先輩が、ふ〜ん、と言っているのを見るに、考えていたことは全てお見通しなのだろう。
「そ、それよりも先輩はそういう話、ないんですか?」
なんとか反撃を試みる。
「それ私も知りたいです!」
絵里も私の提案になってくれたみたいだ。身を乗り出して先輩の方を見ている。
「……そうね、話してもいいけど、まだあなた達には刺激が強すぎるね。大人になってから出直しなさい」
先輩は勝ち誇ったように言った。大人って、たかがいくつか歳離れてるだけなのに。
「もう大人ですよ〜」
絵里が食い下がる。
「だーめ。さあ、奢ってあげるから帰るわよ」
こうなったらもう無理だろうな、諦めよう。
「先輩、ゴチになります」
「おう」
会計を済ませ、店を出ると、冷たい風が肌をなめた。と、風でなびく髪を押さえながら先輩があることを聞いてきた。
「ところで、さっきロボットの案思い付いたって言ってたけど、あれどこまで本当?」
この人、まるで素面かのように質問してくる……何者なんだよ。ていうかやっぱりバレてたし。これ以上言い訳しても無駄だろうから、まともに答えよう。
「あれは一応ほんとですよ。ごまかすために使いましたけど」
「あ、やっぱりごまかしてたんだ」
しまった。墓穴を掘ってしまった。この先輩、やはり侮れない。
「まあなんでもいいけど、明日くらいにその案教えてちょうだいね。クロが考えるやつ好きだから知りたいの」
先輩は笑いながらそう言った。
「分かりましたよ。教えます。教えますから帰りましょ、ね?」
先輩にだいぶ気持ち的に押されてしまったので、状況の清算を急ぐことにする。
「え〜、二次会しないの」
この人、まだ飲むつもりなのか。今の店で何杯飲んだと思ってんだ。こうなったら意地でも帰らせてやる。
「ダメです、帰りますよ」
「え〜……そう、わかったわよ。じゃね」
そう言うと、先輩はさっさと行ってしまった。案外折れるの早かったな。ていうか、なんかものすごい満足そうな顔だったけど、なんで?
と、ここまでの流れを静観していた絵里が声をかけてきた。
「カエデは帰らないの?もしかして、今日はやってくの?」
「ええ。ちょうどこの辺りにいるみたいだから、やってくわ。絵里も来る?」
「今日はパス」絵里は胸の前で腕を交差させた。「そんな気分じゃないし、ちょっとお酒入っちゃってるから何するか分からないもの。それに今日は彼氏と電話」
まあ絵里は最初からそんな乗り気じゃなかったしいいか。にしても……。
「何するってねぇ……まあいいわ。一人だとちょっと心配だけど、じゃあね。また明日。彼氏さんによろしく」
「大抵はカエデ一人でやってるけどね。分かったわ。じゃあね」
そうして私たちはそれぞれ反対方向へ歩き出した。
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