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「ふぅ・・・お前にはばれるんだな」

「ばれないとでも?」

「ふ」

 あの時もそうだったよな。全くコイツってやつは。脳内常時お花畑なくせに。

「酷いな。俺だってそんなに能天気じゃないさ。でもお前は考えすぎな」

「俺が考えすぎだって?」

 のらりくらりと生活してるって言うのに?

「そう言うのは昔から上手い奴だったから、気付いている方が少ないんじゃないか? ま、でも俺くらいになると分かるって言うか」

 好敵手と書いてライバル、だから? 

「笑うなって」

「わりぃわりぃ」

 だってそんなこと言うのコイツくらいしかいないんだもん。

「想太は昔から悩みを自覚しないことがあるって言うか、気付いたら溜めこんでいるって言うか」

「そうなのかな」

「そうだって。顔を見れば分かる」

 なんて速水は自信満々に言う。あんまり自覚もしてないんだけどな。

「で、何があったわけ」

 速水が訊く。呆れたように笑って、それでいて心配そうな顔をして。

「・・・ま、人それぞれあるよな」

「まぁな」

「俺らみたいに好きな事を仕事にしている奴も居れば、嫌な仕事をしながらも大金を稼ぐ奴も居る。家族もいれば恋人もいない奴も居る」

 で、速水は好きな仕事もして家庭もあって、子供も出来て。順風満帆だって周りが見るのも仕方ない。

「でもさ、どれが正解かなんて分からないじゃん」 

 だけど速水は笑っても悲しんでもいない表情で言った。

「想太みたいに独身で好きな事を仕事にして自由に生きているのだって、羨む人はいるだろ。結局は隣の芝生は青いんだ」

「・・・だな」

「誰かが良いと思う生き方でも絶対どこかで嫌な所はあるし、苦しいこともあるだろ。でもそれら全ては絶対他人には分からないじゃん。だからさ、ほっとけよ」

「ほっとけって?」

「そんなことより想太はイケメンでさらには美味い酒も作れる。だから放っておこうぜ。正解なんて分からない。でも想太の作る酒は美味い。加えて俺の作る酒も美味い」

「え?」

「生き方の正解なんて分からない。だからさ、今はただ美味い酒を飲もう」

 速水は最後まで独身が良いとは言わなかったし、今俺が明確に言葉に出来ない悩みを抱えていても、それが正解とも間違いだとも言わなかった。悩むことは人生で、美味い酒を飲むことも人生だと、言っているようだった。

「で、想太、俺の美味い酒飲んでスッキリした?」

「はっ、俺の方が美味いわ」

「何をっ、本当の事を言えぇぇ」

「俺は本当のことしか言ってねぇぇぇ」

 この瞬間も人生なのなら、これもいいってもんか。

「よし、良い顔になったっ」

「ふんっ心配ご無用」

 忘れてた。元々俺はこいつと同じく、能天気なんだった。

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