魔女の嗜み
葉原あきよ
薔薇を少々
初めてのデートは、薔薇で有名な庭園だった。お見合いの席で「どんな魔法を?」と聞いたところ、彼女が「薔薇を少々」と答えたからだ。
秋晴れの空はどこまでも高く、庭園の奥に植えられた針葉樹との境を雲が縁取る。日曜日ということもあり園内は混雑していた。僕たちは自然と寄り添って歩いた。
満開にはまだ早く、三分咲きの薔薇は瑞々しい。順番を待つように、膨らんだ蕾が天を指していた。
「あなたの薔薇を見せていただいても?」
朱色の薔薇を写真に収めていた彼女を、期待を込めて見つめる。彼女は少しはにかんで笑った。
「拙い技でよろしければ」
彼女が若い蕾に触れると、蕾は見る間に膨らみ、ふわりと開いた。幾重にも重なる柔らかい絹のような花びらは淡いピンクで、元の木とは違う品種だ。可愛らしくも妖艶な大輪の花からは、甘い香りが漂う。
「すごい! こんなに美しい薔薇は初めて見ましたよ!」
興奮して声を上げると、彼女は軽く目を瞠ってから、苦笑する。
「いえ、私なんて。まだ、この品種しか咲かせることができないのですから」
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