第111話 ピエールの話6

翌日。

 

「そうじゃ、より遺伝子の種類を増やしたければ、

弱者や少数派を優遇する社会を作ればよい」

 

「もう少しいうと、犯罪者も含めてだ、わしの

理論は本当に八方美人の理論じゃ、いや

全方位美人といったほうがいいかガハハ」

リアンがあまり笑っていないのに気づいて

元教授は話に戻る。

 

「まあそれが簡単な例じゃな。ある特殊な遺伝子

を持った者しか生き残れない疫病が流行ったとする。

そいつがいなけりゃ、人類は滅亡するだけじゃ」

 

質問をしてみた。

「この理論からすると、例えば宗教であれば一神教

よりも多神教のほうが優れているように見えますが」

 

「おぬしは外務次官というとるが、本当はもっと

多くの人間の行く末を決める立場にあろう、もっと

心を広くもたなければいかん」

 

「つまりじゃ、意識を落としていった先の瞑想状態、

これが神の状態であるとよく言われるが、それだけじゃ

ない。集中している状態も、神の領域じゃ」

 

「つまり一神教も多神教もこれ真だと」

 

「物理学で説明するとじゃな、人間の性格というのは、

フェルミ粒子的にふるまうものもあれば、ボース粒子

的にふるまうものもある」

 

「フェルミ粒子は、パウリの排他律により、ひとつ

ひとつの粒子が同じ量子状態をとることがない、

電子や陽子に代表される」

 

「対してボース粒子は、複数の粒子が同じ量子状態を

とりうる、光子や中間子、重力子などがそうじゃ」

 

「彼らは、多数が集まってひとつなのじゃ」

「つまり、同種の人が多く集まる国もそれはそれで

必要だと?」 そうじゃと元教授は答える。

 

「理想はひとつであり、理想は一人ひとり異なる、

わかるかのう」

 

「アインシュタイン教に代表される運命論と、ボーア

教に代表される確率主義も同様じゃ」

 

「未来は決まっており、かつ未来は誰にも予測できん」

 

「わしはもうこの先長くない。わしの最新の理論を

多少理解しとる若いもんがいる。名は、なんじゃったかな、

たしかピエール・ネクロゴンドとかいうやつじゃ」

 

「どっかのコンサルタントに勤めるいうとった。

探してみてもいいじゃろ。彼は、少し知ったかぶりを

する傾向があったが、まあなんかの役には立つじゃろ」

 

リアンから相談を受けたナミカ・キムラは、ピエール

を安全な場所に移し、身辺警護することを決める。

 

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