第89話 ゴシの話30

深夜に酒を飲みながら作詞するとたいてい

とんでもないものが出来る、というアドバイス

をウイン・チカからいただいた。

 

作詞に関しては先輩だからまあそうなのだろう。

まあ気にすることはない。そういうものが、

今後多くの人の目に入ることはないだろう。

 

クラブ・ウルゲンチでのライブはうまくいった。

特に問題なし。あったとすれば、いつもは

控室にいる私がいつになく最前列で見ていて、

マルーシャのMCのときになにかの拍子で

浮いてしまってそのままステージまで流れて

いったことぐらいだ。

 

ついでにアラハントのプロデューサーだと

紹介してもらった。ライブ前に一張羅に

着替えておいてよかった。

 

そして夜も軽く打ち上げして、翌日はイジヤンの

ふたつ隣りのモジュール都市、オースへ向かう。

最終日、自由行動の時間だ。

 

朝からシャトルで移動する。途中でモノレールに

乗り換え、モノレールでオースの商店街へ向かう。

オース駅を降りると、そこは別世界だった。

 

いや、別世界というのは言い過ぎだ、知っている

商店街の風景が、3次元的に広がっている、

と言えばいいだろうか。

 

駅を出ると、駅と線路をぐるっと囲むように、

商店が並んでいて、人通りも多い。手すりの

ついた道らしきものもある。

 

普通であれば、空、町、地面であるが、

ぐるっと見渡すと、隙間から見える空、町、道、

町、隙間から見える空、道、と4回程繰り返す

感じだ。

 

まずこっちに行ってみましょう、とジェフが言って、

駅から直角の方角へ動き出す。商店街を5分ほど

進むと、少し開けた場所へ出た。

 

そこは巨大な木と、巨大な球形のものがある。

近寄ってみると、巨大な木は特殊な粘土質の

植樹ユニットから生えていた。

 

しかし、この木に限らず、この都市は緑が多い。

月第3エリアの都市マヌカも緑が多いが、ここは

無重力であることを活かしてあらゆる方向に

木が生えている。

 

建物の側面も、窓や入口がない部分にはだいたい

ツタ上のものが表面を覆いつくしている。

 

巨大な木の横にある、巨大な半透明の球形のものは、

水のタンクだという。近くによってみると、

表面から霧状に噴出している。滝の近くにいるのと

同じ効果があるらしい。確かにこのあたりは

少しさわやかな雰囲気だ。

 

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