第62話 ゴシの話3

今回の旅は、とても特殊なものだ。


コウエンジ連邦軍のトム・マーレイ少尉から

打診があったのは、約一か月前のことだ。


太陽系外縁と呼ばれる、木星以遠にある国、

クリルタイ国との将来的な軍事同盟を

見越しての友好使節として、木星の

ラグランジュポイントへ向かう。


その際に、合同軍事演習とともに、文化的

交流を行う。そこでプロデューサーと

して私が選ばれたのだ。


軍のほうはアラハントも指名してきた。

私が今のところ推薦できるバンドで一番

若い、報酬が安くて済む若手を選択

したのだろう。


私が今乗船しているのが、政府御用達の

民間船で、最新の宇宙高速艇であるが、

今は自艇の推進力では航行していない。


軍の最新空母に接舷して運ばれている

かたちだ。


「民間人でこの船を実際に目にするのは

あなたが初めてですよ」

艦長のブラウン・ノキア少佐が言う。

私とアラハントが初めてだろう。


この空母は、ちょうど客船と反対側に

人型機械用の母艦も今回接舷している

という。


「時間があればぜひ見学していただければ」

私はこの政府高官も使用する豪華な客船

で充分であるが、アラハントの若い

メンバーは何度も見学に行っているようだ。


これから向かうクリルタイ国は、人口

1000億人でほぼコウエンジ連邦と同等。

月ラグランジュポイントの第3エリアという

意味では人口5000億人との比較になるが。


最初に訪れる木星の第4エリアには約

100億人、その次に第1エリア200億人

台、最後に第5エリアで約100億人。

エリア単位でいうとまだまだこれから

という感じだが、国力の伸びがすごいと

ケイト長官などは話す。


軍事同盟は、技術交流の意味も含んでいる。

わずか1000億の国であるが、木星以遠

はすべてクリルタイ国だ。火星以内にも

存在しない技術も持っている可能性がある。


我々はすでにクリルタイ国の関係者とも

会っている。このコウエンジ連邦の

最新鋭空母を先導するかたちで、かれらの

中型空母が進む。その中型空母は、

クリルタイ国の人型機械の母艦付きだ。


クリルタイ国で今回の件を担当するのは、

外務省次官のリアン・フューミナリ。

非常に柔らかい物腰と話し方で、

身の回りに常に涼し気な風をまとう青年だ。


そして外見から推察するに、おそらく

私よりも若い。

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