第61話 ゴシの話2

この旅には同行者がいる。


「ミスターゴッシー、そこから見える

星々の景色が気に入ったようね」

そのうちの一人がこのケイト・レイ、

国務長官だ。


「いや、なあに、星々のほうはそれほど

私のことを気に入っていないようですがね」

むしろケイトさん、あなたに気が行っている

ようで、と返すと、まあ御上手で、

私はビデオ会議に行ってきますわ、と言って

去っていく。


政府高官は忙しいのだろう。この船は

キッチンも使ってよい。気が向いたら私も

腕をふるおうか。その前にどのような

食材があるのか確認がしたい。


レムリアでの話をもうひとつ思い出した。


私が修行した小料理店は、老夫婦が経営して

いたが、そこに、私よりも先に同じように

料理修行のために来ていた女性がいた。


確か、イレリア・スーンという名前だった。


修行を始めた当初はまず仕事を覚えるのが

大変で、まったくそういうことに気が

まわらなかったが、褐色の肌に目の

ぱっちりして、小柄だが豊満な雰囲気の

美人であった。


けっきょく修行していた期間は非常に忙しく、

何の浮いた話も起きなかったが、宇宙への

帰り際、ありきたりな別れの挨拶を言ったあと、

何か言いたそうな、寂しそうな顔で私を

見つめていたのを思い出す。


今でこそ、色々な人生経験を積んで、分かって

きた部分があるのだが、あの場面は何か

アクションを起こしても良かったと

後になって思う。


そのあと月の裏側の第3エリア、宇宙都市

マヌカへ帰ってきた私は、都市上層で

一人暮らしをしながら、バーで修行をしたり

していたが、けっきょく今は実家に戻っている。


もともと両親がアジアンヌードル店をやって

いたのを、現在のかたちに改装しなおしたのだ。


そのころだったか、イレリア・スーンから

ネットワークメールが来て、旧インド領で

作製された映画集のディスクを返して

ほしいと言ってきたのは。


そう、私は借りたのを全く忘れていた。


プロデューサーの仕事を始めたのもそのころ

だった。上層のバーで働いていたころの

知り合いから、店によく来ていたある音楽

バンドの出演に協力してもらえないか、

という話だった。


そこで協力してあげたのが、その音楽バンド

のメンバーと活動をともに続けていく

きっかけとなった。そして今回も、彼らを

マネジメントしていく重要な立場だ。

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