第50話 ヘンリクの話11
前奏が始まると、アミのお兄さんもスタスタ
とステージのほうへ歩いていく。
そしてステージのすぐ手前でつま先がリズム
に乗っている。
新曲というのと静かな感じの立ち上がりの
曲のため、他の客も少し遠巻きに見ている。
兄さんはこういう感じの曲が好きなんだね、
と思いつつもちょっと立ち位置が近すぎる
んじゃないかと心配になったが、好きなら
しょうがない。妹のアミが若干苦い顔
をしているように見えなくもないが。
前奏が長い曲らしく、そろそろボーカルが
入りそうな曲調になってきた。
すると、テルオがマルーシャにちょこちょこ
と何か話しかけて、
マイクを取って、
こちらを振り返って、
歌い出した。
おまえが歌うのか、という軽い衝撃を
ゲルググ、サクティの両フロアに与えつつ
演奏が続く。
曲は、テルオがひたすら
「プロキシマ・ケンタウリ」と囁くように
低く繰り返すというシュールな内容で、
しかし、曲自体は変則ビートでヘンリクは
嫌いじゃなかった。
映像はテルオがデザインした様々なタイプ
の都市が次々と出てきて、カメラ映像は
その内部にまで飛んでいく。
曲は静かな立ち上がりから徐々に盛り上
がっていくタイプで、音数も増えていき
ハーモニーも足されていく、
テルオは非常に澄んだ声で、
「プロキシマ・ケンタウリ」を続け、
お客のほうもわかってきたのか、こう
いうのが好きな人たちがフロアに
集まってきて、そして歓声をあげた。
10分ほど続く長い曲だったが、
最後におそらく「遠い」とつぶやいて
終わった。
「じゃあアラハント&テルオ最後の
曲になります。シリウス」
テルオが自分のマイクで言って、
曲がスタートする。
このシリウスも静かな立ち上がりの
変則ビートの曲だが、こちらはケンタ
ウリと比べて若干明るめの曲調だ。
この曲も低く囁くような声でテルオが
歌い、かつ歌の表現としてわざと滑舌
悪く歌うため何を言っているのか
聞き取りづらいが、
どうも、シリウスのあるあるを早く
言いたい、という歌詞のようだ。
そして、これも同じ歌詞のリフレイン
から徐々にテンションがあがっていき、
最後に歓声があがって、テルオが
また「遠い」とつぶやいて終わった。
アラハントが今後このスタイルを
続けるのか気になりつつ、22時までの
つなぎの静かな曲を流す。
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