第44話 ヘンリクの話5

そろそろサクティへ行こう。


控え室を片づけて端末をもって店を出ると、

もうすぐ前だ。外のテーブルですでに

ボッビボッビの3人がデザートを前に

談笑している。


軽く挨拶して、店の中のカウンター席へ。


「ゴシさん、ミソカリーヌードルをハーフで」

「あいよ」


店長のゴシ・ゴッシーだ。


「今日は米の麺だからミソカリーフォウだな」


レストラン・サクティはふだん17時から20

時ぐらいまで、学生で混雑する。


サクティはもともと香辛料をふんだんに使った

カリーと呼ばれるスープをメインに提供する

レストランだったが、最近はもう色々な

料理を学生のリクエストに応えて低価格で出す。


今はもうすでに20時なので、学生の姿は

まばらになってきたが、イベントのお客さん

らしき人たちが増えてくる。


サクティはそれほど大きなレストランでは

ないが、特徴がある。店舗の奥側にある

スペースの机は、流し台もついた調理

スペースになる。


週末などに主に学生を相手にした料理教室を

やっているのだ。


ミノー駅から歩いていける距離にサウス

マゼランユニバーシティのどちらかと

いうと少しマイナーな学問をやるための

キャンパスがあり、


ミノー駅周辺にも一人暮らし、あるいは

ルームシェアの学生がけっこう住んでいる。


サクティの料理教室にしっかり通えば

卒業するころにはかなりの数のレシピを

実際に作れるようになる。


ヘンリクの得意料理も、親から習ったもの

が半分、サクティで習ったものが半分だ。


「ヘンリク!今日も演るの?」

「やりますよ、今日はビジュアルですけど、

 サネルマさん!」

カウンターの向こうから声をかけてきたのは

ゴシ・ゴッシーの妹のサネルマ・ゴッシーだ。


夜は基本的にこの二人が店を切り盛りして

いて、昼のランチ時は彼らの両親が店に

出ている。


もう少しサネルマさんと話していたいところ

だったが、軽い打ち合わせがある。


さっき頼んだカフィーエスプレッソの小さな

カップを持って、ボッビボッビのところへ行く。

今日の映像のイメージをざっくり伝える。


ゲルググでイベントをやるときは、事前に

細かい打ち合わせなどはしない。そして、

各バンドは毎回何か新しいことをやる。


そして、高い確率でそれが失敗に終わる。

ゲルググはそれが許される雰囲気だった。

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