第8話 サトーの話6

「シントウケイ、ですか」


何やらまた新しい練習が始まった。分厚い筋肉を「浸透」

してその内部に衝撃を与える打撃方法らしい。


「効果あるんですか?」

エマに聞く。それを教えるために本部まで来ていた。

「前にあなた入院するのしないのってなったよね、

 たしかジェニーとの練習で」


思い出した。先月だったか、いつになくうまく技をしのげて

いたと思ったら、珍しく焦ったのか、ジェニーが胴を拳で

なく手のひらで打った。そして、そのあと動けなくなった。


打った直後、腹部の苦しさにうずくまる瞬間、なぜか

ジェニーの顔が青くなっていたのを思い出す。


「シントウケイが入りかけたのよ」


「ジェニーが焦ってたでしょう?あれで臓器交換とかいう

 話になると、打ったほうが自腹ってうちのルールだから」


「けっきょく検査で問題無かったけど、検査分はあの子

 払ってるよ、罰金罰金」


うーむ、命にかかわる状況だったのか。

医学が進化したとはいえ。


それから、特製の水の入った革袋をひたすら打つ練習が

追加された。水泳の練習も何気に増えた。シントウケイの

威力を高めるためにさらに水を意識せよ、だと。


ちょっと気になったのは、記事には書いてはいけないらしい。

そして、のっぴきならない事態に巻き込まれはじめたのではと

勘づいたのはその次に追加された練習だった。


ドンさんとアミと、三人一組のチームになって、対多数の練習を

するというのである。ドンさんはしばらく公式の試合を休止して、

アミはトレーニングに参加する日を増やして。

しばらくライブも演らないとか。


アミがやっていた秘密の練習とは、シントウケイのことだった

らしい。そしてすでにかなりの使い手になったらしい。


それで、対多数用の練習相手が到着する前に、3人を

2対一に分けて仮のスパーリングをやった。

ん、意外と戦えるぞ、おれが一人の場合以外は。


もちろんアミは人間相手にシントウケイを使ってはいけない。

そしてドンさんはシントウケイを使えない。主に敵を引き

付ける役まわりらしい。


タッグの息もそれぞれ合ってきたところで3人の仲も

良くなってきた。


「サトーさん、一度ライブ観にきます?」

「年下なんでドンと呼んでくださいよ、試合呼びますよ」


「サトーさん、わたし、足でもシントウケイ打てるように

 なったんだよ」

練習終わりのカームダウンの時間に、そう言って足の裏を

そっとへそのあたりに持ってくる。


光速の速さで半歩後ろに飛びのいて、背中に冷たい汗を

感じながら、「お嬢ちゃん、大人をからかってはいけないよ」

と言おうとしたそのとき、和気あいあいの雰囲気の中で、


背後から声がした。


「こんにちわ」


振り返って、そこに、あいつがいた。

そして、そっと右手を差し出してくる。「はじめまして」


おれは、

そっと腰を落とし、

アゴを引いてかまえた。

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