138話 和解


 --ガチン…バシッ。


 アンデットモンスターは強かった。攻撃をヴィルで何とか防ぐが攻撃は重い。


「くっそ…」


 はっきり言って次は防げるか分からなかった。


 先程とは雲泥の差で確実にパワーアップしていた。

 剣戟はもちろんの事、剣筋も鋭さを増している。手数の多さ等からシェルバルト家の剣術と父様の腕がかなり上位の技術者だと言う事が分かった。


 しかし、厄介なのはそれだけで無い。


 --オオオオ…イ…イッセ…イイイイイイ


「うぐっ…」


 父様の体に憑いている家族の顔から『怨嗟』を撒き散らしている。俺は、その呪いを受けていて魔力もろくに練れず。体も鈍足になっていた。


「何でこんな事に……」


 鉛のように重くなった体を引きずりアンデットモンスターを睨む。


 --ナンデ………ワレラガ……シナネバ…ナラナイ…ノダ


 怨嗟を聞くたびに体は重くなっていく。


「う、動けない」

「イッセイ…に…げろ」


 呪いの効果で完全に動きが止まってしまった俺めがけて父様が剣を天高く持ち上げ一気に振り下ろしてきた。


 魔力が使えないので、ヘイケも使えず、ヴィルも俺からの魔力供給が尽きて動かない。


 もうダメだ。


「やら…せねえ……よ」


 ヴィルが体から波動を出しながら俺の前に立ちはだかる。そして、アンデットモンスターの剣がヴィルに向かって振り下ろされヴィルが強く光り輝いた。


「ヴァオオオオオ」


 ヴィルから発光した光は俺共々世界を飲み込んだでいく。全く周りの見えない。

 アンデットモンスターの叫び声だけが聞こえた。

 俺も目を凝らしていたが、"バチン" 突然ブレーカーが落ちたように目の前が真っ暗闇になった。



 ・・・・


 いきなり目の前が真っ暗闇になり音も消えれば焦りもする。考えるのは、罠にはまって何処かに飛ばされたか監禁された事だった。それで現状把握の為にここは何処だろうと左右を見渡すが、そもそも真っ暗闇なので自分の立ち位置も分からない。


「おぉーい。誰か」


 俺の声は闇に消えた。


「ソフィー! エリー!! ベネ!」


 当然、呼んでも誰も来ないし、返事も無かった。

 幸い体の拘束はされていなかったので、兎に角歩いてみる事にする。


「イッセイ様」


 いきなり声を掛けられて”ビクッ”ってなった。

 本当にそういうのやめろよ…って、


「イゴール…脅かすなよ」

「お迎えにあがりました。あの方がお待ちです」


 そう言うとイゴールはどんどん先に行った。

 その後話しかけても返答は無かった。


 進んでも暗闇は晴れなかった。

 もう、どれ位あるき続けたのか分からない。

 同じ景色で無音の状態、精神が病んできそうだった。

 目の前にイゴールが歩いているがコイツしゃべんないしな…

 まじ役にたたん。


 憔悴し、意識が朦朧とし始めた所で奥に光が見えてきた。まさに希望の光だ。

 光の方へと走っていくと部屋があった。


「こちらでございます」


 イゴールは中に入らず入り口付近で礼をしたまま動かなくなった。

 イゴールを横目で見ながら中に入る。


 そして、そこには…


「よう」


 慣れた口調で俺に話しかけて来たのは、部屋の奥にある大きな封印設備に下半身と両腕を壁にめり込ませ頭を垂れている男だった。


「こうやってお前と合うのは初めてだな」


 頭を上げずにダラリと首を下げたまま男は話続ける。

 よくそんな状態で俺がここに居るのが分かったな。と喉まで出かかったが魔力の流れを感じられれば特に難しい話では無かった。

 それに確かに会うのは初めてだが、俺はコイツを知っている。だから、こう返した。


「お前は……もう一人の俺…」


 そう呼ぶと俺の視界は高い位置に移動した。

 そして、目の前には俺が立っていた。


「クククッ、自ら来るとはバカな奴だな」

「なっ!?」


 先程まで立っていた場所に首を下げたままの奴が立っている。どこに行ってもその立ち方は変わんないのね。


 って、思っていたがもう一人の俺は首を上げ顔を見せてくれた。


「っつ…」


 とそこには俺が居た…。

 いつの間に入れ替わられた!?


 あいつの変わりに封印設備に囚われた俺は抜け出そうともがくが封印はビクともしない。


「クククッ。こんな所にノコノコと来るからだ。悪いなもう一人の俺。この体、俺が貰ったぞ」

「ま、待て…!!」

「あぁ…そうそう。恐らくもう返す事は無いと思うからな。ま、俺の行う覇道を特等席で見れる訳だからなここが王の玉座と言っても過言ではないよな」


 手をヒラヒラ振って暗闇に歩いていこうとするもう一人の俺。


 不味い!! このままでは体が永遠に奪われてしまう。

 封印設備に埋まった体を動かすがやっぱりビクともしない。精一杯声を上げることしか出来なかった。


 もう一人の俺は薄笑いを浮かべるだけで止まることはしない。


 あと一歩でこの部屋から出ていきそうと言う所で、もう一人の俺は立ち止まった。


「待て! その体を持ってどこへ行く?」


 見たことの無い少女が両手を広げ、もう一人の俺を通さないように止めていた。

 行く手を遮られたもう一人の俺は分かるが、この時実は俺も固まっていた。


 二人共同時に思ったのは、


((だれ?))


 この時、俺ともう一人の俺は同じことを考えていた。


 恐らくこここの場所は俺(イッセイ)の意識の中だ。なので、俺(イッセイ)ともう一人の俺が居るのは分かる。

 だが、俺たち以外にここに居る少女は誰だ?


 もう一人の俺が困った顔をしてこっちを見てきた。

 いや…そんな顔をされても俺も困るのだが…


 ・・・


「で、この状況をどうすれば良いのだ?」


 目の前に立ちはだかる少女に戸惑ったもう一人の俺が困ったように呟いた。

 や、だから俺にもどうすることも出来ないのだが…。と言うか誰なんだマジで。


「何だ。お前らそんな目で俺を見るなよ」


 意外にがさつな態度な少女だった。

 可愛いアニメ○優みたいな声でがさつな態度をとっても全然恐ろしさを感じない。

 もっというとそのギャップが逆に恐ろしい。


「なぁ、小娘よ。退いてど(いて)くれないか? 邪魔だ」

「あぁん? 何で俺様がお前えら【外来種】の言うことなんて聞かなきゃいけねーんだよ」


 腕を組んでもう一人の俺を牽制していた。何やら少女から異質な存在感を感じた。

 もう一人の俺が少女と距離を取り身構えている。


 って、おい。まだ割と幼いだろ?

 って、ん? 今、外来種って言ったか?


 確かにもう一人の俺は外来種のしかも【神】として崇められているらしい…。

 最後は仲間からも命を狙われれる存在になっていたのでどうかは分からないけど。

 で、そういうのをひっくるめても外来種と拘って言うのは…


「お前。ヴィル…か?」

「あぁ? 何いってんだ。当たり前だろ?」


 腕を組みもう一人の俺と対峙していた姿からは妙に見慣れた波動が溢れていた。

 この少女がヴィル…だと!!


 自分で質問して何だが混乱していた。

 俺より先に分かったもう一人の俺は既に諦めたのか戦闘警戒を解いていた。

 何でそんなに簡単に認められるの!?


「で? 聖剣様は何でここに居るんだ?」

「ふん。わざわざ教えないと分からないのか?」

「あぁ、教えてほしいね」

「そんなの簡単だろ。お前達【外来種】は外に出しておけないからだ!!」


「「………は?」」


 俺(イッセイ)ともう一人の俺は聞き返してしまった。


 ヴィル……


「だ・か・ら、お前たちは、外に出してはいけない存在なんだよ」


 顔を真っ赤にして手をバタバタと振り回し主張してくる。のは意外と可愛かったので良いんだけど…

 ごめん。その主張はよく分からなかった…


 もう一人の俺がこっそりとヴィルの横から抜けでしょうとしたが、超反応を見せるヴィルはその都度通さないように撃ち落としていた。


「…ぐぉ。この糞聖剣が……」

「ふん。何とでも言うが良い俺がここに居る限りお前を外には出さねーよ」


 と言った具合に押し問答を続けていた。


 二人共懲りずに何度も…何度も…

 俺がいい加減俺がそのやり取りに飽きてきていた時。


「ちっ、何なんだよ。俺様の邪魔しやがって!!」

「だから何度も言ってるじゃねーか。この先は行かせねーよ!!」


「はぁ~。いい加減どっちか諦めたら…ん?」


「待った」


 違うパターンの展開が訪れた。

 声のする方に向くとまた・・新たな登場人物が現れた。

 俺の意識の中、自由に人が出入りしすぎだろ…


 ”かっくん”と、首が下がってしまうが今は目の前の新しい登場人物だ。


「今度は誰だ?」


 俺が言うとヴィルともう一人の俺他二名も頷いていた。


「あぁ~。ボクだよ。ボク」


 いや…マジで誰だ? オレオレ詐欺みたいな事を言い出した子供が居た。

 見るとニコニコといい笑顔で俺たちを見ている。どういう基準で現れるのか分からないが、子供の姿というのが不気味さを感じさせる。


「知らないな…」


 俺が言うとヴィルともう一人の俺他二名も頷いていた。

 何だかんだで仲が良いなこの二人。


「えぇ~。皆酷いな…」


 ニコニコと笑顔を崩さない子供からは余裕すら感じる。

 絶対中身は子供じゃないだろ。


「えぇ~。ボクだよボ・ク。こんなキュートなボクを思い出さない?」


 絶対子供じゃねえ…。こんなナメた性格の設定はせいぜいエ○漫画に出てくるキャラ位だ。

 口元に人差し指を当てて上目遣いでこっちを見るのはヤメロ!!


 でも待てよ…前にこんなやり取りした事が……

 あっ! もしかしてこの人。


「もしかして、金○様?」

「あったり~」


 こんな立派な姿に成れるならあの我が家に送り付けていたホムンクルスもどうにか出来たんじゃないか?

 人ん家の門で頭をぶつけ続ける薄気味悪い子供を思い出しつつも急に現れた神様(?)を見ていた。

 俺が名前を呼んだ事でヴィルが反応し、


「何だ。お前まで来たのか?」

「ふふふ~ん。まぁ、見守るつもりだったんだけど。君があまりにもグダグダだったからね~」

「何だと!?」


 相変わらずのマイペースな二人。君たちはどちらかと言うと不法侵入者だからね。

 まぁ、ヴィルはかなりグダグダだったので出てきてくれて助かったのが本音だが。

 確かにこのままだとずっと収集がつかなかったと思う。


「目の前に敵が迫ってるって言うのに君たちは呑気だね……」

「「「!!?」」」


 大事なことを忘れていた。

 俺たち三人は互いに顔を見合わせる。


「そうそう。遊んでる場合じゃなくなってきたでしょ? と、言っても少し時間を稼いであるから安心して良いよ。」


 こいつ…


「それに、そこの【外来種】がまだ真に覚醒していないからねぇ。今のうちにちょっと話しておきたい事もあるんだ」


 ヴィルがもう一人の俺を見ていた。もう一人の俺は口笛を吹いていた。おい、お前本当に自覚ないのかよ!!

 た、確かに何故か仲間同士で敵対してたし、コイツ自身割と幼稚な理由で破壊だけを求めていたみたいだしな。


 はぁ、疲れたからもう好きにしてくれ…


「ちょっと彼を借りて良いかな?」

「その前にイッセイをどうにかしてくれ」

「あぁ…そうだね。ぷっ、捕まってやんの」


 この糞金○が!!


 めっちゃ笑ってやがる。わざわざこっち見て笑ってやがる。俺を開放したらぶっ飛ばしてやる。

 その後も半笑いの顔をしながらこちらを見ていた。良し絶対泣かす。


 --パチン!!


 糞金○は指を弾いただけで、この封印から助けてくれた。

 俺は開放された封印器具より下に落下する。もっと優しく降ろせよ…。

 とも思ったが落ちても痛みもなければ立ち上がる事も出来なかった。

 何でか分からないが体に感覚が感じられないし、体に力が入らない。


「今は奴が主導権を持っているからな。お前は魂みたいなもんだ」


 痺れて震える手を見ていたら、ヴィルが介抱しながら教えてくれた。

 どうやら俺の力はほとんどを『もう一人の俺』が持っていったらしい。

 何とか取り返せないものだろうか、二人はこの部屋の何処かに行ってしまった。


 まぁ、それなら先にヴィルに確認しよう。

 色々聞きたい事があったが、どうしてもこれだけは譲れない。


「教えてくれヴィル。」

「うん。何をだ?」


 かなり気合を入れて声を掛けたが、これを聞いていいのか迷っていた。

 でも、これを聞いた所で怒られるかもしれない。でも、皆許してくれ。これを聞かずには俺は先に進めないんだ。だってほら気になるでしょ。今まで男かと…いや、性別がある事すら気にしたこと無かったのに。


 ただ、デリケートな質問なのでどうアプローチしたものか……


 声を掛けたくせに質問に困っているとヴィルが先に動いた。


「うん? 何だ。あぁ…何で俺がここに居るって質問か?」

「え? …あぁ、うん。それも気になる」


 ニ番目に質問しようとしていた内容がヴィルから出たので、取り敢えず最初の質問として聞いておこう。


「精霊界の秘術でな。俺の魔力をブーストさせて一時的に底上げさせたんだ。あっち・・・で破邪効果のある波動を展開させたからなモンスター共は動けなくなっているだろうさ。デメリットは魔力の回復に凄い時間が掛かるって点だな。しかも、枯渇寸前で使ったからな暫くは復活出来ねえ…」


 思った以上にヘビーな内容だった。

 あっちに戻ってもヴィルが居ないって話だよな…

 どうやってアイツらと戦うんだ?


 ヴィルの話は俺が聞こうとした内容が安っぽく感じるくらいの話だった。

 そして、一気に頭が痛くなった。


 気が滅入っていた所で後ろから声がした。


「それなら僕にいい案があるよ」


 いつの間に帰ってきたのか金○様が、仁王立ちして相変わらずのニコニコ笑顔を向けていた。

 気になったのが、金○様の後ろからもう一人の俺もついて来た事だ。

 その姿は落ち着いており「もう逃げたりしないよ〜」って言わんばかりに大人しかった。

 ヨボヨボな俺はもう一人の俺に怒りをぶつける。


「…俺の力を返せ」


 喋るだけでも息が上がる。喋るだけで俺の生命力が失われていくのが分かった。

 よろける俺をヴィルが体を支えてくれた。お蔭で何とか動ける。


「まぁ、落ち着いてよ。その事も含めていい話があるんだよ」


 もう一人の俺を睨む俺を金○様が宥めてなだ(めて)きた。

 ちっ、アイツ。こっちに見向きもしねえ。


 …取り敢えずは金○様の話を聞こう。


「…いい話とは?」

「ふぅ…。暫く見ないうちに大変になったもんだねぇ」

「良いから早く話してくれ…」

「分かった、分かったよ。相変わらずせっかちんだなぁ」


 金○様は呆れた顔をしたが、俺は無視をした。


 金○様の話は合理的と言えばそうだし、無謀と言えばそうだと思う内容だった。

 まず初めに現状把握。俺が力を失っている状態でヴィルはリタイア状態。もう一人の俺もやはり戦いたいらしい。俺とヴィルで断固拒否したがもう一人の俺はどこ吹く風の様な態度だった。


「まぁ、落ち着いてよ。まだ現状把握の最中でしょ!」


 金○様の金切り声が熱くなった俺達につき刺さる。

 イラッとしたがしかたない。俺達は納得しない顔をして引き下がる。


 続いて金○様が話したのは解決案。

 これがまたトンデモ案だ。


「ヴィルグランデとヴィシュヌには君の中で生きてもらう。その変わり二人の力は君が引き出せるようにしてあげる」

「「は?」」


 一瞬何を言っているのか分からず。ヴィルと一緒に変な声を出してしまった。

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