137話 帰ってきたアンデットモンスター
・・・エリーside
「助かるわ」
「良いのよ。好きに戦って。後ろは私が守るから」
エリーはベネと拳を付き合わせる。
ベネは表立って戦いはしないが必ず私やソフィーの近くに居てアドバイスやフォローしてくれる。
私もソフィーも彼女には感謝しているので、いつか借りを変えたいと思っている。
今更だが彼女もイッセイが好きなので今度二人きりでデートでも出来るように手配しよう。
それにこれがイッセイへのアピールだと知っているし…
「イッセイが見てるからって張り切りすぎよ…」
「バレた?」
「バレバレ」
「てへっ、イッセイ君見てくれた…」
ベネが固まったので私も見てみると…ソフィーがイッセイと抱き合っていった。
・・・イッセイside
「あんたらねぇ…。どこでも盛って。あんたらも……あの子達も終わったら特訓だね」
「は、はわぁーー!!」
「ブェー」
メイヤード様にツッコまれたソフィーが俺を弾き飛ばす。
完全に回復していない俺は地面に叩き付けられた。
抱きしめられたりぶっ飛ばされたり…。ついてねぇ。
しかも、メイヤード様の一言はドンドン俺の心をへし折っていく。
既に王都に帰る選択肢が無くなりかけてる。
しかし、話は変わるがベネは凄く魔力が上がってるな。
前からフォローの上手い子だと思っていたが、入ってくるタイミングなど更に磨きが掛かっている。
あのタイミングで反応するためには、魔法の詠唱瞬発力や耐久力が必要な筈だ。それを涼しい顔でやってのけたのだから彼女が既に宮廷魔術師として実力が伴っている事が伺える。
エリーも同じだ。魔力の増加量が半端ない。
彼女はどちらかと言うと、ゴリ押しでいく『脳筋タイプ』だ。なので、魔力量の増加はそのままパワーアップに繋がる。
魔法で脳筋とはこれいかに。って感じもするが要は猪突猛進って事だ。
だが、彼女はその部分を長所として突出させたようだ。
「しかし、皆どうして……ずべっ」
「バカタレがお前が作ったあのトンデモアクセサリーのせいに決まっとろうが!!」
俺が素で驚いていたら先生に殴られた。
いった~って、え? 俺のせい!?
どうも先生の
3人はそのせいで皆強くなったんだと怒られた。
聞いた内容で「魔力は軽く3倍は増え、補助属性付与、弱点属性の攻撃を半減ないしは無効。更に何か加護が付いているがそれは分からなかった」と鬼の形相で教えられた。
先生に「死んだとき数回身代わりになってくれるんですよ。」って、言ったらもう一回殴られた。
いてて…大事な人達なら別に普通でしょ?
その後で先生にも作りますよって言ったら、ぶっ飛ばされながら断られた。
何でいちいち殴るんです?
気づいたら火だるまのボールズは消えていた。
奴は逃げた可能性が高い。
ちっ、相変わらずちゃっかりした奴だ。
・・・
・・・とある場所にて
「フフフッ。お帰り~。随分やられたね~」
「…くそっ。『お帰り~』ではないわ。貴様の報告より随分強くなっていたぞ」
「アハハッ。ごめんごめん。でも時間を稼いでくれたお蔭でもうすぐで出来上がるよ~」
魔法陣の中を潜った場所は、赤いマグマが”ゴポゴポ”と音を立てて地面を流れていた。
ここは地底である。
神の一族である我らが本拠地として使っている
ベルゼブブと言う”冠”を持つ国だったが、神を滅ぼしシバ様を新たな神として興した国だ。
もっとも今ではただのモンスターを精製する生産地と化している。
周りの国も続々とシバ様を神として信仰しておりモンスターの製造や兵士達の育成に力を入れさせている。
ここでは新たなモンスターの開発を行っている。
「ふむ…」
見上げると”ずらり”と並ぶマザーゴブリンが数百体おりその中で新たなモンスターが”ボコボコ”と音を立てている。
「ほーら見て、こんな感じになってるよー」
数ある中のとあるマザーゴブリンの前でしゃがんでいるブラフマがおどけた声で話しかけてきた。
マザーゴブリンを見ると腹の中で先程の首なしモンスターが
「なるほど」
思わず笑みが溢れた。
流石、相手をイラつかせる事に長けている男だ…。男だっけか? …確か男だ。そんな事はまぁいい。
これならばあの魔剣を持つ小僧もひとたまりも無いだろう。
目が合った。爛々と光る赤い目からは殺る気しか感じない。
自身が完成するのが待ちきれない様だった。
「どうする? 向こうで
ブラフマが悪い笑顔でこちらを見ていた。
ワシもその意図が理解出来たので首を縦に振った。
「あぁ。その方が盛り上がりそうだな」
「じゃあ。行こっか」
ワシたちは、マザーゴブリンとその中身を地上に転送させた。
・・・
--シュッ
音がしたとすればこんな感じだと思う。
魔法陣が発光し、動き出した。
…そして、ボールズとブラフマと、
「あれは、マザーゴブリン!?」
が現れ、俺は狼狽えた。
アレが出てくると非常に厄介だったからだ。
形状が変なのが気になるが…
「イッセイ。アレが何なのか知っているの?」
エリーが聞いてきた。ベネもソフィーもついでにメイヤード様も興味がありそうだった。
「アタシも見たことが無いモンスターだね。まぁ、形状からみて新しいモンスターを排出するタイプだと推測出来るがね」
流石はメイヤード様。見た感じで悟ったか。
「ご明察です。あいつは王都の封印の洞窟奥で戦ったんだ…」
忘れもしない封印の洞窟にいたモンスター。
生存している間は永遠とゴブリンを生み出し続ける。
「あの時、その様な激戦が…」
「うん。
「あぁ。俺が倒した」
初めて真相を知ったソフィーは難しい顔をして、ヴィルはやたら嬉しそうに語っていただろう。
確かにヴィルが居なければ倒せなかっただろうが、ちょっとウザい。
しかし、ベネが首を傾げながら呟いた。
「でも、あれ。聞いた話とちょっと違ってお腹の中で大きなモンスターが浮いてるよ」
そう。俺もそこは気になっていた。
よくあるホラー映画やゲームに存在する『研究所エリア』等で出てきそうなオブジェみたいになっていた。
何らかの標本にも見えなくない。実に嫌な予感しかしないオブジェだ…
「ははは、姫様、並びに魔剣使いの少年とその仲間たち」
「その他扱い!?」
ベネが憤慨していた。って言っても面識無いしなぁ……
「ボールズ。相変わらず逃げ足だけは素早いわね」
「お褒めに預かり光栄です」
「むっかー。褒めてないでしょ」
「相変わらず頭に血が登る速度だけは立派ですな」
”フォフォフォ”と、笑うボールズに魔法を打ち込む気マンマンのエリー。明らかにカウンターを狙っている。
頭に血が登っているエリーは冷静なベネとソフィーに止められていた。
「ふむ。エリーのその単細胞っぷりは
ふんふん。とボールズとえエリーの話を聞いていたメイヤード様がノートに何かをメモしていた。
エリーはメイヤード様の独り言を聞いて固まった。ソフィーとベネも固まった。
メイヤード様の【再叩き込み】それを聞いた皆が固まったのだ。
前にも似たような話をしたかもしれないが、『指導、教育、特訓、叩き込み』とメイヤード様の中でボソリと話す内容がある。
それは左から右に行くに連れて修行の内容が
メイヤード様曰く、叩き込むのは直さないと命の危険があることらしいのだが、メイヤード流では練習で死ぬ場合もある。
そういう基準で話をすると叩き込みは門下生の中でも「死んだほうがマシ」の部類に入るらしい。
エリーが恐怖のあまり顔を青くして”カタカタ”震えていた。
もちろん。俺たち三人は心のなかで手を合わせていた。
エリー。頑張れ…
「なんですか? 姫様急に大人しくなって怖気づきましたか?」
ボールズが煽ってくるが、今のエリーには何も聞こえないだろう。
エリーは今、ショックから『SD化したのか?』と、言わんばかりに小さくなっている。
飽きずに煽り続けてくるボールズに俺もイライラし始めたが、俺の前に立ちはだかった人がいた。
「メ、メイヤード様!?」
「いくらイノシシ娘だって、弟子をバカにされたら頭に来るよ」
「はははっ、年寄りの冒険者か? その構えでどうやってワシと事を構えるんだ?」
刀が無いので素手で構えているメイヤード様。
ボールズは笑っていた。完全に舐めている。
残念なやつだ……
と、言っている間にメイヤード様がボールズに仕掛けていた。
メイヤード様の姿はここに残っては居るが『残像』だ。
本物は、ボールズの後ろで回し蹴りを見舞っていた。
--ブンッ
ボールズは
「な、なん…だと!?」
「お前さんも年寄りじゃろう。年寄り同士仲良く殺ろうや」
ニヤリと笑うメイヤード様。とても邪悪だった…
これでは、どちらが悪人か分からない。
”キッ”と睨み付けられたが俺たちは咄嗟に目を逸らす。
どうやら心は一つだったようだ。
メイヤード様はボールズに向かい追撃をかける。
無数の蹴りや打撃がボールズに襲いかかる。
ボールズは何とか躱しているが避けるだけで精一杯という感じだった。
体の動きと表情を見れば全力で躱しているのが丸わかりだった。
あぁ……。メイヤード様相当頭に来てたんだな。あれは完全に遊んでるわ。
恐らくメイヤード流の武闘技【魔闘術】では土系の魔法で両腕と足に付与している。
威力は半端なく上がるが速度は半分近くまで鈍化するはずなのだ。
理由はボールズを精神的に追いつめたいだけだろう。
そして、その効果はこう表現されるだろう。『こうかは ばつぐんだ!』っと…
「ぐぐぐっ、小癪な。ブラフマまだか!!」
「おっ待たせ~。いい感じになってきたよ~」
精神的に追い詰められていたボールズは余裕を取り戻す。
そして、またあの術を口にした。
「तुम मेरे जीवन में जागो.」(汝、我の命にて目覚めよ!!)
シバがマザーゴブリンに呪文を唱えるとマザーゴブリンが苦しみだし、自分の腹を掻きむしる。
「ギャアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオ」
痛みによる断末魔を上げる。だが、直ぐに絶命したのだろう声は直ぐに消えた。
メイヤード様も状況が状況なので一旦下がってきた。
--ブシャ
--ガチャ、ガチャ…
マザーゴブリンの腹を破り出てきた
出てきたモンスターを見て俺はどういう心境だったか考えられない。
恐らくは無表情だったと思う。それ位、内心怒りで俺自身はどうにかなりそうだった。
戻ってきたアンデットモンスターには、首が取り付けられていた。
当然、父様の首である。更に鎧が剥ぎ取られた代わりに体の至る所には他の家族の顔が浮かび上がっていた。
簡単に死者を冒涜する事に激しい怒りがこみ上げるが、心のなかに存在するもう一人の俺は歓喜の声を上げた。
(いいね。心地いい怒りだ。どうだ、俺に殺らせるか?)
(お前には出番は譲らねえ。)
(強情な奴だ…!?)
等と思ってはみたものの、いざ戦闘になれば俺も奴と同じく全員殺すだろう。
--ぎゅっ
握られた手から暖かな温もりを感じる…。
「イッセイ君…」
握られた手の先を見るとソフィーが俺の手を握ってくれていた。
お陰で怒りは消えないが自分自身を見失わずに済んだ。
(ちっ。その女が居ると厄介だな。)
(いい娘だろ? 俺には勿体ない位だ。)
(…なら今から壊してやろうか?)
(何か言ったか?)
(…なんも言ってねーよ。)
もう一人の俺が自身の力の源である『怒り』で、俺の心を乗っ取ろうとしてきた。
高揚する気分とともに黒い煙が立ち込めてきて俺を覆っていく。
(ぐっ…。)
なかなかキツイ。俺の意識が怒りに染まっていく。
(どうした? このまま乗っ取ってもいいのか。)
もう一人の俺の声がドンドン大きく聞こえて来て、意識も乗っ取られそうになるが、ヴィルから放たれる波動…の様なもの。それを浴びると黒い霧がおとなしくなった。
(そんな事、俺がさせねーよ)
(ちっ、ちょっとからかっただけだろうが、真面目に取んなよ。糞魔剣風情が…)
もう一人の俺はヴィルの介入で大人しくなった。
(ありがとう。ヴィル。)
(……)
(ヴィル?)
(あぁ…。わりい何だ?)
(いや。ありがとうって言っただけだが…)
(あぁ…。そうだったな。)
(???)
ヴィルが何だか変だ。
「ボールズ!」
「野蛮な森の猿姫よ。まずは落ち着きなさい。そして崇めるのです目の前にあるのは神の力を得た傑作品ですよ。なんと美しい……」
美術品でも見るかのように惚れ惚れした顔でアンデットモンスターを眺めるボールズ。
エリーはその姿を見て絶句していた。
「……っ」
先程までデュラハンの首無し状態だったのだが、今は首が付いていた。もちろん父様の首だ。生気のない虚ろな目で"ジッ"と、こちらを見てくる。
「そんな、お義父様…ひどい」
口元を抑えてその場にしゃがみ込むソフィー。
いつの間に父様をお義父様と呼ぶ様に…
ベネも同じ様にショックで座り込んでおりエリーは歯ぎしりしながらボールズを睨んでいた。
逆にボールズと合流したブラフマはいやらしい笑顔をみせていた。
ボールズが突然笑いを止めて杖ごと下に振り下ろし、
「奴らを殺せ」
冷たく言い放つ。
ボールズに命令されたアンデットモンスターはこちらに向かって一直線で向かってきた。
「皆。手は出さないでほしい」
「「「イッセイ(君)!?」」」
俺の言葉に反応した三人。
共に戦ってくれる様な声を出してきたが、この戦いだけは俺の手でケリを付けないとダメだ。
皆には喋らせる事も許さず俺は前に出た。
父様の顔を持つアンデットモンスターは俺の精神を直接えぐってきた。更に背中や腹からジョシュア兄様が…、リナマリア姉様が…、カサリナ母様が…俺の家族が、家族の顔が
カサリナ母様…ジョシュア兄様とリナマリア姉様。酷い酷すぎる。
「ギエエエエエエエエエエエ」
アンデットモンスターが吠えるとその体に付けられた他の家族達も「ギャアギャア」鳴き出す。
微妙に本人達の声色が残っているのが辛かった。
「ひ、酷い…。酷すぎる。」
「こ、こんな事って…」
「ボールズ。あんた達はやっぱり殺すわ」
泣いてくれるのか、ソフィー、ベネありがとう。
それにエリーも怒ってくれてありがとう。
三人が反応してくれた事が嬉しかった。
俺は、アンデットモンスターに向かって歩き出す。
「あっ、イッセイ君。皆で戦いま…師匠?」
ソフィーが俺の手を握ろうとするが、その前にメイヤード様に掴まれた。
「…あいつに任せな」
メイヤード様がソフィーを諭す。
ありがとうございます。メイヤード様。
ヴィルを構えて向かってくるアンデットモンスターに対峙する。
「どれどれ…ワタシも動こうかね」
メイヤード様がよっこいしょ。と、体を動かす。
「先生?コイツは僕が」
「分かっとるよ。ワシが他の奴らを面倒見てやろうとしてるんじゃ」
「私もやるわ」
俺は前を向くとブラフマ、ボールズの2人がアンデットモンスターの後ろに立っていた。
なるほど、一理ある。
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