130話 現実
「な、んだよ……。これ…何なんだよ!!」
門を抜けると目の前に広がったのは焼け野原だった。
美しい自然は? 森は? 川は? 建物は? 整備された道は? 心優しい人達は? 元気な子供達は?
何も無い。完全に荒野と化していた。
冗談かと思い後ろを振り返ると領地を隔てる関所の門が立っている。だが反対を向き直ると荒野が永遠と続いていた。まるで隕石でも落ちたか、はたまた領地ごと
目下にある街(廃墟っぽい)に出れば誰かしら居るだろうと思った。
どんな情報だったとしてもいい結果が得られる訳がなく。生き残りが居てくれと願うだけだった。
より一層重くなった足を励まし、街まで進む。
分かってる。頭では分かっているんだ。何とか証拠だけでも掴みたい。道中も目を凝らし、情報を探しながら歩いたが街
僅かながらに残っている建物の跡地。本来なら水路が引かれ、対岸にから見えるこの領地で最大の観光名所である滝が見れる渓谷があった筈なのだが、滝は見る影もない噴出口だった場所には人工的な土の杭が打ち込まれせき止められている。更には崖も所々が陥没していて住んでいた俺だから渓谷だと分かる位だった。
隣国、ウリエル国との接続用の橋も崩され、辛うじて橋台だけが残っている状態だった。
胃がギュッっとなるのを我慢し、辺りを見渡す。勿論誰か居ないか探していた。だが、人どころか動物の気配すら感じなかった。
絶望の淵にいながら街の中心を目指す。
すると、何かの気配を感じたので物陰に隠れながらその場に急行する。
気配の感じた所まで近付くと話し声がしてきた。
念の為、物陰から覗き見るがニ人が何者か分からない。兵士っぽい出で立ちで土色の肌にお揃いの革鎧を着けていた。何か会話をしながらしきりに地面を探っていた。
このままだと敵か味方か分からないな…。
もう少し近くまで近寄ってみるか。
そう段取りを決めマーリーンによる姿を消すのとついでに気配を殺して歩み寄る。
大体100m付近まで近づくと次第にニ人の会話が聞こえてきた。
「ちっ。もうこんな所飽きたから移動を開始してくれねぇかな〜」
「…まだ、任務中だ」
「かぁー。こんな所誰もいねーだろ。最早ただの荒野じゃねーか」
「…任務だ」
「任務っつったて荒野を彷徨い歩くだけだ、ろ!」
建物の瓦礫を蹴り飛ばしながら一人の男が愚痴を漏らしていた。
ふむ。どうやら何処かの国の兵士みたいだ。
俺と同じで生き残りを探しているのか?
のぞみ見る限りでは目立った動きはない。最も彼等も生き残りを探すのに苦戦しているのは理解出来た。
そして、観察して分かったのがどうも地上の種族では無さそうだ。肌の色はやや土色で黄土色に近い。そして、顔の彫りは深く。耳が少し尖っていた。
エルフほど長くないにしても人にしては飛び出している。違いといえばそれくらいかな?
確か、闇魔法の勇者ギルさんとその相棒のえぇーっとゴリ子さんだったか? に似ている気がしたので恐らく地底人かなと、あたりをつけた。
性格は片方が武士みたいでもう一人はパリピっぽい。
武士の方が警戒心は鋭い様で、俺が近づいてからチラチラと周囲を気にしている様だったし、俺の方も何度か見られていた。まさか見えてないよな…。
いずれにしても何処かの国の兵士なら訳を話せば協力してくれるかもしれない。
そう思い姿を現そうとしたが別の声が聞こえた。
「うぅ…。たす…けて」
瓦礫の側からうめき声が聞こえた。生存者が居たのだ。
良かった。生きていてくれた。
声からするに恐らくは女性。となると他の家族もそこに居る可能性が高かった。
生存者は必死に手を伸ばしながら助けを求めていた。
俺は姿を表し瓦礫除去の手伝いをしようとしたが、兵士達は別の行動に出た。
「なんだ。まだ生きてる虫が居たのか」
ーードスン
「ぎゃああああああ」
差し伸べたのは手ではなく腰に付けた剣だった。
抜いた瞬間にそのままの勢いで、助けを求め伸ばした手の方少し奥の瓦礫を狙って何度も突き刺した。
−−グチャ。グチョ。ズチャ。ズチャ。ズチャ……
何度も何度も刺したせいで、音がエグい事になっていた。そして、その生存者は二度と声を発しなかった。
変わりに赤色の液体が少しずつ広がっていた。
「うわっ、キタネェ。踏んじまった」
パリピ兵士はおどけて見せた。
それを見た瞬間"ドクン"と胸が鳴る。
そして頭の中で声が聞こえてきた。
(あぁー。もうコイツラ殺すしかねーな)
煩い勝手に人の頭の中で叫ぶな!!
−−ドゴォーーン
俺が頭の中に居る何かと戦っている最中に、地底族の兵士達は瓦礫ごと吹き飛ばしてしまったようだ。
先程より瓦礫がぺしゃんこになっている。
「ひゃっっはー。これで虫100匹目殺しを達成したぜ」
パリピ兵士はテンション高めで瓦礫から
うぅっぷ…
色々な感情が入り混じって吐き気を催した。
(良いのか? あんな事されてるぞ)
”ギリリ”と、歯を食いしばる。
「ヒャッハー」
パリピ兵士が瓦礫の上でピョンピョン跳ねている姿を見て俺の中で何かが弾けた。
「止めろ!!」
コイツラの前に姿を現すのは良くないと思ったが、これ以上死んだ人を
「おんやぁ? あのガキどっから湧いた」
「分からん。が、何か知ってるかもしれないな」
「じゃー。殺るか?」
剣をゆっくりと持ち上げ、ノリのいい方が体を『ゆらり』と揺らした。その瞬間に場の空気が変わる。
空気がピンと張り詰め、俺をターゲッティングしたのが理解出来た。
キツくは無いがそこそこの殺気だ。戦い慣れしてるのが分かった。
ジリジリとパリピ兵士が地面を擦っていたが、サムライ兵士がパリピ兵士の前に剣を差し出した。
「ああん? 邪魔すんじゃねーよ」
「一応、生かしておけ。色々聞かねばならん」
「吊って大広場に飾っておけば勝手に出てくるだろ」
「それは、死んでからだ」
「じゃー。殺ろうぜ」
パリピ兵士は少し壊れているらしい。
サムライ兵士の言う事を全部俺を殺す方へと促していた。
「ならば好きにしろ。俺は広場に行く。ただ報告は正直にするぞ、もしかしたら分隊長が居るかもしれないからな」
「ちっ、分かったよ。あのオッサン怒らせると面倒臭えからな…。あぁーーー。分かったよチクショウ!! その代わり、終わったら俺が殺るからな!!」
「…あぁ、好きにしろ」
「て、事だガキンチョ。ちっと長生き出来たけど直ぐにパパママの所に送ってやんよ。ウシャシャシャ」
気色悪い男だ。品性の欠片もない。
だがこんなクズにもどうやら怖い上司が居るらしい。
最もコイツと同じで大層なクズなんだろうがな。
先程よりはやや緩やかな殺気に変わったパリピ兵士。
放たれた気配は明らかに『殺る気』マンマンだった。こういう奴の大体の相場は何処かで仕掛けてくる。そして、部位破壊や最悪
コイツ等は街の大広間に何かを飾っている様だ。
「ちっ。しょうがねえ。おいガキ、光栄に思えよ。勇者スキルの【中級剣技○】の俺様が相手してやるよ。なぁに殺しはしねー。ま、コイツみてえに腕は貰うけどよ」
剣についていた腕をもぎ取る。瓦礫から出ていた人の手だ。コイツは何を狂ったのか千切って持ってきたみたいだ。死者をも冒涜するとはな。
コイツは半殺しにしようと決めた瞬間。
パリピ兵士は、もぎ取った腕にキスをした。
−−プツン
俺の中で何かがキレた。
感覚的にはピアノ線やギターの弦が切れた感じ。
もうね、自分でもビックリする位、綺麗に自然にプチンと切れたよね。
−−ドゴッ!
「フギィ」
自称【中級剣技○】のパリピ兵士が吹っ飛んで、10m位離れた廃墟にぶつかった。
何だかんだで30m位離れていたが、刹那に近い位の速度で一気に距離を詰めて殴ってやった。
サムライ兵士の方も一瞬ビックリして戸惑っていたが、こちらの兵士は優秀なのか一瞬だけ見せたスキのみで、直ぐに腰のナイフを抜き、突撃してきた。
狙いは的確で顎下の首の辺りと脇腹付近の二箇所を同時に狙ってきた。
ほぅ。なかなか早いし、獲物は二本のナイフか…。
という事はこっちはナイフの特性を持った勇者か?
俺は観察しながらサムライ兵士のナイフの躱す。
しかし、奴は躊躇する事無く俺に抱きつく攻撃に切り替えてきた。俺が躱す事を見越していたようだ。
なので、対抗策でプロメテを呼んだ。抱きつかれる前に丸焼きにしてやろうと考えたからだ。
サムライ兵士の攻撃をバク宙し躱し、去り際にプロメテの火弾を飛ばし頭を狙う。
--バチィン。
被弾したかと思ったがナイフで弾きやがった。
次の瞬間、煙に混じって背中が見えた。
何か(反撃を)してくる気だ。
「ヘイケ!!」
嫌な予感を覚えた俺は咄嗟に叫んだ。腕にはめたヘイケがグニャリと形を変え始めたのが、0.2秒。なかなかの反応だ。
だが、サムライ兵士の攻撃の方が速かった。
回し蹴りが俺めがけて飛んでくる。
あの攻撃の中で反撃してくるとはやるな。しかも突起物が出ている瓦礫の方へに蹴り出してきたか…なかなか考えられている。
--バン!!
間に合わなかったので腕で止める形になった。
「!?」
思った以上に中々重いケリだ。ヘイケに当たっていなければ腕の骨がヤバかったかも。やっぱり、地底の国の人ってのは結構力が強いものなのだろうか。
吹っ飛びながらもそんな事を考えていた。
まぁ、思ったよりはやるなってだけで全然驚異ではなかった。空中で体を回転させ激突予定の瓦礫に足で着地。
反撃しようとサムライ兵士に向かっている最中パリピ兵士が鼻血を噴き出しながら目を血走らせてこっちに向かってやってきた。鼻血のせいもあってマジギレした顔がとてもコワかった。
「クソガキが殺す!!」
横一線。
ちょうど、俺を頭から足元まで2枚に卸せる真っ直ぐな剣筋が飛んできた。ブレの無く早い綺麗な剣筋だ。
馬鹿だなそんなに綺麗な剣筋だと躱してくれって言ってるもんだぜ。
吹っ飛び中も変形していたヘイケに縦長になる様に指示した。イメージとしては俺の右半身を金属で覆った様な感じだ。半身を某格ゲーのラスボスのDュアルとか、某映画のサイボーグ。Tー1○00の様にしたとかって思ってくれれば良い。
パリピ兵士の剣の上を滑るようにヘイケを当てる。
"ギャンギャン"と音や火花を発しながら通過する。
スーパースローなら見せ場になるな。
「マジかよ!?」
パリピ兵士は俺がやり過ごしたのを驚いた顔で見つめていた。ハハハッ。早く鼻血を拭け。
当て方を擦るようにしたので、回転が掛かった。
多少、角ブーストも出来たので速度も上がった筈だ。
避けないと結構ダメージが入りそうだった。
殺しはしないが数カ月はベットの上だぜ、っと。
位置調整にサムライ兵士を見るとプロメテの攻撃が効いていたんだろう。片膝を付いていた。
俺はそこを目指して行けば良いわけだ。
と、言うことで軌道修正おば…。
チョッコと体重移動して軌道を逸らす。
そして、スピンしたままサムライ兵士にドリルキックをお見舞いする。
「グハッ!?」
ドリルキックは、サムライ兵士の腹に見事に突き刺さった。
もしも擬音がしたのなら”ギュイイイイン”という音がしたことだろう。
無数のヒット数を重ねた後俺は失速し地面に着地したが、サムライ兵士は白目を向いて手をダランとさせたまま壁にぶつかった。
ピクリとも動かないけど死んではいないと思う。…たぶん。
「テメェ。よくも相棒を!」
今度は
教えるか迷っていたら既に俺に向かって剣を振り下ろしていた。
まっすぐに俺の頭を目掛けて…変に剣に正直なやつである。
「バッカス」
名前を呼んだ瞬間、俺の右手に30cm程の短槍が生成される。
バッカスが空気中に舞う鉄やらミスリルやらの粒子を集めて俺の魔力を使って固めたものだ。
出来上がった短槍の両端を持ってパリピ兵士の剣を弾く。
--ガキン!!
「何!? …しかし、そんな有り合わせの物で俺様が止まるかよ!! 死ねえ…って…あ、あれ?」
短槍ごと折ろうとして振り抜りぬいたパリピ兵士。狙いは良かったけど…
バッカスはもはや神に片足をツッコんだ精霊のため彼の作ったものはありあわせでも神具の一歩手前のものになる。そんな凄いものが業物程度で壊される訳もない。
凄い極端に言えばダイヤモンドをハサミで切ろうとしているようなもの。
技の熟練度で切れる事は切れるがこいつにそこまでのスキルがあるとは思えないな。なにせ【中級剣技○】だし…
それに、もう遅いけどね。
--ボキン…。
短槍が当たった場所からポッキリと折れた。
「なっ、なにぃ!? お、俺様の剣が!!!」
パリピ兵士は折れた剣を見て目が飛び出さんと言わんばかりに剥いていた。
えぇ…。そんなにびっくりするところですか。パッと見で分かるでしょ?
そんなナマクラと一緒にしないでいただきたい。
鬱陶しいので、立ち上がると同時に短槍でパリピ兵士の顔をぶっ叩いた。
「ぶべら」
パリピ兵士はキリモミしながら吹っ飛びサムライ兵士の上に重なるように落ちた。
二人に近づくと白目を剥いて気絶していた。
(コロセ。(↑)ころセ。(↑)殺せ。(↑))
頭の中でコールが起こった。
まるで一気飲みのテンションで煽って来る。
前より意識が呑まれそうになる。殺してやりたい衝動が押し寄せてきて……
気づけば短槍を二人に向けて構えていた。まるで、自分の中にもう一人居るみたいな感覚だった。
(煩い…俺に指図するな!!)
(クククッ。精々抗うが良い……)
「ぐぅ…。はぁ、はぁ」
頭の中で叫んでいた何かは笑いながら消えていった。
なんとか
何という余計な手間を…。殺すのはやぶさかでは無いがどうせなら面倒事は避けたい。それにどうしても聞きたいこともあるしな。
縛り上げたパリピ兵士とサムライ兵士に水を掛けて起こすが、サムライ兵士は起きる事は無かった。
「ぷはぁ…な、あっ。て、てめえ…」
パリピ兵士は俺を見るなり驚きと恐怖が入り混じった複雑な顔をしていた。
ふふっ、いい顔だ。色々と教えてもらう事にしよう。
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