129話 疑心と真実と…
どうしてこうなった? 何でこんな事が起こる? 俺は真実を知るために走っていた。
向かっているのはシェルバルト領だ。ミサキさんから聞いた情報がショッキング過ぎたため確認のために向かっているのだ。
・・・時間は叔父さんとコルオーネさんの酒盛りの場まで遡る
俺とソフィー、ベネはミサキさんに呼ばれて、彼女のラボに行った。(エリーは叔父さん達と一緒に飲んでいたので置いてきた。)
まぁ、呼び出しの理由とすれば、倒したロリイムから出たコアの解析が終わった事が一番の理由だと思う。恐らくそこから有用な情報が引き出せたんだろう。普段は適当だったり、性もない理由で呼ばれる可能性もある人だ…
そんな、あの(適当)人が
どうしても裏を勘ぐってしまう。
ベネは「どうせ大したことないから考えるだけ無駄、無駄」と言っていた。俺は、流石。ちゃんと人を見ているなぁ。と感心した。
暫く何を言われても良いように考え事をしていたらラボに着いた。
ラボの入り口に入った所で神妙な顔をしたミサキさんが出迎えてくれた。
(今現在、見た目がサイクロプスなのでしかめっ面で出迎えてくれた時に敵かと思って攻撃しそうになったのは内緒だ。)
「その顔で真面目な顔をされると色々危ないですね…」
なんて、いつもの感覚で話しかけたがリアクションは薄い。
「ミサキさんの様子が可怪しいですね。これは、明日は何か良くない事が起こるかもしれない」
そんな風におどけて見せるとベネや仲の良い研究員さんはクスクス笑っていたが、肝心のミサキさんは一切口を開かず無言のママだった。
ミサキさんに変な不気味さを感じながら、部屋に案内される。何だか調子が狂うな…。と言うか不安になる。
「…ここだ」
ミサキさんに通された部屋は俺が入院していた懐かしの一室だった。
ベットなどは無く変わりに真ん中に置かれた研究用のテーブル。そして、そこに置いてあったのは、やはりロリイムのコアだった。
何か端末がブスブス刺されていて痛々しい。よくホラーチックな何かにある脳みそに色々刺してる
「…コイツはねぇ、元々記録を撮る目的で造られたモンスターの様だねぇ。で、過去の記憶を読み解いていったんだけど、そうしたら一番古い記憶に胸糞悪い内容が入っててねぇ。見るかい?」
「えぇ。まぁ…」
そのために来たんだから当然だよな? こういう場合見ないって言うのが正解なのか? ミサキさんの意図が分からない。
俺の答えにため息を付くとコアと繋がった端末をポチポチいじるミサキさん。
端末のコマンドに反応したコアがカッと目を見開いた。
コワッ!? 戦った時より目を剥いてやがる。
目が剥きすぎててメッチャ怖いんですけど!?
−−ジジッ…ジー
コアの目から映像が映し出される。
何やら人影がモニャモニャ動いているのが分かったが、映像が安定しないせいか何がなんだか分からない。
−−ミューイーーン……ミュー…イーン
ミサキさんがレバーをグリグリ回すと、コアからラジオの周波数合わせしたみたいな音がした。爺ちゃんが大切にしていた真空管ラジオを思い出した。
写映し出された映像を見た瞬間に笑える状況では無くなった。
--ジジッ…
--ジジ…ッ…ブンッ
「‥ブラ…フマ様」
「あ…ぁ……。次は…シェル…バル……ト…領が…ター…ゲ…ットだ」
「なっ!?」
「シッ…」
コアから打ちさ出された映像に映る人影。特定は出来ていないが襲撃の予定が記録されていた。
「コイツを王城に放って時間を稼がせるんだ」
コアを叩いたのか画面が揺れた。その衝撃か? 画像が安定してきた。
「では、コイツが暴れ…」
--プッーーーー。
「あぁ、チクショウ。また止まっちゃったよ」
コアが、煙を吐いて停止した。しかも高く鳴ってはいけない音がしていた気がする。
ミサキさんは慌てて水をブッかける。
え、えっ? 何今の? いや。兎に角続きを、奴らは何を狙ってる?
だいぶ挙動不審だったと思う。キョロキョロと周りを見渡す行動を取っていた。
スローで流れる空気と激しい動悸がしてきた。
「イ…ッセ…イ…君…?」
渦に飲み込まれた様なそんな感覚。頭が重くなってくる。
ふわりと感じた柔らかな感覚とちょっと硬い感覚。それと頭を撫でられる感覚だった。左右を見るとソフィーとベネが俺の両方の腕を掴んで来た。
「よしよし。私達が居るから大丈夫だよ」
「イ…イッセイ君のた、ためなら何でも殺るわ」
頭をなでてくれたのはソフィーで、横で顔を真赤に俯いて小声で何か言ってたのはベネだった。でもおかげさまで意識がしっかりしてきた。
「ありがとう。おかげでちょっと戻ってこれた。」
内容の事を思い出す…。
あの人を小馬鹿にしたような声。完全にアイツだ。
ミサキさんのラボをぶっ壊して、研究員さんを殺し、被害をたくさん出したあの
「と言う内容だが、今事実確認を取っているからもう少しここに居てくれ」
「…なっ!?」
人を焚き付けておきながら待機しろってのはちょっと通じない話だ。
「そういう話の流れになるなら何故僕にこれを?」
「ここに居れば目が届くからさ。直ぐに戻るからここに居るんだ。わかったね?」
そう言うとミサキさんは部屋の前で陣取り部屋に鍵を掛けた。
暫く経つと部屋がノックされた。
「所長大至急お越しください」
「…直ぐに行く」
部屋のドアを開けること無く外から声がした。
ミサキさんが抑揚の無い平坦な声を出す。その反応が逆に気になったので聞いてみた。
「何かありました?」
「…いや。別件だ少し確認してくるから待っていてくれ」
まるで、死人と話しているみたいだった。
ミサキさんは一言だけ返事をすると部屋を出ていった。
ミサキさんに似つかわしく無い歯切れの悪さを感じた。まぁ、そのお陰でなんとなく悟ってしまったわけだ。しかも、しっかり扉に鍵をかけていった。これは俺を出させまいとした処置だろうな。
「くそっ…」
俺は閉じ込められた。が、納得出来ず壁にパンチを繰り出す。
こんな所でモタモタしていられない・・・。
俺の不安はドンドン強くなっていくのを感じた。
「イッセイ・・君?」
ベネが俺を見て怯えていた。
そして、ベネの言葉に反応したソフィーも俺を見て凄い顔をしていた。
驚いたのは俺が『ジッ』と耐えていた事だ。握りしめた拳に爪が食い込んでおり。
床に血の水たまり出来ていた。ベネとソフィーはそれを見て驚いたのだろう。
「イッセイ君。だい…じょう…ぶ?」
今すぐここをぶっ壊してでもシェルバルト領へ行きたい。
無事かどうか確認したいだけ。俺だけなら2〜3日あれば行って帰ってこれる。
その気持ちだけが堂々巡りを繰り返し胸の中でどす黒い塊みたいになっていた。
--ドクン!!
心臓の奥から俺とは違う何かの鼓動を感じる。
(だったら。ここを破壊すれば良いじゃねーか)
鼓動がなると直ぐに頭の中で声が聞こえる。
くっ、まただこの声を聞いているとつい従ってしまう。
(そんな事はない。ミサキさんが、帰ってくるまで待っていれば結果は分かる。)
(そんな悠長デ、大丈夫ダカ?)
(どう言う・・意味だ?)
もう一つ、頭の中で声が増えた。
最初の声は俺に行動を扇動し、2番目の声は俺に
俺が自信を持ってない部分をしつこく聞いてくる。
そして、さも名案を出したように言ってくる。
(既ニ攻撃ヲ受けテイル。可能性ヲ考えロ。お前ハ助けニ行かなくて良いダカ?)
この言葉を聞いて俺は納得してしまった。
そうだ。その通りだ。
と。
こうやって納得してしまうと俺の心は頭に聞こえる声に抵抗しなくなる。
「バッカス」
右手を前に出しバッカスの力を使った弾丸を撃つ。
その際、右手から黒い煙のようなものが発現しいつもより力が溢れるのを感じた。
−−ドン、ドン、ドン。
右手からは黒ずんだ岩の様な塊が吐き出され、グラグラと建物を揺らしながら壁にぶつかる。
壁にはいくつかの穴が開き蹴破れそうな。
脆くなった壁に向かって蹴りを繰り出し、壁に穴を開けた。
「「イッセイ君!」」
ソフィーとベネが驚いた様子で俺を見るが、
「ごめん。僕は行くよ」
とだけ言い穴から飛び降りた。
「セティ」
セティの名前を呼ぶと足の裏に風の力が付与され、着地時地面への着地が軽く感じた。跳ね返ったと言ってもいい。
俺はその力を流用しジャンプする。
大体、5メートル位は飛んだであろう。
そのまま、前に飛びホッピングする様に移動を開始した。
ソフィーSide
イッセイ君が壁に穴を開け脱出をしてしまった。理由はシェルバルト領に帰るためだろう。あんな映像を見て家族が身の危険に晒されていると言われれば、誰だって飛んで帰る。
「なんだい今の音…は? って、やっぱり止められなかったよなぁ…」
ミサキが部屋に駆け込んできた。そして、この状態を想像していたのだろう。
イッセイ君が出ていった穴を見てあきらかに落胆していた。
しかし、あまりにも遅い。イッセイ君はもう豆粒の様に小さくなっていた。
「当たり前でしょ。ミサキ。貴女こうなることを予想しながらもイッセイ君に見せたわね?」
それに憤りも感じている。
私達にイッセイ君の足止め役をやらせたこともあるが、彼に何であんな映像を見せたのか私いや私達は許せなかった。
ベネも結構な存在感を出してミサキを見ている。
「あぁ、ソフィーちゃん。その事については言い訳しない。それに私も話さないといけないことがある。……シェルバルト領は…滅んだみたいだ」
「「へっ?」」
下を向いたまま顔を上げないミサキの声は私とベネは顔を見合わせた。
今ここにイッセイ君が居ない事を神に感謝した。
・・・時は冒頭に戻る。
「はぁー。はぁー。はぁー。しんどい・・・。がぁー。ふっ、ふぅー。」
休みなく必死に走ってきたせいで脇腹が痛い。木にもたれ掛かってちょっと休憩中。
湧き水でもあれば多少茶色くても頭っから突っ込みたい位だ。
日はまだ青い空だが、少しオレンジ掛かった色が見え始めている。
本来なら商人が馬車で1ヶ月位掛けて王都に行くペースなので驚異と言えば脅威だ。
ラボを飛び出してから一日足らずで着いた計算だ。
「はぁ…家の領って、ダンジョン兼隣国の門兼飲料水用の岸壁と滝壺があるからなぁ…。こっちにも用水引いたほうが良いね。汗を流したり喉をうるわすのに必要だな。よし!! 父様に進言しよう」
胃から臓器が飛び出しそうな位に痛い脇腹を押さえながら考えていた。
こう言うどうでも良いことを思えるって事は良いことだ。心に余裕が出てきた証拠だった。
まだ少しダルいけど、立ち上がり領の入り口へと歩く。
ここからは少し歩いてもいいだろう。もう、目と鼻の先だ。
流石に俺も本気出しすぎたな。直ぐに熱くなる性格は少し考えようだ。今後の課題にしなくては…といってもラボを出たばっかりの時は頭に響く声に気を取られていた。
改めて掌を見るとあの力は何だったんだ?
あの声も領の近くに来るに連れてだんだん聞こえなくなって来た。
なーんて事を考えていたら領への入場門が見えてきた。
何年も経っているから門壁も多少ガタついて見える。
と言っても前に見たときと比べてさほど問題では無さそうだ。
「ふぃー。驚いた。ミサキさんが神妙な顔をしているから焦って来てしまったけどって、マズイな。戻ったらラボの穴の修理費が高く付きそうだ。父様に相談しよう。王都で変な噂を聞いたのですっ飛んできたら色々壊したと正直に話そう…」
呆れられるかもしれないが、それもたまには良いだろうと思う。
…あれこれ考えていたが、どうも心音がさっきからバクバクと背中を叩く様に大きく鳴っている。しかも、冷静になればなるほど心音は早く、大きく鼓動した。
血液の循環速度が高まると体温が下がる効果でもあるんだろうか? 先程から血の気が引いて少し寒気を感じる。
前にあるのは間違いなくシェルバルト領に入るための入場門だ。
扉は閉まっているが、門壁は建っているし、道も荒れてない。
「はぁ。はぁ。はぁ。」
目眩がしてきた。吐きそうだ。きっと、疲れが出てきたのだ。きっとそうだ。
門に近づくに連れ吐き気や動悸が強くなる。めまいがして視界が歪む…
何。簡単だ。あの扉を開けて…久しぶりに街の皆に会って、実家に帰ってご飯を食べて…
頭がグワングワンいいだした。駄目だ。逃げちゃ。駄目だ…真実を見ないと。
俺だって気づいている。今の状態はおかしい。門が開いてない。人が居ない。そして、何より、何の音もしない。
人々の声も喧騒も笑い声も動物の音も気配も虫の音すらしない。完全な無音だ。
こんなのは異常だ。何かあったとしか思えない。
--ギギギギギ……
丁番が変な音を立てた。何年も開けていないような変な音だった。
「あああ…」
俺は門を開けて驚愕した。
目の前には廃墟と化したシェルバルト領があった。
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