108話 ウッザー公爵領・・ですか?

「う、うーん・・・」

「あっ、ソフィー。起こした?」


 目を覚ましたソフィー。

 顔を見るとまだ少し顔色が悪いか。


「イッセイ君・・・。ここは?」

「あっ、まだ寝てないとダメだ。今は馬車の中だよ」


「あ、そうなんだ。ゴメンね」

「大丈夫。ソフィーも色々あって疲れただけだから」


 無理に身体を起こそうとするソフィーの身体を抑え

 今まで寝かせていた所に戻す。


「もう少ししたら目的地に着くからそれまでは横になってなよ。」

「・・・うん。」


 ソフィーを横にすると起き上がり、馬車の御者ぎょしゃをやっているエリーとベネの所へ行く。


「ソフィー起きたよ」

「そっか、良かったー」

「いやー。急に倒れるからビックリしたよ」


「おい。手綱をを離すな」


 俺がソフィーの事を報告すると2人から歓喜の声が上がった。

 馬車の手綱を離してまでソフィーの安否を気遣ってくれるのは嬉しいが、事故るともっと大変だから止めてくれ。せめて馬車を停めてくれ。


 という事で休憩できる場所まではこのまま馬車を進めてもらうことにした。


 ソフィーの居るところまで戻り、彼女の頭に濡らしたタオルを置く。

 ソフィーは驚いた顔を見せながらも頭に置かれたタオルが良かったのか、気持ち良さそうにしていた。


「もうちょっと、ゆっくりしてような」

「う、うん。でも、どこに向かってるの?」

「公爵領。王国でも良かったんだけど、どちらかと言うと近かったし、いくつか気になることもあるからね」


 そう。俺達は今馬車で公爵領へと向かっている。

 理由は、クエスト完了のお知らせともしかしたらユキマルに憑いていた得体の知れないアイツが公爵領の方へ進んで行ったとを入手した。


 まぁ、魂魄達が得体のしれない何かを見たと騒いでいたから、そう判断したんだけどね。

 誰かに引っ付かれても大変なので現地に行って出来れば退治したい。

 そのため公爵領へと向かう事にしたのだ。

 因みに当のユキマルはエリーとベネがいる馬車の操縦席で日向ぼっこしていた。


 何故か喋れないふり・・・・・・をしている。


「そっか・・・、私どうしちゃったの?」


 ソフィーは意識がはっきりしてきたみたいで、こちらの会話にも理解出来てきた様だ。

 ソフィーが倒れた経緯は馬車を操る2人がしてくれる事だろう。

 俺が2人を見ると話に聞き耳を立てていたのか、エリーとベネがこっちを向いて頷いていた。


 だから、馬車の操縦に集中しろと言っているだるるぉぉ!!



「ソフィー。その事については後で2人から説明があると思うよ。今は馬車を動かしているからもう少し進んだら僕と変わる。それまでは少し休んだほうが良い」


 俺がそう言うとソフィーは、「うん。」と言って目を閉じた。

 そんなに時間も掛からずに寝息が聞こえてきた。

 やっぱり疲れて居たようだ。


 今回、俺が一番悪い。

 ソフィーが倒れた後、色々話を聞いたがそりゃ不安にもなるな・・・。

 ソフィーは鏡の記憶が戻ってから自分がソフィーと鏡のどっちが本当の自分なのかハッキリしていなかったらしい。

 そんな中、俺が前より親しい話し方をする事にたいへん戸惑ったようだ。

 最初は嬉しかったが、自分に向けられた言葉ではないのでは? と、迷いが生じてしまったのだとか。


 俺が鏡と話をした時の記憶は無いらしい。

 いや。あの時、鏡はソフィーの本来の意識は気を失っているから何も知らない的な、そう言っていたかもしれない。俺がすっかり忘れていたのかも・・・。

 それで、エリーとベネが落ち込み気味なソフィーを見て心配し一計を講じる事にしたらしい。それが先程の出来事だ。


 ソフィーのためって言うことだったので、責めるに責められないがソフィーに内緒にしてた事と、自分達の欲求をそこに乗せてきた。

 まぁ、悪く言えばソフィーを全面に出してダシにしたのだ。

 今回、俺が全面的に悪いのでソフィーに騙し討ちした件と、ダシに使った点、その2点だけは叱った。


 俺は、何れ冒険者となりこの場所を離れようとしている俺は皆と距離を作っていた。

 その方が皆楽だと思っていたのだが、かえって皆を苦しめていた様だ。

 いや。俺がビビリだっただけだ。この3人から嫌われたら立ち直れそうになかったから自ら遠ざけていただけだ。


 その事をエリーとベネからこんこんと聞かされた。

 そして、


「イッセイが冒険者になっても私付いていくからね。」

「私だってイッセイ君ともエリーとも当然ソフィーとも離れないよ」

「2人とも・・・」


 ジーンと来た。

 何があってもこの3人だけは護ろう。


 そう心に誓った。



 ・・・



 馬車を走らせて数時間。

 今は俺が御者をやっている。


 エリーとベネはソフィーの所で看病をしながら3人で喋っていた。

 仲良く3人で喋っている所をみると仲直り出来たのだろう。


 良かった良かった。


 そんな、まったりした出来事も目の前の建物が見えてきた事で少し緊張気味になった。王都と同じ位立派な城壁が見え始める。

 更に近付くと大きな門が見えてきてその口を固く閉ざしていた。

 そのあまりの堅固な姿に何かあったのかと心配になってきた。


 城門の前で暇そうにしていた兵士さんが俺達を見つけると驚いた様子で駆け寄ってきた。


「待て! その馬車待て!!」


 大腕を振って馬車を止めようとする。

 俺は手綱を引いて馬達を止めた。


「お前達。どこから来たんだ?」


 先程まで突っ立ってるだけだった兵士さんは食い気味に質問してくる。

 事情を説明しようにも顔が近いので自然と仰け反ってしまう。


「おい。何で逃げる」


 いやいや。逃げますとも。唾がベシベシ飛んでくるんだから普通なら嫌でしょ。


「いやいや。逃げはしませんよ。僕達は王都から来た者です。領主様への謁見を希望します」

「嘘を付け」

「はっ?」


 どこから来たって聞いてきたから答えただけなのに嘘つき呼ばわりされた。

 結構イラッとした。


「お前達、どっからどう見ても子供だろ? 今、この街道は通行止めになっている。それをお前ら子供だけで来るなんて可笑しいだろ?」


 あぁ。まぁ、真っ当なお言葉ではある。

 ただ、上に確認ぐらいしてくれても良いんじゃないか? とは思った。


「怪しい奴等だ。正直に言わないと牢屋に打ち込むぞ」


 手に持つ武器をこちらに向けて威嚇してくる兵士さん。


 おいおい。子供に武器を向けるなよ。


 その後も色々試した。

 ベネとソフィーに顔を出してもらったが信用してもらえず。王国に確認してもらおうにも動いてくれそうにも無かった。

 かと言って引き返そうにも怪しい奴だ。と、逃してもくれない。八方塞がりな状況に俺も堪忍袋がキレそうだった。


 寝かすか。


 俺の他にエリーが既に臨戦態勢だ。

 俺以外にもソフィーとベネが嘘つき呼ばわれされたのが気に食わないと言ったところだろう。


 タイミングを計って後は動くだけ。

 そう思って構えていた時、


「イッセイ。君はイッセイかな?」


 声がしたので見上げてみると父様(?)が居た。


「父様?」

「父様!? あ、アレン様は、こんなに大きなお子様がいらしたのですか?」

「いいや。僕の子では無いよ。肉親ではあるけど」


 笑みが柔らかい父様に似ている人は、確かに若い。

 青年と言っても良いくらいだ。


 そして、アレンという名前何処かで・・・・? 

 あっ、思い出した。


 俺は恐れ恐れ頭を下げる。


「もしかして、アレン兄様・・・ですか?」

「そう。初めまして私の弟のイッセイ君」


 シェルバルト家長男アレン=ル=シェルバルトがそこに居た。



 ・・・



「ソフィア姫様。ベネッタ嬢。エレンシア嬢。遠路遥々この地に起こし下さり誠にありがとうございます」


 アレン兄様は俺達を宿へと案内し、一段落させてから公爵様の居る屋敷へと案内してくれた。

 今は、公爵を待つ間に通された部屋にてアレン兄様と皆が挨拶をしたところである。


「アレン様。お顔を上げてください。今は冒険者をしているただのソフィアです」

「私も同じにございます。アレン様」

「私も同じ冒険者です。アレン様」


 こういう時は一応はしきたりに沿って家が上の順で挨拶する。俺たちの中で家は既に関係のないものとなりつつあるが、こう言う場合は一応形式に習ったほうが後々揉めない。ただそれだけの理由で、ソフィー、ベネ、エリーの順で簡単に挨拶を済ませた。


「なるほど、かしこまりました。ソフィア様は我らが一族の新しい妹ぎみと言うことで、お2人はそのご友人と言う事で対応させていただきます」

「ありがとうございます」


 ソファーに腰掛け皆で暫く雑談をしていると銅鑼のようなモノが鳴らされる。


 ビックリした・・・。


「ご当主様のおなーり」


 何処の大名だ? と、言いたくなるような おいだし を受けて扉に注目するが・・・


 しーん。


 誰も来ない。

 誤報かな? とも思ったが・・・


 何か得体のしれない気配がしたのでそちらを見てみると・・・座っている人間の数が増えていた。


 しかも、気付かないフリをしている俺達に混じって誰も来ない扉を見ていた。


 う、うぜぇ・・・。


 そうだ。この人あのウッザー君の父親だ。彼も何かと寒いギャグやシャレばかり言ってくるので、ウザがられていた。

 公爵家の人なのに平民の人にも差を付けないから良い人ではあったんだけどね。


 既にネタバラシのタイミングになったらしく。

 こっちに気づいたフリをして二度見してきた。


 しかも、顔半分だけメイクされている。

 アシュラ○爵みたい。


 ベネとエリーはツボだった様で俯いてプルプルしていた。


 こっちを見て笑った時に見せた歯がお歯黒になっており、振ってきた手には下手くそなフリ○メイソンのマークみたいなのが描いてあった。


「ブハッ」


 流石のお歯黒にはソフィーも予想外だったのだろう。

 吹き出していた。


 俺はある程度予想出来ていたので堪える事が出来た。

 って言うかこれ笑うのと笑わないのどっちが正解よ。


「うーん。なかなかしぶといでおじゃる。」


 どうやら、笑う・・が正解だった様だ。

 適当なタイミングで笑うしかない。


 サイレントと呼ばれる寸劇を止めトーク戦に切り替えた公爵。

 妙に高いキーが更にギャップを呼んだようで、既に3人は爆笑の渦に包まれておりアレン兄様は俺にはよ終わらせろと言う視線を寄越した。


「ミーは、オマーカセ=ラ=ウッザーでおじゃる。」


 くっ、名前からしてうぜぇ。

 ヒ○ザーラおまかせ。って、CMかよ!!


 思わずつっこみそうになってしまった。

 笑いどころを探さないといけないのだが話を聞けば聞くほどツッコミどころしか気にならねぇ。


「こたヴィは、・・・・噛んじゃったでおじゃる」


 うぜええええええ。


 ツッコみたくて歯をギリギリさせていると公爵様は話を進めた。


 いちいち、残念そうな顔がムカつく。


「此度はミーのワガママに付き合って貰って悪かったでおじゃる。ましてや姫殿下や侯爵家のご令嬢。エルフの姫まで駆けつけてくださるとは王国の心遣いに感謝いたすでおじゃる」


 深々と頭を下げる下げる公爵様。

 公爵ほどの気位の高い人が人前でそうそう頭は下げない。

 だが、この公爵様はそういったエリート思考が薄いのかもしれない。いずれにしても好感は持てそうだ。


 ふと、頭に乗っていた帽子がはらりと床に落ちた。


 あっ、と思ったが見えた頭の頭頂部には、


 髪の毛が一本だけヒョロンと自己主張していた。


「ツルッパゲじゃないのかよ!」


 あっ。思わずツッコんでしまった・・・。

 場はしんと静まり返り重々しい空気が流れていた。


 ヤベェ。やっちまった。


「ぶっ。ぷははははは。確かにツルッパゲじゃない」

「や、止めて。お、お腹が痛い。ひっ、ひっ」

「イッセイ君。そこはツッコんじゃ駄目じゃない」


 女性陣には大受けだった。

 アレン兄様も笑いをこらえている様だった。

 ただ、ただし公爵様は一切笑っていなかった。


 ただ俯いてプルプル小刻みに震えている。


 あらぁ、これオワコンじゃなーい?


 俺の背中には冷や汗がどっと吹き出していた。


「ひ、姫様」

「はははっ、ハッ。な、何でしょうか?」


 取り乱していたことに気付いたソフィー。

 名指しされて目を泳がせていた。


「つ、つつ」

「つつつ?」

「ツッコミとはなんですか!!」


 つぶらな瞳で目をキラキラさせた公爵様が勢いよく立ち上がった。


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