82話 これで『依頼達成』ですか?
「さて、時間もあまりないし始めますか。」
「イッセイ。何でオレを固定しているんだ?」
大きな岩を作り、プロメテをそこに固定する。
プロメテはこれで
それを不思議に思ったプロメテが質問してくる。
「・・・プロメテ。世の中には知らない方が良いって事もあるんですよ。」
「そ、そうなのか。なら良いか。ガハハッ。」
おいおい。精霊がそんな適当な返答に納得して良いのか?
もっとも、理由はベネッタ嬢が動くプロメテに近寄らないから。なので、どちらにしても言えない。
「これに触るの?」
プロメテを『これ』扱いするベネッタ嬢。
眉を
そんなに嫌なんだ・・・。
ベネッタ嬢の心情を察しては見たものの。
バッカス曰く、魔力の復活には恐らくこの方法しか解消出来ない。
なので、
「はい。
「分かったわよ・・・・えいっ!!」
--バチーン
「ぐおおおおお。」
目を瞑ってプロメテのオデコに掌底をぶつけるベネッタ嬢。
プロメテは力を逃がす余裕が無く、貼り付けの石に頭をぶつけていた。
そんなに強くやらなくてもいいのに・・・ちょっと、気の毒になってきた。
「きゃああ。痛がるプロメテ様かわいいぃぃぃ。」
「がはは、そうだろう。これは後頭部を鍛える訓練だ。さぁ、もっとこおおいいい。」
バロウさんの顔は悦な顔をしている。
この表情で、バロウさんとは永遠に分かり会える日が来ないと思っている。
逆にベネッタ嬢が顔色を青くして過呼吸気味になっていた。
「うっ。・・・で、イッセイ君。これはどうするの?」
プロメテの頭に掌を置きながらも体は離れたがるといった奇妙な行動を取っているベネッタ嬢。俺もプロメテの頭に触れる。
「『こう』するんです。」
「イッセイ。今じゃ。」
「あがががががががあががっががががががががががががががが」
「なっ、何? きゃっ!」
バッカスの声に合わせて魔力を込めると、プロメテは気を失ったのか貼り付けられた人みたいになった。そして、プロメテのおデコに精霊界の門が開いた。
プロメテを媒介し精霊界の門が開く。
そして、ベネッタ嬢の手はその門に吸われるように奥へと突き刺さる。
「えっ、えっ?」
横から見ると手首から先はここには居ない。時空に食われたようになっていた。
いきなりの事でベネッタ嬢も戸惑っている。
「ベネッタ様。手に触れたものを掴んで。」
俺が話しかけると手応えが合ったのか、何かを掴んでひっぱり出した。
「こ、これ?」
--ヒュポン。
「ピュー。」
穴から出てきた精霊は小さな火の鳥だった。
「あら可愛い。」
「あれぇ、サラマンダーじゃない?」
「あら。そうですね。」
「サラマンダー?」
何、そのすっごい速そうなやつ。・・・ヨ○氏ね。ってやつね。
「ほほー。聖獣か。」
「「聖獣!?」」
セティ、カズハ、バッカスの会話を聞いて俺とベネッタ嬢は驚いた。
聖獣とはこの世界にて節目節目に現れ色々と偉業や伝説を残した存在である。
「ほむ。まだ若い聖獣じゃがこやつは凄いぞ。何よりもはや「ちょっと待った。それはさっき僕が言いました。」・・そ、そうか。」
「とにかく凄いのね。でも、そんな事どうでも良いわ。この子すごく可愛いんだもん。」
ベネッタ嬢はサラマンダーを気に入ってくれたようだ。
「どうします? まだ、後2人残ってますが?」
「いえ。私はこの子だけでいい。ううん。この子だけが良いの。」
「ピュー。」
俺はセティとカズハを見ると2人は凄く嬉しそうに頷いていた。
ベネッタ嬢の掌に乗るサラマンダーも心を打たれたのか気持ち良さそうな顔でベネッタ嬢の掌へ頭を擦り付けていた。
どうやらお互いに相性は良かったらしい。既に契約が終了している。
では、最後の仕上げに取り掛かろう。
「ベネッタ様。最後に得意な火属性の魔法で得意な
「イッセイ君。私、実は・・・」
「大丈夫。貴女は聖獣を召喚したのですよ。いつもの自信は何処にいったのですか?」
「ピュー。」
俺の言葉に合わせるようにサラマンダーが鳴いた。
「お前も応援してくれるの?」
「ピュピィ。」
「あぁ、そうそう。精霊は早目に名前を付けて上げてください。サラマンダーって言うのは種族で名前は別ですから。」
「それなら、あなたは"サン"ね。この国で光や温かいと言う意味を持つわ。」
「ピュピィ。」
「さぁ。そろそろ自慢の魔法を見せてください。未来の宮廷魔導師が中級如きで躊躇するのですか?」
「分かったわ。そこで見てなさい。」
皆から少し離れた場所で詠唱を始めたベネッタ嬢。
魔力が高まっていくのが分かる。何時もなら大体この辺で魔力が四散するのだが、今日は最後まで詠唱できていた。
理由は明白だ。頭の上にいるサラマンダーのサンが四散する魔力を吸収して、ベネッタ嬢へと戻していた。
「いける・・・。"ロア・フレイム"」
ベネッタ嬢が魔法を詠唱し終わると天高く魔法を打ち上げる。これは、火属性の魔法が森を焼かないための配慮なのだが今日のベネッタ嬢は格が違った。
--キュウウゥゥ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
--ドゴォオオオオオオン!!
中級魔法といえ普通の威力なら良くても火の玉が飛ぶ程度なのだが、ベネッタ嬢の魔法はまさに火球レベルだった。
高温過ぎて空気を切り裂く音が聴こえ、中級と表現するには少々無理がある巨大な爆発と轟音、振動が発生した。
「うぉ。すごいですね。」
「・・な、何これ?」
直ぐにアクアとセティに森全体を水のバリアで守る手配をした。
そうしないと落ちてくる火の粉で森が全焼しそうだったからだ。
ベネッタ嬢だけが肩を落として放心状態になっている。
「イ、イッセイ君・・・これは・・・。」
「ベネッタ様が中級が使えなくなってからもずっと修行を続けてきた結果ですよ。」
そう。これはベネッタ嬢の努力の結晶。
恐らく実力を取り返そうと必死で訓練を続けてきた結果なのだ。
俺も予想以上でびっくりしたけどさ。
「イ、イッセ・・・・」
「おっと。ベネッタ様の魔法が落ちてきますよ。」
「え? きゃああああああ。」
真上に撃った魔法の威力が高すぎて消えなかった残りが自由落下してきた。
ベネッタ嬢は恐怖のあまり俺に抱きついてきた。
「大丈夫ですよ。」
「!!?」
俺は左手でベネッタ嬢を抱くと右手を空へと掲げる。
するとアクアとセティが張ってくれた防御壁が火球を包み込む様に球体に変わる。
--ジュウウワアアアアアア
火球が飲み込まれ水蒸気となって霧を発生させた。
ホワイトアウトしたのだ。
「な、何?」
「霧です。直ぐに消しますからちょっとお待ち・・・!?」
ほっぺに柔らかい感覚を覚える。
以前、エリーからされた感覚に近い。
「イッセイ君。今日はありがとう・・・・。」
聞こえるベネッタ嬢の声が凄く近い。
「え? え?」
俺は驚いていた。
--ふわー。
優しい風が辺りを覆っていた霧を四散させる。
セティが掛けてくれたのだろう。
「お嬢様ー。」
薄れていく霧とは反対にバロウさんの声が聞こえてくる。
「あの・・・・イッセイ君。そろそろ離してくれる。」
あぁ。しまった。ベネッタ嬢を抱きしめたままだった。
慌てて離れる訳にもいかず、ゆっくりと身体を離し床に座らせる。
「すみません。ベネッタ様。「ベネッタ。」は?」
「ベネッタで良いわ。」
「いや、しかし「ベネッタ!!」」
「はい。ベネ・・ッタ。」
侯爵家の子女を呼び捨てにするなんて、そんなのがソフィとエリーバレたら・・・・。
うん。殺されるな。
あまり学園にも来ないみたいだし、会うのは極力避ければいいか。
「お嬢様! ご無事なのですか?」
霧が晴れて真っ先に駆けつけてきたのはバロウさん。
流石、ベネッタ嬢の側近と言えよう。
「大丈夫。イッセイが守ってくれたわ。」
わお。急に呼び捨てとか大胆。何かあったと宣言してるみたい。
バロウさんも何か気づいたようでにっこり微笑んでいた。
別にそこまで期待されるような事は起こって無いですけどね。
「お嬢様。すっかり元通りでございますね。」
「バロウ。今までこんな事に付き合ってくれてありがとう。おかげで前より良くなったわ。この子のおかげね。」
ベネッタ嬢がサンの首を撫でると気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。
ベネッタ嬢とバロウさんはお互いに良かったと満面の笑みを見せあっていた。俺の役目もここまでだな。
「では、僕はそろそろ帰るとします。」
「イッセイ。ありがとう。」
「イッセイ様。この御恩忘れません。」
「いえいえ。僕もベネッタから魔導図書館への入館を約束して頂いてますから。あっ、くれぐれも今日の事はご内密にお願いします。そのうちお達しはあると思いますが・・・。」
そう言うと岩に張り付いたままのプロメテを回収して帰ることにした。
「プロメテお疲れ様。」
「がはは。オレにかかればなんてこと無い。任せておけ。」
青白くなったプロメテを見れば相当無理してたのは理解出来る。
サクッと回収して俺の魔力を注いであげよう。
多少やりすぎた気はするが、まぁ大丈夫だ。
ベネッタも悩みから開放されるだろ。依頼は果たした。
俺はその場を後にした。
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