71話 レイスのモッブさんとリンさん

 エリーが森の奥へとかけていくのを見守ってから魔闘技を発動させる。なるべく本気の魔力を込めた魔闘技を発現させる。体が羽になったようなフワフワした感覚になり辺りも遅く感じる。


「試しに一周走ってみるか」


 辺り一面周りに見える木々を使いなるべく複雑な経路を頭に描くと心の中でスタートを念じる。

 できうる限りの素早く動く様に心掛けて動いた。

 俺が木々に触れる度にいくつか葉っぱが枝から外れたが俺が地面に戻っても葉っぱは木から外れた辺りでユラユラと自由落下を続けていた。

 第一段階の出来としては上々だろう。


 魔闘技を解くと一気に脱力感と消えていた体の重み、そして半分以上減った魔力によって倦怠感が同時に襲ってきた。


「ぐぬぬぬ……」


 ゴソゴソと持ってきたカバンを漁り中に入っている液体入りの瓶を取り出すと乱暴に開け溢れるのも気にせず口に流し込む。服に溢れて汚れてしまったが今はそんな事を気にする暇がない。


 液体を飲み終えた俺は地面に大の字に寝転がると森の匂いがする空気を目一杯吸い込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……はぁぁ」


 心臓がドクドク激しく暴れていたがそれも徐々に落ち着いてきた。

 先程飲んだのは魔力回復を促進させる薬だマークさん印なので街で売っているものより効き目があるような気がする。


「全力を出してみたけど……これは駄目だ」


 息は整ってきたが身体は動かない。

 成長しきっていない体で全力は負担が大きかったらしく完全に筋肉が摩耗していた。筋肉断裂等は無さそうだが極度の筋肉痛になったと思われる。今は身体を少しでも動かすと身体のあっちこっちがビリビリと痛い。

 かと言ってこのままだとモンスターが出てくれば襲われる可能性も高いため再度カバンに腕を伸ばすと中に入っている、先程とは違う容器の瓶に手を伸ばした。


 寝転がりつつプルプルした手では飲むのも容易ではないが何とか口元まで持ってくる。そしてまたもこぼしつつ何とか飲む事が出来た。


「ふぅぅぅーー」


 身体を地面に預けると大の字になる。

 今飲んだのは回復薬でこれは何処にでも売っている物だ筋肉痛程度なら少し休めば楽になる。


 再度森の空気を吸い気持ちを抑えながら体力の回復を待っていた。



 ・・・



 あれから数分ジッとしていたのだが魔力はある程度回復してきたが体調はいまイチ戻っていなかった。

 モンスター出現など咄嗟の対応にはある程度動けそうだが身体を動かすとダルい。もう少し休憩が必要な様だ。


「くっ……かなり身体を酷使していたようだな。ここじゃあ薄い・・なぁ。でも、仕方がないあれをやるか……」


 座禅を組むように座り直し深い深呼吸をする。

 この時出来るだけ酸素が全身に行き渡るのをイメージできる事が大切である。


 イッセイが始めたのは『内気法』と呼ばれる本来なら魔力を取り込むために行われるトレーニングだ。しかしこの内気法は体調の調整にも効果があると精霊の皆からアドバイスを受けていた。森や川、火のそば等精霊の多くいる場所、俗に『濃い場所』と呼ばれる所で行えばより効果は高いようだ。


 何度か深呼吸するとその場の空気に溶け込むように神経を集中していく。ここで魔力もついでに身体に通す。

 精霊のみんな曰く『魔力も生命維持に必要』らしく体から巡回させる事により細胞の活性化に繋がるらしいのだ。


 目を瞑り精神を集中させる。当然モンスターの襲来に備えて魔力探査も同時に仕掛けていた。

 すると、何かが魔力探査に引っかかった。

 目を明けて周囲を確認するが特に何も見えず魔力探査も反応を感じなかった。


(おかしいなぁ?)


 再び目を瞑り魔力探査をかけると明らかに2つほど存在を感じる事が出来た。


 ???


 よく分からない感覚にうす気味悪さを感じたが、向こうは俺に気づいているわけでも無さそうでフラフラとコチラに近寄ってくる。


『おやおや。ここにゴブリンの子供が寝ておるぞい』

『モッブさん。この子はゴブリンの子供ではないですよ』

『おやおや。こりゃ一本取られたぞい』

『別に何も言ってねーよ。ボケジジイ』


 こ、これは……、どう判断するのが正解なのだろうか?


 俺の目の前に現れた『何か』から言葉が聞こえて困惑した。しかも俺が寝ていると勘違いしているこれらのせいで目を開ける事もできない。

 取り敢えず命の危険も無さそうなので飽きて何処かに行ってくれるのを待つしかなそうだ。


 精霊か何かの類だろうと判断したイッセイは再び瞑想しようとする。


『おーい。(ゴブ)リンさん。飯はまだかい?』

『……モッブさん。さっき食べたっしょ? その辺で山になって死んでるモンスターを』


 サッサと何処かへ行けばいいものをなんでか分からないが目の前に腰を下ろしたようだ。

 しかも飯を食おうとしているようだ。勘弁してほしい。


『あっれ〜。そうだっけ?』

『あんまり食べすぎるとまた、人を襲いたい衝動に駆られるよ』

『えっ、またレイスってる?』


 しかも物騒な事を言い始めている始末だ。

 って言うかレイス悪霊系ってそういう過程でなるの……?


 倒すかどうかを考えているが目を開けても視認出来ない存在相手の対処法など分からない。

 いっその事立ち上がって魔闘技のフルスロットルで振り切る事も考えたが身体の回復はそこまで進んでいなかった。


『うーん。今日も長閑だね』

『……ソウデスネ』


 何故かここでまったりし始める何か……Aさん。Bさんは呆れたように相槌を打っていた。

 正直早く何処かへ行ってほしい。

 瞑想を全く集中できない俺は歯噛みしてしまう。


『で、君はここに何しに来たの?』


 咄嗟のことで意味が分からなかったがどうやら俺に向かって言ってきたのだと気付いた時には身体から魔力が減り始めていた。


「ッーー!?」


 俺は身体を起こすとその場から出来るだけ飛のいた。

 さっきいた場所から1mは離れただろうか、通常ならこの距離は俺の有効範囲だが相手が見えない。

 なので離れた距離が適切かどうかも分からなかった。


 目を閉じ魔力探査している間しか相手を視る・・事ができないらしい。

 舌打ちしたい気持ちを抑えつつ目を閉じ魔力探査を使うと。


『なっ、リンさん。アイツ起きてただろ』

『はぁ……。別に寝てようがどうでも良いんですけどね。そこのボク~、ゴメンね~。ここに居るボケてるお爺ちゃんが迷惑かけたわ~』

『ボケてないわ。失礼な!! お茶目な好々爺じゃぞい』


 どうやら『レイス(?)』のAさんとBさんは俺と戦うつもりは無かったらしく俺が居た場所から動いてもいなかった。

 だからといって直ぐに相手の事を信用するほど頭に花が咲いている人間ではない。

 ただの一度とは言え命を狙われたのだ警戒はすべきである。


『おっ、リンさん。こやつワシ等を見えては居ないようじゃぞい』

『そうですね。会話を聞いている節があったのでてっきり見えてるのかと思ったんですが』


 いつの間にかAさんとBさん気配は俺の目の前へと移動していた。すっげぇ速えぇ。

 本気で来られたら対処出来ないと思った。


『やっぱり見えて居ないようですね』


 ペタペタと触られる気配を感じる。だが、先程のように魔力を吸われる感覚はない。


 ーースーッ。


(あ、あれ?)


 先程まで目の前にあったはずのエリーが築いたモンスターの小山の気配が消えていった。


 ……って言うかそんなのあったんだっけ? い、いや目の前に何か有った気がするけど思い出せない。


 確かエリーがモンスターを倒していた様な気がするが今ではその記憶も曖昧だ。


『ふむ。感じとるって事は後は見えるようにするだけかの』

『えぇ。目に魔力を流せば見えるでしょうね』

『ふむ。ボウズお前は自分の目に魔力を送れるかの? おい! 聞いとるのか!!』


「は、はい!」


 殴ったつもりなのか分からないが魔力をドレインするのは止めていただきたい。ビックリするから。

 兎に角これ以上の魔力ドレインは色々ビックリするから勘弁して欲しい。


 言われた通り目に魔力を流す。要領は魔闘技を使うのとそうは変わらない。

 目に魔力が行き渡るのを感じてから目を明けると。

 目の前には商人の様な格好とゴブリンの様な格好をした男女の蒼白い顔の霊が立っていた。




 ・・・




『ふむ。ではイッセイはこの森に……その【魔闘技】とやらを扱うために来たんだな』

「…はい。そうですね」


 目に魔力を流した事で視る・・事が出来るようになり合わせて会話もできるようになった。

 今はお互いの自己紹介を終えて情報のすり合わせしている所だ。

 存在はとても清らかで精霊よりも高位な存在なのだとかモッブさんが『ワシらはさしずめスイーパーってとこじゃぞい』と言っていた。

 で、男性のスイーパーがモッブさんで女性のスイーパーがリンさんと言うらしい。

 で、スイーパーの二人が聞きたがっているのは俺(達)がここに入り込んでいる理由だった。


『お前はまだ良いんだが……』


 因みにリンさんはここに居ない。

 森の奥へと入り仕事中・・・だ。


「すいません。僕のツレですね……」


 彼らの仕事はこの世界における死体の除去なんだそう。

 簡単に言えば放置された魔物や死んでしまったモノ(動物や人やモンスター)等だ。

 よくよく考えれば気になる事ではあった。

 死したもの達が何処に行くのか? どうなっているのか? だ。

 通常討伐したモンスターや動物は解体し持ち帰られる。肉はもちろん骨や牙そして魔石はこの世界における文明維持のキーパーツだ。冒険者であれば依頼になるし、食べ物として狩ることだってある。

 逆に討伐に失敗すれば殺されることだってあるし、狩りに失敗すれば同じ事が起こるのだ。


 しかし、討伐されたモンスターや動物、命を落とした人等は必ず持ち帰られる訳ではない。


 当然獲物を見つけたモンスターや動物が食べる事もあるがそれだって限りがある。ダンジョンやスタンピートともなればその数は数えるのすら頭を痛める。

 なのに腐乱した死骸や何時までも消えない骨などが残っていないのか?


 その様な死骸等が残っていれば森は死に絶え、川は毒の沼地となる。そうなれば大地は荒野と化し、人や動物またはモンスターも死に絶えるだろう。

 では何故そのような事が起こっていないかと言われればスイーパー達が喰っていたのだ。

 それもスイーパー達はその生物の【存在】そのものを喰う。

 そして、存在を喰われたモノはこの世界の全て・・から消滅してしまうらしい。

 因みにこの世の全てから消えるというのはこの世界の生物の記憶から消えてしまう事なんだとか。


 アクセサリー等はその場に残るそうだがロケットの中の写真は本人だけ消えてしまうらしい。

 そういった物は【物取り】と呼ばれる人々の生活の糧となっているのだとか。


 俺の記憶が消えないのはモッブさんとリンさんと関係を持ったからだと言われた。

 この世界の理に触れた瞬間、俺は先程消えた死骸の山を思い出したのだ。


 スイーパーの仕事はもう一つある、彼等に喰われた存在はにスイーパー達の中で浄化され神々の国に送られる。

 そして、そこでは他の死者と同様に神の試練を与えられ無事に乗り越え魂だけが新たな生命を受けるらしい。

 と言うことは神々の国はこの世界に無いということなのだが……。

 さり気にこの世界の2つの不思議があっさり解明された訳だが誰に話しても信じて貰えないだろう。

 俺の心の中に留めておくことにした。


 しかし、スイーパーにも問題がある様だ。

 それはスイーパーにも食べすぎというのがあるらしい。

 存在を食べすぎると興奮し生きている生物を襲いたくなる衝動に駆られるのだそうだ。

 で、自制を効かせられず生ある生物に襲いかかったスイーパーはそのままレイスへと進化(?)してしまうらしい。


『いやな、普段この場所は弱い奴等しか集まらないからゴミがあまり無いんだよ。で、派遣されているスタッフもワシとリンさんだけな訳でな。お前等みたいに強い奴が暴れると仕事が増える訳だ』

「ごもっとも…です……。はい」

『スイーパーの中にも気性の荒いやつもおるんじゃがソイツは興奮すると手がつけられんでなぁ。今晩は休みじゃと良いんじゃが……』


 モッブさんが顎を擦りながら何かを考えるように俺から視線を外した。

 リンさんがここに居ない理由は、エリーが森の中で大暴れしてモンスターを大漁に狩っているからだ。

 彼女が狩って放置されているモンスターを喰いに行ったのだ。


『時にイッセイは面白い魔力の流れ方をしておるな。さっき少し吸ったときそう感じたんじゃぞい』


 思いついたように喋りマジマジと俺を視るモッブさん。

 何でか分からないけど腕の辺りを重点的に見ている。


「そうなんですか? 僕にはよく分からないんですが」

『少し待てよ………。ふむ、お主の魔力じゃが腕から先は本来の魔力とは少し違った系統をしておるぞ』

「ふぅん………んん!?」


 自分の魔力の経路なんて気にしたことが無いからすごく気になる。自分の腕付近を見てみると俺にも魔力の経路が視えるではないか。

 魔闘技から溢れ出す俺の魔力は基本的に黒混じりの紫色だった。それが腕から先はうす水色だったのだ。


「どういう事? ーーあっ!」


 思い当たる節が1つあった日中、金○の所へ行った際ウリエル様が俺に一時的な加護を与えると言ってきた件だ。


『何やら思い当たる事があるようだの……ん?』


 モッブさんが何かに気付いた。

 俺も視線を向けるとリンさんがコチラに戻ってくる最中だった。


『おぉ、リンさんもどったーー』

『ここに間もなくサイキュロップス巨人族がやってきます』


 リンさんがそう告げるとバキバキ木々をなぎ倒す音が聞こえた。



 ・・・



 巨人族とは4m以上は有る身体の大きさで本能のまま略奪や蹂躙を繰り返すモンスターの一種だ。

 討伐対象クラスで言えば『4〜』となっており単独で倒すにはクラス6は必要とされる。

 サイキュロプスは巨人族の中でも獰猛な部類に入り倒すには人手が欠かせない。


 ーーズン!

 −−ズズーン!!


 先程まで静寂に包まれていた森だが徐々に振動と木をなぎ倒す音が近づいて来ている。


 ーーチュウ、チュウ、チュウ、チュウ、チュウ。

 ーーバタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ、バタ。


 森に生息している動物やモンスターが逃げ出してきた音のせいで森全体が騒々しくなっているのだが、俺が気配を強めに出しているせいか動物やモンスターはここには来ていない。

 なぜそんな事をしているかと言えば存在感を出してエリーが迷わない様に誘導しているからだ。


「イッセイーーー!」


 暫くすると森も方からエリーが走ってきた。どうやら迷わず来れたらしい。

 だが、随分時間が掛かったなと思ったらエリーの後ろには知らないおじさんと子供が息も絶え絶えに一緒に走ってきた。


「早く。こっちよ!」


 エリーが叫ぶとオジサンと子供は一生懸命走って来る。

 オジサンは背中にカゴを担いでおりそれが重いようだ。

 彼は先程話した【物取り】を生業にしてる人なのだろう。


「ギャギャギャガガガがガガガ!」


 地面を割るような大きな雄叫びが森中に響いた。

 声一つで大気が弾け地面が揺れた、夜にも関わらず鳥が飛んで逃げていくほどだ。


 草の根をかき分ける我の如く森の木を掻き分けてひょっこり顔を出す一つ目の巨人。

 その容姿は化け物というよりは原始人に近いだろうか深い堀の奥に細めた一つ目がギラリと輝く。

 そしてすぐにこちらを見て口元を緩めると口からはヨダレを垂らしていた。


 今の咆哮はマズイ。王城の兵士に聞かれれば事実確認で城壁に乗って確認するだろう。

 そして、巨人族を確認されれば間違い無く兵を出すはず。

 そうなると大事も大事。寝静まっていた王都は桶をひっくり返した様な騒ぎになるだろう。


「セティ、マーリーン」

「はいよー」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」


 俺の呼びかけに反応し姿を表してくれた2人。

 頼むのは決まって、


「ゴメンね2人とも隠蔽をお願い」

「はいよ」

「アイアイサー」


 俺のお願いに敬礼を返してきた2人。

 こんな役回りばっかりでごめん。


 第一声は聞かれてしまっただろうが2人に任せたからもう大丈夫。

 西門付近は大慌てだろうがうまくごまかせるだろう。


『ほほぅ。イッセイは精霊使いか』

「えぇ、仲良くしてもらっています」


 取り敢えず証拠は残らないようにしないと(感の良い)冒険者等はここに来てしまう。

 そうなる前にエリー達を追いかけましながら暴れまわっている巨人を迅速に倒さなければいけない。


「しかし何故こんな浅い場所に……」


 俺がそう独り言を漏らすと俺の話を聞いていたリンさんはバツが悪そうに……


『ショーワール様の仕業です』

『……あのクソジジイ』


 と、爺が言った。

 あっ、モッブさんがこっちを睨んでいる。すっごい怖い顔で。

 爺なんて言っちゃいけない好々爺の間違いダッタヨー。


 どうやらショーワールというのはモッブさんと浅はかならぬ関係が有るようで、その名前を聞いた瞬間モッブさんは怒りを顕にした。

 先程までの好々爺の顔ではない目元は黒く凹み口は服を引き裂いた様に不揃いに酒ていた。

 俺が知っているレイス(モンスター)そのものの恐ろしい顔だった。


『……モッブさん。レイスってます』

『おぉ。こりゃスマン』


 シュッと言う音が似合う位一瞬で好々爺の顔に戻る。

 一瞬で戻れるとかある意味凄いな。

 そんな事を思っていたらモッブさんと目が合った。


『イッセイ。儂らも加勢するぞい。このモンスターは作為的に放たれたようじゃし、こういうやり口は儂らの流儀に反する愚かな行為じゃ』


 そう言って怒りを顕にするモッブさん。

 どうやらリンさんも手伝ってくれるらしい。

 魔闘技を使い準備をしているとエリー達がこちらまで来た。


「はぁ…はぁ……。イ、イッセイ」

「話は後で、エリーは一緒に逃げてきた人達を守ってください」

「う、うん」


「グゲゲゲゲゲッ」


 サイキュロップスは俺達を見て逃げるのを止めたと感じたのだろうニタニタ笑みを向けた。


「とうちゃーーーん」


 子供が恐怖のあまり泣き叫ぶ。

 サイキュロップスはそれを見てターゲットを子供に決めた様で踏みつぶさんとばかりに足を上げた。


「ショーンーー!」


 子供のもとへ駆け寄り抱きしめ合う2人。

 2人は目の前のモンスターに絶望し諦めているようだ。

 だが、そんな事はさせない。


「ヘイケ」


 俺は左腕に着けた防具に命令する。


「あの2人を守れ!!」


 俺が命令するとヘイケはグニグニと長いナメクジのような形に変えぐんぐん伸びて2人に巻き付く。

 ちょうどそのタイミングでサイキュロップスの足がぶつかった。

 ニタリと、べとつく顔をしたサイキュロップスだったが思っていた感覚と違ったのか確かめるように何度も足を踏み下ろす。

 その行動を見て俺はニヤリと笑う。


「これがシェルモード(防御モード)だ」


 ヘイケを防御姿勢体型をとり変形(今回は亀の甲羅のような形を採用)させたのがシェルモードだ。

 今の所エリーの最大級の魔法でも破られた事が無い。


 ーーがんっ!!

 ーーがんっ! がんっ! がんっ!!


 納得がいかないのかサイキュロップスは一心不乱にヘイケを蹴りつけている。無駄なあがきだけどね。


「グングニル!!」


 投げた魔石がサイキュロプスの胸に突き刺さる。


「ギョアアアアアアアーーーーーーーー!」


 サイキュロプスは痛みのあまりに叫ぶ。

 あまりの声量に地面が大気が揺れる、揺れる。

 耳を抑えないと鼓膜が破れそうなほどうるさい。


 しかし俺には不満しか残らない結果となった。

 一応、『バニッシュデススキル(俺の最強技)』を使い攻撃したのにサイキュロプスには思ったよりもダメージは入っていない様だ。


「うーん。この方法だと限界があるなぁ」


 腕を2、3度投擲する仕草して考える。

 力に頼った投げ方ではそう遠くない未来に限界が来る。

 魔闘技を使い身体能力が上がった今だからこそはっきりと理解出来る。


 そんな事を考えていると怒り狂った顔をし、全身を真っ赤にしたサイキュロップスが俺目掛けて突進してきた。鈍足だと思っていたがなかなか素早い。

 だけどイノシシの突進とそう変わらないワンパターンな行動のため対処は難しくなかった。

 ひらり、ひらりとサイキュロップスの突進を躱す度に闘牛士であるマタドールをイメージしていた。

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