52話 謁見の間の戦闘 後半


「マスカレードスター」


 俺はエリシード王の姿に変わっていった。

 そして、そんな俺の姿を見たエルフ軍の面々、エリーは目を飛び出しそうな位驚いていた。

 流石と言うか可愛げが無いと言うか、宰相だけは俺がエリシード王で無いと気づいているような視線を送ってくる。


「な、なななな…とうさま、いや、王が何故ここに!?」

「何だ? 我がここに居ては何か都合が悪いのか?」

「い、いえ…」


 エリーが恐る恐る声を掛けてくる。

 俺が変装しているのが分からないようだ。

 それもその筈。


『マスカレードスター』

 カズハと魔力混合した時に発現した技で、裏の技である。

 登録・・した接触者のDNAから瓜二つに変装する技で、変身した人の話し方から性格、血液の型まで偽ることが出来る優れた技である。

 変身できる時間が短いのが玉に瑕だけど、チート級の強い技だ。


 今、エリーが俺を自分の父親であるエリシード王と勘違いしていても仕方が無いのだ。

 因みにご本物は、向かって来ているがまだここには着いていない。

 あたりを見渡すと高台に居る兵士達もざわついており、宰相の側近のエルフも固まっていた。


「我が掴んだ情報だと親友のレオ国王が致命傷を負ったと聞いているが? それに同族に手を掛けてまで誰がなんの為にこの騒ぎを起こしたのだ?」


 俺が目の前にいるエルフ達全員に問いかけると視線が宰相に集まった。

 やっぱり、コイツがキーマンか。


「はは。ご冗談を…。王も人共が【勇者】を使って世界樹に蔓延り我等の邪魔をしていたのはご存知だったではないですか?」


 注目を集めた宰相は悪びれる素振りも見せず淡々と語り始めた。


「その為、繋がりを感じた人共は襲撃すると書面でご報告済みの筈です」


 そう言い切ると視線は今度は俺に集中する。

 国内の内情など本来俺達が知る由もない。

 書面で報告済みな事もその対処が、エリシード王の元で止まっている・・・・・・事も本当なら知らない事だ。


 話に間を開けた俺に向かって宰相が笑みを浮かべる。

 その笑みはここに居る王が偽物だと知っている者の笑みだった。

 だがそれは普通の変装した者の場合だ。

 繰り返しになるが、俺のこの裏技はDNAを共有する。

 言うなればご本人がもう一人ここに立つのだ。

 そして、記憶も1秒前いや、その刹那まで共有する。


 なので、


「書面は目を通しておるが返事はしていないであろう? ボールズ何が目的だ?」


 そう答えた。


「…」

「「「「!?」」」」


 視線は再度宰相に降り注がれる。


「…ククク」


 頭を下げて笑い始める宰相。

 コイツ、危ないぞ?


「アー、ハハハハハ。どうやら私はもののけに化かされているらしい。…クソガキが、どうやって内情を知ったか知らないが化け狸のしっぽが出てるんだよ!!」


 顔を隠したまま笑う宰相。

 次の瞬間、杖を突き出し「トルネード」と唱えると、無数の風の刃が俺このフロアー内に無数に飛んだ。

 自分の仲間達が魔法で無惨に切り刻まれる。

 当然こちらにも魔法は飛んできたが、俺に届く前にヴィルとエリーの魔法によって防がれた。


「どういうつもりだ!」


 俺は味方まで切り刻んだボールズに怒りの言葉を浴びせる。


「どういうつもりもクソもない。私の計画に支障が出るようなら排除するまでの事、そして見つかる貴様の死体がこの戦闘の犯人となるのだ」


 俺の変身は解けていた。

 この技有能なんだけど変身が解けても気づけないのが玉にキズなんだよね。


 ま、こうなる事を予測していたから準備も整っている訳だけど。


「そうか。アンタが黒幕だったんだな。エリー達を人里に送り暗殺者を放つ。仮に失敗してもここへ来た人族になすりつけ兵達と相討ちした様に見せかける」


 今思えばエイワーズさんが自害しようとするっていうのがきな臭かった。


「指図めエリーには儀式を受けさせてなかったんだろ? だって落ちこぼれに見せかければ人里へ放逐しやすいもんな」

「……」

「!!?」


 俺の言葉にエリーが驚いた顔を見せた。

 いやいや、だってアンタ今回加護貰ったじゃん…。

 それが動かぬ証拠だけどもう一個証拠があったりする。

 ポイッとボールズの目の前に投げたのは折れた剣、フルチングだった物だ。

 カラカラ音を立ててボールズの近くに転がる。しらばっくれる可能性もあったが一瞬剣を見たボールズは、


「コレだから人族っていう虫共は厄介だ。尽く私の邪魔をする」


 明らかに声のトーンが下がったボールズはおぞましい程強い殺気と共に射抜くような視線を向けてきた。

 これまで叔父さんの特訓を受けて6クラス程度まで上り詰めた俺でさえ体に寒気を感じ、カタカタと震える程だ。だが、尻尾を掴んだ以上離さないよ。


「お聞きになられましたか?」


 大声で叫ぶ俺の声に一同は動きを止める。

 感覚的にはまだ誰か居るのか? っていう感じだ。


「ボールズ…」


 聞こえてきた声は先程まで俺が発していた声と一緒の人物 エリシード王だ。

 急に呼ばれた元老院の会議所からできるだけ速く戻ってきて貰ったわけだが、今考えれば元老院の話もボールズコイツが事を大きくしたのが元ではなかろうか?


 で、玉座の間には入らずタイミングを合わせる為に待機して貰っていた訳だ。

 王の周りには先程の兵と同じくらいの数の兵士がおり、ドラマなんかで有るように王が広場に入ってきたら背後からこの部屋を制圧する様に配置を取っていた。いやいや、要人を守れよ……。


 王の存在を確認したボールズが俺に、より一層濃くなった殺気を向けてきた。おぉ、怖い。怖い。


「どう言うつもりだ? ボールズ。同族殺しも含めてお前には色々聞くことが有りそうだな」


 王の言葉を無視するボールズ。

 その態度にイラッとしたのか前に出ようとするエリーを静止した。

 完全に孤立している筈のボールズだが、どうもおかしい。何となく嫌な予感が漂っている。

 取り囲む様に配置した俺達をあざ笑うかのようにボールズが話し始める。


「なーに。この国は私が頂こうと思ってましてね」


 ボールズは静かに顔を上げゆっくりとした口調で話し始めた。穏やかな顔のわりに足元から『ブワッ』っと黒い煙の様なオーラが吹き出てボールズを包んだ。


『マズイ。』 これがボールズに対して俺のイメージした印象だった。咄嗟にエリーに抱きつくとバッカスの土魔法で簡易シェルターを作った。

 エリシード王の側近が王を守りつつ兵に攻撃を指示しているのが見え。一気に矢を放つエルフ軍。

 放たれた矢はボールズを取り囲む黒いオーラに吸い込まれいった。


 動きの止まる一同。「やったか?」等と探るような会話が聞こえてきたが手応えは感じていなかった様である。

 しかも、俺が感じる嫌な予感は消えるどころか大きくなっていった。


 --ビュル、ビュル…


 ボールズの足元から黒いオーラが飛び出してきて矢を放ったエルフ軍の兵達に襲いかかる。黒いオーラが触手の様に自由意思を持って兵達に襲いかかってきた。

 触手は兵達の体に巻き付きつき。捕まえた兵を地面に叩き付けたり、別の触手が兵を刺したり。と、まるで子供がおもちゃで遊ぶように蹂躙していた。


「うわあああああああ」

「たすけてくれええええ」


 --ゴキン!!

 --ブチュ!!



 エルフ軍の兵士たちが次々と殺されていき、『ぼとぼと』と音を立てて死体が地面に落ちる。あっという間にエリシード王の側近の兵達は全滅してしまった。


「「………」」


 流石の光景に血の気が引いた。エリーも必死に口を抑えていた。

 早く逃げないと。と、思いながらも足が動かない。

 もたもたしているとボールズを包んでいた黒いオーラが薄れていき、中から出てきたボールズは今までとは全く違う姿をしていた。


「ふぅー。無能で下等な貴様等に仕えるのも骨が折れる」


『ゴキン。ゴキン』と、首を鳴らす男が立っている。

 ヒゲを伸ばした目付きの悪い老エルフの爺ではない。

 そこに居たのは、短髪で長身の筋肉隆々の男だった。


「貴様。ボールズはどうした!!」


 エリシード王様が護衛のエルフから這い出て叫んでいた。


『あぁ?』


 キンッ。

 耳の奥に金属が擦れたような音が響く。耳が痛え…。


「っ!」


 エリシード王がボールズ(?)の声によって吹き飛ばされ、壁に打ち付けられていた。


「なんだ。コイツ……!?」


 謎能力にツッコミを入れたらボールズ(?)がこちらを向いた。

 すると、奴の目が漆黒の色に変わっていた。うわっ。気持ち悪!!


(やろう…)

(ヴィル?)

(今までの姿だと分からなかったが、やろう【外来種】の一員だ)

(!!?)


 ヴィルが俺の意識に直接話してくる程だったので何事かと思ったが、まさかコイツが…。

 俺がジッと睨むと視線に気づいた奴もこちらを見てくる。真っ黒な瞳に白い眼球がこちらを見てくるが直ぐに興味を失いエリシード王を見る。


「愚かなものだ黙ってゴミの様な人族共の駆逐に賛同していれば、エルフ族は今までと同じ様に幸せな時を過ごせたと言うのに。あの御方もそろそろお目覚めになる。そうなればやっとこの様なここでの役目も終わるな…」

「やっと見つけたぞゴキブリどもが!!」


 なっ! 何で大声で叫んだ!?


「ん? …?!!」


 急に大声を出したヴィルをボールズ(?)がジロリと覗くと、何かを思い出したように歪んだ笑みでこちらを見た。


「…貴様はヴィルグランデか。グググッ。貴様…貴様らのせいで……」

「おっ、ちっちぇ脳みその癖に覚えてくれていたのか? 貴重な記憶力を使ってくれてありがとうよ」

「くくくっ、相変わらず口が悪い。様変わりしていたんで気づけなかったよ」


(来るぞ!!)


 ボールズ(?)とヴィルの会話の後直ぐにヴィルの言葉が聞こえてきた。

 俺がボールズ(?)を見上げると奴は右手に魔力を溜めておりこちらに向けて魔法を放って来ていた。


「っ! バッカス!!」


 俺とヴィル目当てに向けられた魔法はその周辺に全て飲み込む勢いだった。

 なので、咄嗟にバッカスを発動。壁を作り魔法を阻むことにしたのだが…


「くくくっ、舐めるなよ。そんな子供だましにワシの魔法が止めれるかよ」


 ボールズ(?)の繰り出す魔法はなんと壁をすり抜けてきた。

 そして、俺の近くで発動する。風の魔法だが何か変だ。

 俺を中心に渦を巻くように魔法が四方八方から飛んでくるのだ。


「チッ」


 ヴィルが俺を守るように動くが、魔法の範囲がどんどん大きくなってきている…。


「キャアアアア」


 聞こえてきたのはエリーの悲鳴だった。あいつ、逃げずに近くに居たのか…。すっかり失念していた。

 凄い勢いで魔法がエリーに襲いかかる。このままじゃ間に合わ…な……。


「…しまっ」


 ドシュ…。バシュ…。


 エリーがボールズ(?)の魔法によって切り刻まれる。

 魔法の風によって姿は見えないが、切り刻んでいる音がした。

 魔法が晴れるとエリーの上に人がもう一人乗っていた。それは、エリーの父親のエリシード王だった。


 娘のエリーを庇ったのだろう、エリーと共に倒れているが傷がひどい。

 生きているかさえ疑わしいほどだ。


 …間に合わなかった。

 絶望で頭が真っ白になる。と同時に怒りが俺の中で大きくなって


 …ドックン。


 それと同時にある感覚が俺を支配する。


 …ドックン。


 周りがゆっくりと動いている感覚になり。心の中が黒く塗りつぶされた様な感覚だ。


 …ドックン。


 俺自身がまるでスローな世界にいるかの様になり。目の前の全てのモノを壊したくなってきた。


 …ギリリッ


 怒りに任せ食いしばった歯の音が全身に響き渡る。


「良いぜ。今はその思いに任せて俺を投げろ」


 ヴィルが俺の背中を押してくれた。


 俺はヴィルを構えて思いっきりボールズに向かって投げた。

 ヴィルは一直線を描きブレることなく真っ直ぐ飛んでいく。

 見る人が見れば光が一直線に飛んだと思うかもしれない。


「ぬぅ? …ぐうううう。小癪な…まね…を…」

 

 ボールズ(?)がヴィルを防ごうと防御魔法をかけ。

 自分の目の前を固めていた。


 ドスッ。


「へっ、俺が貴様らを逃がすと思うか?」

「ぐぐぐ。忌々しい邪悪な魔剣め」

「そりゃ。お前らにしたら魔剣だわな」


 ヴィルが青白い光の波動を出したかと思ったらボールズ(?)の体を貫いた。

 地面に崩れ落ちるボールズ(?)血溜まりが床にどんどん広がっていく。

 その様子を見ると怒りに染まった俺の頭は急激に冷静になっていく。


「俺が…殺った…のか?」

「あぁ。そうだ、一匹目を仕留めたぞ。おめでとう」


 ヴィルに褒められたが全く嬉しくない。

 全く動かないボールズ(?)を目にして自分がやった事を理解した。

 そして、そう思うと胃から逆流してきた。


「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


 戻してしまった。


「おいおい。こんな事で参いってもらっちゃ困るぜ。相棒。」


 ここは水の中かと勘違いしそうな程にヴィルの声は小さく。ハッキリと聞こえない。


「だ、だい…じょうぶ……」

「それが、大丈夫そうなやつの声か?」


 消えそうな視界の中どうしてもボールズ(?)の亡骸を見てしまう。

 宰相の周りには血の池が出来ており酸化した鉄のような鼻につく刺激臭がした。

 その臭いで俺は再度その場で吐いてしまった。


「王、王。しっかりしてください! …父上。目を覚まして」


 エリーの意識がいつの間に戻ったのか知らないが、エリシード王を抱き体を揺すっていた。王は全身血だらけになっており呼吸も荒い。

 俺は今も続く吐き気を抑えながら王の元へ行き回復薬を飲ませた。


 暫くすると意識を取り戻した。


 ・・・


「王。…父様、何故私を庇ったのですか」

「エリーよ…。自分…の…娘を…守るのに…理由は…いるかい?」

「しかし、貴方は王です!!」


『ボタボタ』と、大粒の涙を流しながら王に向かって怒りをぶつけていた。

 怒るのか、泣くのかどっちかにしてほしいが、俺は見てることしか出来なかった。


 俺のせいだ。俺がもっと早く手を打っていれば…。


 幾分吐き気も収まってきたが、殺したボールズ(?)を見る度気持ちが落ち込む。

 次第に事態に気づいた人がエリシード王の周りに駆けつけた。謎(宰相)の死体に傷ついた王。その場に居合わせたってだけでまぁ、俺が疑われるよなぁ。

 速攻で俺を制圧しに来たが、エリーが体を張って証明してくれたので数名のエルフに囲まれる形で隔離されている。

 王様は重体、宰相は行方不明、謎の死体が有るわで現場はかなり混乱していた。

 俺に死体との関係性を問われたが正直なところ俺が聞きたい位だ。


 念の為抱きしめているヴィルが小声で喋ってきた。


「イッセイ。この光景は見ておけ…。今回全部が全部お前のせいじゃねえ。俺も読み違えてた部分はあった。だからってな、俺達は下を向いてちゃいけねぇ。そして、娘言ったやり方が奴ら【外来種】共の手口だ。放っておけばエルフ族は近い内に人族と戦争を起こしていただろう。お前は結果的にエルフ達の事を守ったんだ」


 ヴィルの言葉をしっかりと刻み込む。

 直接手に持った武器で斬った訳じゃないがヴィルを投げたのは俺だ。

【外来種】とは言え初めて奪った人形の種族である。なんと言うか魔物や動物とは違うんだと、言うことが分かった。…胃のムカムカが治らない。


 だが、ボールズの事を思い出す。他者に化けて何年この地に『根』として存在していたのやら…。

(※『根』とは、この世界におけるスパイの事を隠語で表現した名称である)


 そんな戦法を取ってくる奴ら目的は人族の滅亡とこの世界の支配らしい。

 好き勝手させるもんかと心から誓った。


 因みに何とか一命を取り留めたエリシード王は思ったよりも受けたダメージが深く以後は自力で歩けなくなった。

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