45話 『ラクリマ』
「ここが世界樹への入り口となります。それから、世界樹についてですが…」
案内されたのは世界樹への入り口。
折角の世界樹への通路なので封印された厳重な空間とか、重厚感のある綺羅びやかな扉とかを想像していたのだが、まぁ何だ。普通の引き戸がくっついていた。
毎日使っているんだからこういう扉でもまぁ、普通だよな。
因みにこの先の
こんな所で立て籠もったってジリ貧なのに何の意味があるんだ? と疑問だった。
で、なんで世界樹について説明される羽目になったかと言うと…。
世界樹には神官が居るらしくその宗教に入っていないと入場できないんだとか。
昨日の謁見は何だったんだよ!! 俺は今すぐ大声で叫びたくなった。
エリーが掛け合ってくれて今は時間が無いことを話してくれたのだが…。
「世界樹に入るのに世界樹に対する知識も無い者を行かせる訳にはまいりません」
と言って入り口の前に鎮座しているので、取り敢えず世界樹に対してのしきたりを聞くことになったのだ。
何なんだこいつ等。本当に…。
で、目の前に居る神官らしき人が世界樹についての仕来りやら伝統やらを説明してくれているが、まーったく頭に入らない。それどころか意識が薄くなってきた。
眠くなってきた…。神官さんの声が…。ドンドン…。遠くなる………。
目の前が白くなっていく………。
「…い」
目を開けると明るくて辛い…。
「お…。おーーーい」
声が聞こえ目を開けると、白い部屋の様な所に居た。
「おっ、目が覚めた?」
目を覚ますと金○様が居る場所に居た。
え? 何で?
「え? 何で? って、顔をしてるけど、ここに来てもらっちゃった。」
「は、はぁ…。でも教会は無かったんじゃ?」
ここに来るには教会でお祈りするっていうルールがあった筈だが…。
「あぁ。例のルールだけど。今、説法しているエルフをお祈りしているって事で繋げたから。彼が喋っている間はここにいれるよ」
何というか、そんな感じで良いのか…。
まぁ、神様がそういうのなら良いのだろう。
「で、僕を呼んだのは何か用事ですか?」
「ん? あぁ。そうそう、君最近何か面白いもの見つけたよね?」
「面白いもの…?」
はて? 何だろうか? 本気で悩んだ。
「ほら~。アレだよ、アレ。光と闇のちからを封じ込めたアレ。ちょちょいと、出しちゃってよ」
金○様が手だけを生やして手のひらを出してきた。
あぁ…。あのクリスタルの事か、って言うかあのクリスタルって何なんだ?
俺も聞きたい。
「これ。何なんです?」
服の中からクリスタルを出して見せる。
マーリーンとカズハの力が登録されているためクリスタルは、紫色と黄色の光を放っていた。
「これかい? 詳しくは分からないんだが、どうやら精霊の力をこのクリスタルに写す事が出来るみたいなんだよね~」
分かんねーのかよ…。
「そう。分かんない」
あぁ…。忘れてた。ここでは思ったことが筒抜けなんだった。
「そう。でね、クリスタルを借りるよ」
金◯様はそう言うと俺の手に乗っているクリスタルを自分の元へと呼び寄せる。
手に持ったクリスタルをマジマジと覗いている様だった。
「ふーーん。なるほど…。ふん!!」
そして、それを2つぶつけやがった!!
「おい!? 何して…」
「おぉ…出来た」
金◯様によって砕かれ…ていないクリスタル。
先程と違うのは、2本のクリスタルの間にワインレッドの色をした魔力が出来ていた事。
「ふむ。この魔力君の体に収めてみな」
そう言って俺の元へと戻されるクリスタル。
体に戻ると新たな力が頭の中に反芻された。
手をグー、パーさせて確認すると技が発動出来ることを確信した。
「ここで使っても?」
「うん。見せてみて。あっ、折角だから何か的っぽいのがあったほうが良いよね」
金◯様が嬉しそうに言ってくれたので、俺は右手を前に出して新たに学んだ力を使う。
--パタン
立ち上がったのは…。
ガブリエル様のパネルだった。
「あの…」
「良いよ。ジャンジャン撃っちゃって」
いや、普通に駄目だと思うけど。
俺が躊躇していると、金◯様が…
「大丈夫、大丈夫。僕の愛の重さで出来ている的だよ。君の力じゃ焦げ目だって付かないよ」
「じゃ、じゃあ…」
愛とか言われちゃってもなぁ…。そしたら…。大丈夫だろう…?
こっ恥ずかしい気持ちで改めて的に向かって右手を向ける。
先程頭の中で構築されたイメージが鮮明に描かれ、イメージを想像した瞬間魔力が凝縮されていく。
右手から魔力が溢れようとしてプルプル震える。狙いが定まらないので左手で腕を抑え思い浮かんだ技名を叫ぶ。
「サンシャイン・レーザー!!」
唱えるとワインレッドの色をしたレーザーが掌から
「手が痛え…」
激痛が走った右手を見ると手の皮が焼けただれていた。
すっごい痛い。
痛む右手を押さえながら堪えるけど、あまりの痛さに膝を付きそうだ。
膝を付いたら負けな気がするのでなんとか堪える。
何か気を紛らわす方法は無いのだろうか?
因みに的は? 当たった筈の的を見ると、
「何も残ってねぇじゃねーか!!」
愛の力で強固になっていた筈のパネルが、綺麗サッパリ消えていた。
折れた木の支柱みたいなのは残っているので、吹っ飛んでいったかもしくは消し炭の様に消えていったか…。
「しゅごい…」
金◯様が言ったが、しゅごいじゃねーよ。
それよりこの手はどうしてくれるのよ…。爛れてて凄い痛いんですけど?
向こうに戻っても怪我は治ってますよね? ね?
「あらぁ~。さっきのパネルって『愛』で出来てるって本当?」
俺と金◯様は急に増えた声に硬直した。
「い、いや。そんな事無いよ…。ちょっと要らなくなった物を処分に使っただけだよ…」
あっ、バカ。それ完全に地雷だろ!!
と、思った時には既に遅し。
俺の横を血管が浮きまくった腕が蛇の様に素早く金◯様を掴んだ。そして、噛み付いた様に金○様に指が食い込んでいた。
「いだだだだだだだだだだ」
「ヘーーー、イラナイ物ッテワタシノパネルノコト~?(重厚感のある声)」
身じろぎながら横を見ると、血管が浮きまくった腕につかまれた金◯様が握りつぶしたトマトみたいな形になっていた。
この後、どれ位か分からないが暫く殺気じみたお説教が続いた。
・・・
「全く、何の対策もしない内にこんな強力な技を使ったらこうなるわ」
流石…、『愛』を説く神様だ。
俺の掌の傷はすっかり治してもらい。金◯様は、すっかり腐った根性を直して貰ったようだ。
ボコボコにされた金◯様はガブリエル様の尻に敷かれ『シクシク』泣いている。
「しかし、この現象は何なんですか?」
「『ラクリマ』って言う現象ね」
ボールギャグ(大人のおもちゃ)を咥えていて喋れない金◯様に代わって、ガブリエル様が答えてくれた。
「ラクリマ…?」
「雫って意味よ」
「雫?」
「そう、精霊の雫という現象。普段混ざり合わない属性でも混ぜる事が出来るの」
「魔力混合とは、違うのですか?」
「あれは各属性の掛け合わせ。これは、混ぜ合わせなの」
掛け合わせと混ぜ合わせ…か、念の為おさらいしておこう。
魔力混合=掛け合わせは、各属性の効果を生み出す。
例で言うと水と光の属性を使ってステルスに近い効果を生み出すといった感じ。
それと違うのが今回の『ラクリマ』=混ぜ合わせ。
属性と属性を混ぜ合わせ新しい属性を作ることが出来るらしい。
因みに今回の光と闇のラクリマは、属性で言うなら『幻』となるようだ。
(※頭の中に新属性が思い浮かんでくる)
「なるほど。では、新しいクリスタルを手に入れる度にラクリマが出来るって事ですね」
「そうなるわね。でも、今回の様な事があるからラクリマはここに来てやるようにして貰えるかしら」
「…んー。んー」
ガブリエル様と話しを終えた所だが、豚(金○様)がウルサイ。
「…わかりました。ガブリエル様のご指示に従います」
「そう。いい子ね。では、今回はそろそろ戻りなさい。後は私が
「んー!! んー!!」
こっちを見て何か懇願しているように見える豚に敬礼すると俺の意識は戻っていった。
・・・
「…で、これは特殊な仕掛けを施された扉となっておりまして普通の方には触れることも許されません」
やや悦に浸っている神官さんは饒舌に話を進めているが、いい加減進まないと色々問題が発生しそうである。
改めて扉を見ると、まぁ普通の引き戸だ。
ファンタジーにある様な仰々しい入り口に期待したのだが、普通に考えて祭壇があり神官がいて、普通の人が参拝に訪れる場所なのだから普通の扉でも何の問題も無い。
前の世界の神社なんてプレハブが建ってたからなぁ。
今更ながらに、異世界と言えど普通の場所は普通なんだと思い知らされた。
それでも【世界樹】という名前だけで心踊るのは、俺がファンタジーをこよなく愛してる証拠だろう。
「…と、言うのが今回のお話のシメです」
神官さんの話もようやく終わりを迎えそうだ。
はっきり言って、どうでもいい話が長い。
俺は話の殆どを向こうで聞いていたので特に辛くも無かったが叔父さんは少々参った様で顔色が悪かった。
「よし。行くか!!」
「「おぉー」」「おー」
叔父さんの掛け声に俺とエリーは元気よく反応したが、ん? 何だ返事が多かった気がする。
振り返ると監視役兼開門役の神官エルフのエルダさん(男性)が妙にやる気満々の顔をしていた。
えーっと……、付いてくんの?
いい笑顔のエルダさんは今か今かと待っている素振りを見せた。
俺は苦笑いを返した。
・・・
「ほら、そこ! 新芽が出てる。踏まない!」
「そこは傷んでる!」
「こっから先は立入禁止!!」
何この人…。凄く面倒臭い。
付いて来た神官のエルダさんは妙に細かく、そしてNGが多い。さっきからあれもダメ。これもダメ。で全く進めない。
進行ルートが変わった事も予想外だってのに……。
そうなのだ、直前になって『通常のルートには罠が仕掛けられている可能性がある。』という情報が入った為、外壁をよじ登る事になった。
そこに輪をかけて急に現れた面倒くさい神官…。
どう考えても嫌がらせである。
仕方がないので、外壁に絡まった植物や伸びた枝などを伝ってクライムしていくが、これがまた地味にしんどい。
と、言っても魔法で補助しながら登っている為、体力的にはそこまでキツくはない。
「エリー。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。特別扱いしないで」
森の守護者と呼ばれる種族は当然の事の様に木登りも得意である。
中には、叔父さんから命綱を引いてもらって何とか登れるエルフ(エルダさん)も居るようだが……。
道中現れた植物系のモンスター達も難なく対処できている。腰に下げた剣で斬りつけ落ち着いていると言える。
では、何故俺がこんなにも心配しているかというと、エリーが今日着てきた服装だ。
外套にローブを着てきたのは良いのだが・・・。
ローブの中にブラウスっぽい服の鎧ドレスで下がフレアスカート状になっている。
要は、上に登る度に俺は目のやり場に困っていた。
6歳(同じ位の年の子)そこらの子に欲情するわけではないが、上でひらひらしていて中がチラチラしていると落ち着かない。
変に申告して、「ガキががませてんじゃねーよ。」と言われればそこまでだし、「実は俺、精神年齢20歳超えてます。」といえば別の問題も出て来る。
見ないようにすれば良いだけだが、紳士道に反するのだ。
「折角見えてるパンツが、ガラモンじゃお前もつまんねーよな。」
ヴィル!? 今その一言いるかー!!
ヴィルの言葉を聞いたエリーがお尻を抑えて止まったちゃったよ。
そしてゆっくりと降りてきちゃったよ。
俺の隣まできちゃったよぉぉぉぉー。
「何見てんのよ・・・エッチ」
「グハッ」
俺……じゃ……ない。ヴィ……ル……だ。
エリーの虫を見るような目つきで言われた一言は俺の精神にズシンと重い一撃を放った。その後、一番下を登ってくるのはエリーになった。
しかも、全く喋らなくなってしまったので空気が重い…。
これなら殴ってもら方がまだ楽だったが、
でも俺。お前のその視線俺嫌いじゃないぜ。
美少女の冷徹な視線。ちょっと来るのがあるな。
危ない、危ない。もう少しで俺の新しい才能が開花する所だった…。
何とかニッコリと笑顔を返すが、エリーは顎で世界樹を指す。
あっち向けって事らしい。
俺は素直に従った。
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