30話 聖剣ヴィル(グランデ)

「なーんだ、聖剣ならさっさと言ってくれれば良いのに。人…いや、物が悪いですね~。チッ。もっと早く言ってくれればあの肉触らなくて良かったのに…」


 俺はため息混じりに空飛ぶ聖剣を見る。

 急に動き出し、話しかけてきた剣に対して俺は魔剣だと勘違いしてしまった。

 まぁ、本当に聖剣だったとしても特に力を見せてもらった訳でも無いしな…。

 ついでに言えば、真っ黒な剣だしガサツな喋り方だし…


「いや。ワシ言ってたよ。ずっと聖剣だって言ってたよ。みんなも聞いてたよね? ね? ね?」


 言ってたけど、怪しかったんだよ。全くもって信用出来なかった。

 剣の色、真っ黒だし…。


「あのさ…。さっきからワシの事ずっと見てるけど何?」

「いや…。何でも」


 しかし、空飛ぶ剣は妙に必死だ。

 うちの子精霊達に必死に同意を求めていたり。おもちゃの剣の様に『ピョン、ピョン』と跳ねたり、『クネクネ』と軟体的な動きをしている…。

 そういう姿を見るとやっぱりこいつ憑依系か悪霊系のモンスターか何かなんじゃないかと思ってしまう。


 だってしょうがないじゃん。聖剣って普通こんな序盤にてに入らないし、喋んないし。浮かないし。黒くないし。


「あのさ…。お前やっぱりワシに何か言いたいことあんだろ?」


 ドンドン。フランクな話し方に変わってくる。


「いえ。何にも…」


 俺も視線を逸して話す。

 この黒剣が聖剣だとどうしても思えないんだよなぁ…。


 先程精霊の皆から説得を受けた。

 バッカスからは「イッセイ。この方は本物の聖剣だ。我らの祖先が昔お会いした事があると伝記が残っているお方だ…。だから、あんまり無茶するな、な。な!!」等と、かなり疲れた顔をしているバッカスから必死に頼みこまれた。

 その他の精霊の皆も同じ様な感じだったし、何よりプロメテも懇願しながら「納得してくれ」と、笑い無しで言ってきたのが妙にリアルだった。


「お前。ワシを聖剣だと認めてないだろう?」


 いい加減しつこい聖剣。別に俺がどう気にしてようがいいじゃねーか。


「ハイハイ。聖剣。聖剣(棒)」

「ムッキー!! その態度が気に入らねぇ!! もう一回最初から説明してやる」

「えー。もうパイセンの事、聖剣だって認めてますんで、勘弁して貰って良いっすか?」


 俺は、地面に寝転んで聖剣の話を聞いている。本でも持ってくればよかった。


 どっからどう見ても人の話を聞く者の態度じゃないが、かれこれ一時間も同じ様な言い訳を聞かされれば、面倒も臭くもなる。


「ま、まぁ。誤解が解けたのは良いことだ。まずは、名乗ろう俺が聖剣ヴィルグランデだ!!」

「はぁ......どうも」


 俺のテンションはかなり低めだ。


「おい。反応が薄いぞ! こう言うときは、もっと興奮するもんだろ!?」


 聖剣さんは、俺の反応が気に入らなかったのか怒り出した。


「へー。へー。そりゃすいませんね。ふぅ…(面倒クセェ)」

「何か言ったか?」

「何も言ってないっす」

「…まぁいい。とりあえずは封印を解いてくれた事は感謝する。ずっと誰かに伝えたい事があったんだが、いつの間にか言葉が発せられなくなっていてな」


 聖剣ヴィルグランデ…聞いたことが無い。

 家にあった本にも特にそんな名前の聖剣は出てこなかった。

 これは戻った際にでも陛下に聞いてみるか。


 しかし、ヴィルグランデは長いなヴィルで良いか。


「聖剣ヴィル。お聞きしても良いですか?」

「!?……」


 俺に省略した名前を呼ばれて、ヴィルは動きが固まっていた。


「あっ、すいません。ヴィルグランデだと長過ぎるうえに他人行儀だったので…」


 そう言うとヴィルが、


「ま、まぁ良いぜ。ワシは寛大な精神の持ち主だからな」


 などと、言っていた。意外とチョロリンなのな。


「で、では…改めて。ヴィルは何故ナイフ姿だったのですか?」

「…まぁ、話すと長いんだがナイフの姿だったのは魔力が枯渇していたからとしか言えねえな」


 …

 ……

 ………


「え? それだけですか?」

「あぁ、大まかな話だとそうだな」


 早! っていうか早!! 何処が話すと長いんだよ!!

 一言で済んじゃったよ。


 俺は心の中でめちゃくちゃ叫んだ。

 危うく目の前の聖剣を掴んでお空に投げてやる所だった。


「はぁ…。はぁ…。はぁ…。」

「どうした? 急に息を切らして…。危ない奴だな?」 


 誰のせいだ。誰の。

 何とかこらえる事が出来たが、これ以上は分からない。


「まぁ、話を続けると前の所有者が消えてワシに力の供給が出来る奴が居なかったんだろう。昔は普通に剣の姿だったんだが、ワシへの魔力供給は特殊でな。普通の奴の魔力は受け付けねえんだ。魔力消費を抑える封印が施されていたみたいだが、ワシも記憶が曖昧だがな」


 ヴィルが続けて話し始めた。続きあったのかよ…

 でも、なるほど。何となくだが状況が見えてきた。


「それよりもワシを持ってみてくれ…」


 柄の部分を差し出すように水平で宙に浮くヴィル。

 滲み出ている魔力量が半端じゃない。


「凄くおぉき「おい。止めろ。そう言う意味で言ったんじゃねえ」」

「やだなぁ。ネタが出たら一旦ボケるのが礼儀ですよ」

「そんな礼儀はねぇよ!!」


 聖剣の癖にツッコミが上手いとは…


 …新しい。


 冗談はさておき。掴めと言われても躊躇する。

 何となく怖いが今までの説明で先程よりはマシになっては来ている。


「おい。早くしろよ」

「分かってますぅ。ちょっと待ってください」


 催促が五月蝿いので諦めてヴィルを掴む事にする。

 一瞬魔力が吸われた様な気がしたが、それよりも手が”チクッ”とした。


「アダッ!?」


 ビックリして手を離してしまう。

 っていうか、掴んだ右手が”チクッ”としたんですけど~?


「よし。これで繋がったなイッセイ」

「繋がったって、何が…だ!?」


 ヴィルは何かに納得したような話し方だったが、俺には説明なしか。俺の右手がジクジクと痛むんですケド。お前にやられた何かのせいだと轟き叫んでるんですケド…


 今も体の中で何かが動いているようだ。


「…何をした」


 俺は痺れる右手を掴み、警戒心を一気に高めヴィルグランデを睨む。この空飛ぶ魔剣は何を考えているか分からないが、今も呑気に『ふよん。ふよん。』同じところでホバリングしている。

 

 俺の耳の後ろの方から声が聞こえてきた。


(よう。聞こえるか? ヴィルだ。聞こえるか? へへっ、あだ名で呼ばれるなんて久しぶりだな)


 突然、頭のなかで話しかけられてビックリしてしまう。後ろを振り向くが当然誰もいない。目の前のヴィルは水平を保ったまま動いていないし、話かけてきても居ない。


(くくくっ。何を驚いている)


「いや。だってねぇ? 何でヴィルの声が頭の中で?」

「くはは。お前の世界にいればあったかもしれないテクノロジーだろ? 頭の中に変な『きかい』とか言うものを埋め込んだ時の…」

「え!?」


 後頭部を触りながらヴィルを見る。

 いつの間にか改造された?


「実際に頭には何も入れてねえよ。そうやった時の機能だけ活かしてる。言い方が悪かったな。『テレパシー』ってやつだ」


 いきなりSFな話になって色々と置いていかれ気味だったが、テレパシーだと言われて全てが納得出来た。


 ここは、ファンタジーな世界で…

 ファンタジーって、すげー。ってな。


「意識共有だよ。先程、魔力を送ってちょっと遺伝子をいじくらせていただいたのさ。おかげでお前が考えているのも俺に流れてくる」

「え?」


 どうやら先程の一瞬で意識を繋ぐ措置をおこなったらしい。

 結局は、遺伝子弄られてるし…。何となく自分の子供がゴブリンやらオークやらってイメージをしてしまった。

 あたしの子、自分に似てるかしら…。


 人のプライバシーや尊厳などはこうやって奪われていくのか・・・。

(うるせーな。必要な情報以外取らねーよ。で、これは訓練だ。頭のなかでワシに話しかけてみろ。)


 なるほど、なるほど。そう言うことかでは折角なので試しにやってみるか。勝手に遺伝子を書き換えた仕返しをしてやろう。


 --ヴィルは実は『魔剣』だよな?

「バッカヤロー。俺は魔剣じゃねーよ。何度言えばわかるんだ」


 通じた。俺のイメージにヴィルがめっちゃ怒ってる。


「いや、何でもいいから言えっていうから…」

「お前なーー。ワシからすれば魔剣扱いされるって、侮辱以外の何者でもねーんだよ」


 ヴィルはわりと本気で怒ったようだ。

 魔剣に対して何か思うところがあるのかもしれないな。今度、聞いてみるか。


「悪かったよ」

「…まぁいい。で、俺に魔力供給が出来たって事はお前は初代と同じ【カイザー】の称号を手に入れてるってことだよな。可怪しいな? 俺が聞いていたのは女だったはずだが?」

「!!?」


 俺は再度驚いた。俺の表情を見てヴィルは落胆の声をだす。


「その表情を見ると何の説明も受けて無いんだな…。あいつ等、またか…」


 ヴィルは何かを考え始めたようで黙ってしまった。


 俺は俺でヴィルの話しに違和感を覚える。

 元々、【カイザー】の称号が与えられるはずなのが女ってどういうことだ? それって、俺以外の奴がこいつと会う予定だったって事か?


「ヴィル、誰だ。その本来【カイザー】の称号を貰う人ってのは?」

「何だ。嫉妬か?」

「まじめに答えろ!!」

「何だよ急に熱くなりやがって…。しらねーよ、神が勝手にワシに連絡を送って来ることがあってな。それでワシの封印を解くのは【カイザー】の称号を受け継いだ女の勇者だと聞かされた」

「!!?」


 何ということだ…。

 もしかすると、本当はこいつの封印を解く人物っていうのは【鏡】だった…?

 何でこうなった…のか。これは、金◯様に聞くことが増えたな。


 ・・・



 あの後、話を中断した。

 どうにも俺がヴィルと会話を続ける気力が湧かなかった。

 今、ヴィルはバッカス達と共に俺と離れた場所にいる。


 ちょっと一人にしてもらった。センチになった訳じゃ無いけど。こっちに来て初めての【鏡】についての情報。気持ちに整理をさせて貰ったのだが、意外と纏まらんもんだ。これ以上は時間の浪費だと思い合流する事にした。


 皆は消えた魔法陣の辺りに休憩スペースを作って、くつろいでいた。


「もう良いのか?」


 バッカスが話しかけてきたので、俺は頷いて返す。


「…うん。今は何かを考える余裕が湧きそうに無いから」

「まぁ、何じゃ今度はワシ等にも話してくれんか? 皆お主のためなら何でもする」

「うん。ありがとう。もうちょっと落ち着いたら…話すよ」


 皆には俺が異世界人だとは伝えていない。

 特にタイミングを図っていたわけじゃない。適当なタイミングで話せば良いと思っていた。 


「…遺跡の確認ってどんな感じでした?」

「ん? あぁ。下を見てみい。封印と言うよりもう何も無いだろ」

「あ”っ…」


 バッカスが顎髭を擦りながら。下を見た。

 魔法陣はすっかり消えている。


 ヤバい…。王家の守ってきた封印を消してしまった。

 俺が消されるって事は無いんだろうか。


「そ、そう言えばこれは…」

「ワシが消した」


 いつの間にか俺の後ろに浮いているヴィル。

 サラッと凄いこと言ったな。消したって、チョークで描いたわけじゃないのに。

 ヴィルを見てバッカスが急いで頭を下げる。

 いい加減その関係何とかならないの?


「あれ? じゃあもうここにはモンスターが沸かないのですか?」

「お前、あいつ等からそんなことも聞いてないのか…。まぁいい城に行ったら説明してやる」

「分かりした。…しかし、ヴィルがこんなにデカかったらどうやって持っていけば良いんだ…」


  ヴィルの大きさは3m、対して俺は120~130cm。その差は2倍以上…。誰か呼んで横にして運ぶ?


 俺の懸念を悟ったヴィルはいきなり輝き。ショートソード並の大きさになった。


(これは貸し・・だぞ)


 ヴィルがテレパシーを飛ばしてきた。

 サンキュウ。助かる。


「イッセーーイ様ーーーーー」


 遠くからソフィー姫様の声が聞こえた。

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