26話 ホーミング能力☆

 王家が管理している【封印の洞窟】への入り口は王城の裏手にあり洞窟へと続く道は厳重な扉で封印されている。

 何代か前までは封印の洞窟への入り口は開きっぱなしで、観光名所としても使われていたと記録されていた。

 何故、封印するに至ったのかは記されていないが、今では強固な扉と共に強力な封印の施術が施してあり王都の教会よりも強固な結界が敷かれている。

 それを開くことが出来るのが王家の人間であり、あまりにも強力な封印が施されている事もあって、今では歴代の王族が試練として洞窟に行くことが儀式になるようになっているらしい。

 それを聞いた時、俺達に割り当てられた兵が新兵だって事に納得した。


 --ギギギ……


「ここから先が封印の洞窟…???」


 俺がそう呟くと姫様が息を飲むのを感じた。ついでに兵士の4人も息を飲むのを感じた。


 …って、そんなに気負わなくても大丈夫でしょ!


 つい数年前まで観光名所だっただけあって、洞窟に続く道中はキッチリと整備されている。石の階段が敷かれており周りも綺麗に整備されていた。

 定期的にモンスターの駆除も行っている様で探知してみたが、この近辺にモンスターの気配は感じなかった。


 --リーン


 何か鈴の音がなったような気がして辺りを警戒した。

 したのは良いんだけど、そういうのは辺りに伝わりやすい様で、


「イッセイ様どうしたんスか? 何か居たんスか?」

「な、何だと。周囲警戒!!」


 護衛の兵士さんの一人フッツさんの言葉を聞いた兵士長のシューニンさんが、いきなり警戒命令を出した。そのせいで姫様も含め五人が一気に警戒し始めた。


 ウソでしょ!? 俺何にも言ってないよ。


 本人に言質を取らずにこの行動力。しかも、伝染してるのか皆が緊張でピリピリしている。

 まだ目的地にも付いてないのにこの警戒心はやばすぎる。

 これでは中に入る前に参ってしまうではないか、何とか警戒を解かせないといけない。


「い、いや。何でも無いです。ちょっとこの辺が綺麗に整備されているので気になって見ていただけです」

「…なんだ、そうだったんスか。じゃー、後は俺らが見てるんでゆっくりと見ててください」


 護衛兵士の中でもチャラ男系のフッツさんが軽く部隊長さんに「イッセイ様の勘違いっス」とか報告されていた。

 別に俺が何かを言った訳では無いのだが…。まぁいいか。

 部隊長さんから皆に説明されると、ソフィーと護衛の兵士達から安堵の声が溢れていたが、兵士の一人ヘーボンさんからは舌打ちされた。


 整備された道、間引きされているモンスター。この状況で襲われる危険性がどれだけ有るのか。

 ま、まぁ。新兵クラスの兵士が国の姫をお守りするのに緊張しないはずが無い。

 これぐらいの緊張感があったほうが良いのは確かだ。

 ソレくらい気負ってくれていた方がいざ本当にモンスターが出た時に対処し易い。


 俺は何度も自分にそう言い聞かせる。

 と言うかその辺の舵取りも必要そうだが、俺がそこの面倒まで見ないとダメなのか?

 そう考えると何となくため息が出てきた。


「姫様。念の為ですが僕の近くを歩いて貰っても良いですか?」

「はい。何かございましたか?」

「いえ。念の為です」


 姫様と二言、三言そう小声で話す。姫は直ぐに俺の後ろを歩くようになったが、それに気づいた兵士さん達がこっちを見て舌打ちしていた。



 ・・・



 あっという間に山頂に着く。と言っても下を見れば城に続く道は見えるので何という事も無いのだ。

 モンスターも居ない、整備された山の登山をしているだけの気分だ。

 ひどい言い方をすれば、学校の遠足とも言える。


「やっと来たか」


 頂上にも洞窟を守る兵士さんが居たようで俺達が近づく頃には手を振ってお出迎えしてくれた。今は兵士長さんが門番兵士さんと手続きを交わしている。

 今のうちに中に入った時の準備をしておこう。既に洞窟中からは数匹のモンスターの気配は感じ取っている。


 準備をしていると先程声を掛けてくれた兵士さんが姫様と会話をおこなっていた。


「そうですか、今年ももうそんな時期ですか。今年は姫様にお越し頂けるとは…」


 ベテランの域に達している門番のお爺さんがしみじみと話す。

 老兵士が辺境を守っている様に感じるが、気配は鋭く常に俺を含め姫様以外の皆を気配で探っている。変な動きを見せようものならその犯人の首を体から切り離すぞと警告されているようだった。

 残念なのがその気配に気づいたのは俺だけの様だ。

 ベテラン兵士さんが俺と目が合うと胸元辺りで手を開いて『困ったよ』ってジェスチャーしてきた。俺も苦笑いを返す。


「よし。良いぞこれで手続きは完了だ。中にはモンスターが居るから気を付けろ。姫様が居ることを常に考えるんだ良いな」

「「「「はい」」」」


 本日の護衛の皆さんが喝を入れられていた。

 扉が開くまで待っているのだが、意外と強い封印だったのか開くのに時間がかかっている。

 姫様とずっと会話を続けている老兵士さんはタイミングを図っている様だった。

 何となく聞こえてくるのは、王宮での姫様との思い出ばなしの様だった。 

 ソフィー姫様は老兵士さんと楽しそうに会話していた。


 --ゴッ、ゴッゴ……‥ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 重厚な音でゆっくりと口を開く封印の洞窟。

 封印の門が口を開き奥からひんやりとした空気と、少し【カビ臭い】臭いがしてくる。


 --リィーーーン


 また鈴の音の様な音が鳴った。

 結構大きい音だと思ったのだがどうやら俺以外の他の人には聞こえていないらしい。

 だとしたら何から…。このナイフか?


 右の腰に下げている我が家に伝わるナイフに触れる。

 何となく感じるのは、ナイフがソワソワしている・・・・・・・・気がする感覚だった。

 どうやらここに来たがっていたのは俺達だけではなさそうだ。


「さて姫様、ここからが本当の試練ですじゃ。洞窟の奥にある魔法陣の色を見てくれば試練完了です。何色かワシに報告してくだされ」

「分かりました。では、行ってまいります」


 定番な挨拶を交わすと洞窟内へと進む。

 独特な空気と兵士さん達が照らす松明の明かりでより一層緊張感が増す。

 洞窟と表現されているが、パッと見た感じ遺跡に近い感じだった。

 目の前に広がるのは、人工的に作られた空間で規則性のある石の積み重ねで出来ていた。恐らくまだ『遺跡』と言う表現が深く浸透していないため洞窟という括りにされているような感じだ。


 俺は松明の光を掲げ進める道を探る。

 明かりで見えたのは、下に行く道、左右に分かれた道など複数進む道は有るようで、『RPGと言えばこれだ迷路!』って位に雰囲気が出ている。


 そして、分かれ道の角には何か動いたものが見えた。

 突然現れた光に反応した様にも見える。小さい何かが一瞬見えた。


 モンスターか…。


 総判断すると直ぐに、見かけた場所、鉢合わせしそうな場所、死角、奇襲ポイント。咄嗟にエンカウントポイントを探る。パッと見ただけで数か所気になる場所があった。

 これに気付けるのも精霊の皆と『夜のお散歩』に出かけた事で身についた経験だった。最もあちらの森シェルバルト領はこんな生易しいモンスターの群生地では無かったが……。

 そんな俺とは裏腹に兵士さん達は、洞窟の雰囲気に生唾を飲んでいた。


 ベテラン兵士さんが入口付近で俺達の顔を見てニヤニヤしている。

 表情から罠とかでは無さそうだけど、やはり何か企んでいるのは分かった。

 

 それよりも洞窟内だ。

 更に魔力を使い索敵をしてみる。これは過去に見つけた魔力の応用。ただ放出した魔力の波、広がった魔力が異物にぶつかると帰ってくる。その波の波動をつなぎ合わせて、洞窟の大きさ、敵の位置などを索敵するソナーの様な役割をしてくれる。


 などと考えている間に魔力の波が帰ってきた。

 うん? …うーん。これはマズイ量だな。初心者集団で挑める数じゃない。


 この入口付近はまだいいが、目的地らしき奥まで進むには数十匹のモンスターを相手しないと進めそうになかった。これは出直しだな。

 ベテラン兵士さんに相談して進むか戻るか決めたほうが良さそうだ。


「姫様。今、少しよろしいですか?」


 姫様に声をかけると、俺の言葉で驚いた姫様は体をビクンと跳ね上がらせた。

 周囲の警戒をしていてもこうなっては意味が無い。


「は、はひぃ。イッセイしゃ…さ、様。な、何でしょう」


 姫様は咬んじゃう位に緊張していた。


 まぁ、今日の依頼はフリーミッションなので、俺達の好きなタイミングで撤退出来る。

 最悪評価点は付かないかもしれないが、姫様の身の安全を考えれば不合格でも問題ない。


 俺は頭を下げたまま進言する。


「この先、モンスターが多数おります。ここは、一度引き。そこの兵士殿にご相談申し上げるのがよろしいかと…」

「それは本当ですか!?」


「…ほほう」


 やはり、ベテラン兵士さんは何か隠している。

 

「そうですか? 敵の気配どころか姿も見えませんけど…」

「確かにいねーッスね」


 女性兵士のソノータさんが辺りを見渡しながらそう呟く。フッツさんも同調していた。


 それは索敵が遅いから皆隠れたんだよー。(棒)

 口には出さないが気持ちはこんな感じだった。


「イッセイ様。我々が安全を確認致します勝手なご判断はおやめ下さい…。我々の掴んでいる情報ではこの洞窟は安全です」


 部隊長のシューニンさんが空気を察して声を掛けてきた。確かに奥の奥までは索敵出来ないだろうから不確定要素に振り回されたく無いんだろう。

 しかも、現地の情報より過去の…いや、人の情報を信用している。

 この付近の敵位探そうよ…直ぐ近くの角とかに居るよ。


 どうにかしてよと、ベテラン兵士さんを見たが露骨に目を逸らされた。


 凄く絶対怪しい…。


「…では、我々が敵の姿を確認致しましょう」


 やっと動き出した兵士長さん。

 護衛の三人はまさかの提案に不満そうな顔をしていた。確かに方針がコロコロ変わる上司が居るんじゃ不満も出るわな。


 俺が探知している気配から、少なくても近くに20匹はいるし、こうもバラバラになった指揮を維持するには空気の入れ替えが必要だ。だからここは撤退一択だ。


「皆さん。一度戻りましょう。陛下にご報告申し上げて、もう少し兵をお借りしましょう」

「イッセイ様。ですから一度索敵してみましょうと言っているのです。これで一匹も居なかったでは許されませんぞ。ささ、姫様ご命令を。私共に一度確認させてから陛下へのご報告でも良ろしいでしょう?」

「…そう、ですね?」


 ここで姫様を巻き込むのはどうかと思うぞ。

 実際、姫様は困った顔をしてこちらを見ていた。

 何か言おうとしても兵士長さんが色々話をして姫様の会話を遮断している。


「あなたたち…!?」


 好き勝手言っている兵士達にキレそうになったが、姫様に首を振られ思いとどまる。

 姫様の顔を見たら悲しそうな顔をしている。仲間割れを起こすことを危惧しているのだろう。


「何ですか? イッセイ様。」

「姫様の…お心のままに…」


 姫様に止められた事であっさりと引き下がる俺。

 自分達が買ったと兵士たちは鼻で笑いながら奥へと入っていった。


「すまんの」


 進んでいった兵士たちと入れ違いでベテラン兵士さんが近寄ってきた。

 

「……このままでは「分かっとる。分かっとるよ。だから、もう少し時間をくれ」」

「……」


 文句を言いかけたが、何とか思いとどまれた。

 ベテラン兵士さんの視線の先を見ると変に興奮した兵士さん達が一定の距離を取りながら脇道の入り口付近を確認していた。


 …あいつ等。何やってんだ?


 闇に覆われた通路の辺りを槍で突いている。

 これでは夜目に慣れた向こうから丸見えで対策を与えてしまう。しかも片手で松明を持っているため仮に当たっても効果は無いだろう。それどころか奪い取られて攻撃される可能性だってある。

 俺だったら、二人一組になって進み。一人が松明を通路に投げ込み、もう一人がモンスターを殺す算段をする。


「イッセイ様。あの…」


 姫様が言い淀んでいる。

 先程の判断で押し切られたのを気にしているのだろう。


「姫様。お気になさらずに兵士さん達のあの様な態度では先程の対応で正解だと思います。それに何があっても姫様は私が守りますから」

「イッセイ様…」


「ほほほっ。そこの坊主はやけに感がいいんだな」


 ベテラン兵士さんは俺を褒めてくれた。

 まぁ、伊達に毎夜出かけていたわけでわない。


「兵士殿ご存知なのでしょ?」


 ここを守っている人だ知らない訳がない。

 どうやら試験をされているのは俺達だけは無いことを悟った。


「モンスターはいるのですか?」


 姫様が言う。


「はい。確実にいます。しかも、奴等はこちらにとっくに気づいています」

「ほう。そこまで分かるのか?」


 白々しいと思った。


「…そういう風に仕込んだのは兵士殿達では?」

「はて? 何のことじゃろな?」


 この爺。狸だ。


「!!?」「!!」


 ベテラン兵士殿と他愛もない会話を続けていたが洞窟内の雰囲気が変わり警戒をする。

 一気に洞窟内に殺気が濃くなってきた。

 恐らく遊び半分で索敵している兵士さん達の値踏みが済んだのだろう。もしくは自分達のテリトリーを侵されて怒ったか。

 何れにしても彼らが襲われるのは時間の問題だった。


「まさか、封印が解けてしまったのでしょうか?」


 姫様の意見を見解深いものだった。

 本命はここに居る雑魚とは違うと思うが、本命が封印を破る前にこういった雑魚が大量に湧く可能性はある。

 俺はそう考えていた。


「姫様の懸念も勿論ですただ焦ってはいけません。確認は必要だと思います」

「そう…」


「うわああああああああああ!!」


 姫様がよく分からないと言った顔をして何かを言おうとしていたが下の方から叫び声が聞こえてきた。


 姫様とベテラン兵士殿と現場に着くと既に交戦中だった。


 兵士長のシューニンさんが指揮を取り、向かってくるモンスターの相手をしていた。

 緑色をした小鬼が見た目のモンスター『ゴブリン』が10匹程度。ギャアギャア騒ぎ。兵士さん達を威嚇したり松明を触って遊んだりしていた。


「ちくしょう。いてえ」

「大丈夫だ。安心しろこんなの大した怪我じゃない」

「兵士長また来ます」

「くそっ。ヘーボンは俺と前に出ろ。そこのソノータは、フッツを連れて後退しろ!」


 どうやら、フッツさんが襲われたようだ。案の定槍を持っている『ゴブリン』も居るためフッツさんは武器を取られたのだろう。


「加勢します」

「す、すまない」


 俺が背後から戦闘に参加。ポケットの中から石を取って投げつける。わざと回転を掛けて投げた石はゴブリンの頭にヒットし、絶命させた。

 ギフトのおかげで命中率の心配をしなくて良い俺は適当な所に投げれば良いだけなので非常に楽だった。

 

 怪我をしたフッツを見ると槍で突かれたのか足は血だらけで、噛みつかれたのか腕は骨が見えていた。

 ベテラン兵士殿がソフィー姫様に見せないように背中で隠しながらソノータさんとフッツさんを誘導していた。

 仲間が殺されていていても下品に笑っているゴブリンどもは死んだ仲間に群がって一生懸命食べていた。

 本で読んだ知識によるが、コイツラの性質はその食欲にあると言われている。常に食欲に飢えておりその飢えが元で狂っている。日本の『餓鬼』の様なものだ。

 狂気のせいで白目を剥いており、裂けた口にはサメのように牙が3段位生えている。


「モンスターは坊主に任せてを倒しますから。お前達は後退しろ」

「しょ、承知しました」


 ベテラン兵士殿が怒号を上げ、兵士長のシューニンさんは直ぐに反応し後退した。


 よし。これなら大事にならない。


 俺はポケットに手を突っ込み石を取り出す。

 投擲用に磨いてある特注品だ。

 10cmほどの岩をライフルの弾位まで押し固め磨いた一品だ。ライフルの弾は弾頭が約10mmなので質量は約10倍あるライフル弾と思ってくれれば良い。

 

「…こいつは結構重いから、早く終わらせたいんだよ、ね!!」


 --チュン!!

 --パンッ!!


 頭が弾け飛んだゴブリンは何も言わずにその場に倒れる。

 頭どころか肩から上がきれいに弾け飛んでいた。

 いや…キレイではないな。汚くはじけ飛んでいた…?


 100発100中のスキルが有れば後は腕力だけだが、360°どの向きに投げても狙ったところに行くので結構楽だ。一番力の掛けやすい場所に落とせば・・・・いいのだから。


 結果、10匹のゴブリンを全滅させるのに5秒も掛からなかった。


「イッセイ様。凄いです」

「す、すごっ」

「…」


 姫様は声を漏らしていた。

 他の兵士さん達も皆呆気にとられていた。


「坊主この能力は?」


 ベテラン兵士殿が俺の顔を覗きながら聞いてくる。

 後ろでは姫様も気になっている様子だった。


「これが僕の貰った加護【ホーミング能力☆】です」


 俺は満面の笑みを返した。

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