素敵なステッキと素敵でない私と

@woberi

第1話 歩く

 一生を独りで歩きたいわけじゃないのです。なんなら知り合いだっているでしょう。誰かとともに過ごす時間もあるでしょう。

 しかしながら私は自分勝手な人間なので、自分の都合の良いときに一人になりたいのです。独りの時間を摂取しなければ生きていけないのです。


 怖くなることがあります。信用できる人々。数少ない知人も、家族も、もしかしたら都合の良い道具としか思っていないのではないかと。そんなことを考えたことはありませんか?誰かに問いたい。(少しでも賛同されるならば、とても安心します。)


 だって、お腹が一杯の時に食事は要らないじゃありませんか。心が愉快な時に、誰か言葉など要らないじゃありませんか。公園で木々を見ながら涼んでいるときに、喧騒は無粋じゃありませんか。


 でもお腹は減るし、気持ちは寂れるし、部屋で天井を見上げていると音が聴きたくなります。


 身勝手だなあ、と思います。何度も思います。


 もちろん人間てのはその身勝手が双方向に重なって、関係しあって生きてるのです。誰かに迷惑をかけるのは当然だし、かけられるのは必然だし。月並みですが、そんなものです。


 きっと私が未熟なのです。自分だけが人を良いように使っているだなんて、それこそ傲慢な考えでしょう。わかります、分かっています。

 

いえ、分かっていません。



 考えれば考えるほど自分にも他人にも理解が追い付かないそんなとき、とりあえず旅に出たくなります。小さな小さな旅です。


 私が住んでいるとこは、最寄りの駅から徒歩十分ほど離れた住宅地にあるしがないマンションの3階です。

 寝間着の真っ黒いジャージから、外着の青いラインの入った黒のジャージに着替え、軽い準備をしてから玄関のドアをばたんと開けるのです。その瞬間に旅は始まります。

 階段をどたどた駆け下っていきます。時々、同じマンションの住人に出くわすことがあります。そうならないよう、大胆かつ慎重に、一瞬で出口まで向かいましょう。


 別に住人の方と出会ったって、なんちゃーないじゃありませんか。そう思う方もいるでしょう。私もそう思います。でも、なんだか怖いので、叶うならばすれ違いたくないのです。


 ドアを開けると、日差しがとても眩しくて、目が開けられません。本当に目が開けられないくらいなので、慣れるまでは時間をかけてマンションの前の駐輪場で呆けて過ごします。


 ようやく目が開けられるようになれば、そこから一歩踏み出し、私の旅は始まります。そしてその瞬間終わります。晴れやかな気分になれたので、今日も大成功です。


 旅程が終わってしまったので、マンションの前の歩道に立ちながら、次にすることを考えます。家に戻るか、ここからまだ旅を続けるか。なんなら活発にランニングなんてそうでしょう。


 私の隣に立つ、我が相棒にも尋ねてみましょう。

「今日はどうしょう。」


 すると彼女は必ずこう答えるわけです。

<歩こう。>


「そう言うと思った。」

 だって、彼女は、私の考えた通りにしか発言しないのですから。

 

 私が手に携えた一本の杖。もうボロボロで、傷だらけのその姿。それを目にしないことには、私の一日は始まらないわけです。


 君たちと道を歩き続けて、もうどれくらいになるだろう。その内の一人を握りしめながら、また小さな旅が続きます。


 私の敬愛する、都合の良い友人たち。少しだけまた、私を支える日々を重ねてほしい。

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