勾玉祭祀!どっかん屋
第17話(勾玉祭祀!上巻 1の1)
勾玉祭祀!どっかん屋(上巻) 第一話
1
中学1年生のとき、
「みっくん、あなたは絶望したことは、ある?」
共用の広間の一角で、
そんな折に発せられた、姉貴分からの質問である。
「おお、ウミ姉。俺は今まさに絶望しているところさ」
テレビ画面から目を離さず、
手に握られしは、スティックが2本ついたコントローラー。○と☓の機能が逆にされて一時はとても難儀したが、若者の特権ですぐに慣れた。
問題は、このゲームが最新にして名高い”死にゲー”であることだった。
「NPCの
なんか変な口調の
画面を見ると確かに、”YOU DIED”の物々しい表示と暗転と一瞬の再開と虐殺シーンが延々と繰り返されている。
「いや知らないから」
と、宇美は鼻白む。
宇美は
「それよりも」と、宇美はシャーペンを机の上においた。
どうやら真面目な話のようなので
宇美は
「あなたと私は、似ていると思うの?」
「俺が? ウミ姉と?」
思わず疑問符を連続してしまう。かなり対象的な性格だと思っていたのだが。
ええ。としかし宇美はうなずく。
「みっくんには姉が二人いるのよね? 実は私にも姉がいるの」
初めて聞く告白に、
話の流れからして、姉とは都姫とは別の人物に違いない。
「ともに姉がいて、ともにお姉ちゃんが大好きで」
いや待て、と口を挟みたかった
「それに、悪戯好きで」
「悪戯好き? ウミ姉が?」
またしても疑問符を連続させてしまう。ええ、としかし宇美は柔らかい笑みを見せた。この上品な笑いは、姉の都姫とよく似ていた。
「私も悪戯好きよ。お姉ちゃんのカバンにカエルのおもちゃを入れたり。あらめんこいなあとか逆に喜んでたけど」
照れたのか、宇美は後頭部のべっ甲の髪飾りをなでながら笑う。この仕草も彼女の癖のひとつだ。
ふと、彼女は真剣な眼差しを、
「だから、知りたいの。そんな姉に絶望したとき、あなたならどうするのかを」
彼女、いや彼女たちになにがあったのか。宇美の瞳は真剣で、そして少しばかりの陰が感じられた。
*
どっかん屋の本拠地となる生徒会室は、2階にある。生徒会長・副会長のおわす生徒会役員室は4階の元1年8組だが、こちらはきちんと生徒会用にあてがわれた部屋である。
その生徒会室で、3人の女生徒が仁王立ちでにらみ合い、凄みを聞かせていた。耳をすませば、ゴゴゴゴゴとかすら聞こえてきそうな様相だが、別段地響きは鳴ってなかった。
その女生徒の一人、
「チンチラはエロい」
「なぜかね?」
ゆるくウエーブのかかった髪は角度によってはピンク色にも見え、小柄な容貌もあって愛らしさの漂う花丸だが、理事長の孫にして社長令嬢。どっかん屋サブリーダーで風鈴に代わってリーダーシップを発揮することも多い彼女には、ある種の風格がある。
そんな花丸に気後れすることなく、留美音は鷹揚にうなずいた。
「まず、パンチラという言葉があるが「皆まで言うな。お前の意図するところはよくわかった」
言葉の途中ですかさず口を挟む花丸。
ふっふっふ。うふふふふ。と、よくわからない含み笑いで、二人の間ににらみ合いの火花が散る。
ここまで困ったような怒ったような複雑な表情で黙視していた第三の女生徒。
赤い髪に混じって犬の耳のような黒髪をたずさえた
「じゃあマンチカン……「はいアウトー!「なんでえぇ!?」
ダブルで後ろ指をさされ、美優羽は悲鳴を上げた。
そんなトリオの漫才を、頭痛が痛いとばかりにこめかみを押さえ、どっかん屋リーダー、
「あんたたち、それ女子高生がする話題じゃないからね?」
10月下旬。暑さもようやく峠を越し、冬服への衣替えも済んだ。
朝晩は冷え込む日もチラホラとあり、風鈴もゆるふわ三つ編みを少し引き締め、伊達眼鏡も新調したようだ。最近緩みがちだった委員長っぽさを取り戻している。
中間テストも終わり、結果に一喜一憂する同窓たちを窓から眺め、どっかん屋は次の行事、
「花丸、あなたは前に言った。色恋ごとに気遣いは無用と」
「ふっ、まさか
「うぐぐー」
三者三様ににらみ合う。いや、わずかに美優羽が気後れしているか。
先月のツクヨミの事件で、花丸・美優羽に加えて留美音も
そうなると正妻は誰かで揉めているようだった。
なんでチンチラとかマンチカンのネタ合戦に発展したのかは極めて謎ではあるが。
「なんでこんなことになったんだか……」
メンバー3人が全員
5月のだいだらぼっち事件の顛末で、
いや、厳密にはその予定といったところか。
詳細はいまだに聞けていないが、后を4人用意し、うち1人を正妻とすることで相続が決定するようだ。
「私が最初の后候補だからな。当然私が正妻であるべきだろう」
「順番は関係ない。気持ちが大事」
「あ、あたしは風リンひとすじなんだからね!」
『どーぞどーぞ』
「うぐぐー! けどここで引いたら負けな気がするし!」
『ちっ』
ツンデレな美優羽に、ダブルで舌打ちする花丸と留美音。
(待って、后の枠はまだもうひとつある)
はっと気づいた留美音が鋭くささやいた。
(じー)
「こっち見んな」
鼎立姿勢のまま視線だけ一斉に向けられ、思わず風鈴は毒づいた。
(そもそも4人が上限とも限らないぞ。しかしあれ、
(けど不破の人生において、風リンって絶対正規ヒロインよね)
(血の繋がりはないし、油断は禁物)
ひそひそと話し合う3人を問い詰める気は毛頭ないが、なにを話しているかはおおむね察しはつく。
「二股三股それ以上なんて、お姉ちゃんは認めないわよ。あんたたちだって嫌でしょう?」
「だから正妻の座について鼎立しているのではないか」
妾というか側室を普通に認めてるようなのが気になるのだが。
ズバッと即答する花丸他2名の倫理観が心配になってくる。
「みっくんがあの亜界を継がないと、色々問題が出てくる」
基本無口な留美音も、この点については花丸と同じ意見のようで、いつもより饒舌だった。
「留美音はコロボックリと仲良しだしね、わからなくはないけど」
コロボックリは亜界の先代の王の家臣、お手伝い妖精だったそうで、王が不在となったらまた悪さを始めかねない。近所迷惑程度のいたずらではあるし、そもそも
「けどねえ、そもそもこの歳で結婚とか交際とか…」
「まあまあお母さん「お姉ちゃんよ!」
花丸にたしなめられ、みなまで言わせずに風鈴は声を荒らげる。
対し、留美音は落ち着いていた。
「そういう仕様だから仕方ない」
野良コロボックリが悪さをするようになったら、調査を名目に政府や自治体が、また亜界に踏み込んできかねない。だいだらぼっち事件のような面倒事の再来はごめんである。
「そう! 学校とコロボックリのために仕方なくなんだからね!」
「お前は誰に向かって言っているんだ」
明後日の方向へ言い訳するツンデレ美優羽にビシッと突っ込む花丸だった。
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