第17話(勾玉祭祀!上巻 1の2・前編)
2
「
「開口一番、なにを言っておりますかね、君は?」
「いや、健全性テストをね」
「ああ、それ神通力だったのな。何かのネタだとばかり」
「まあ私の神通力はセキュリティの面で、わかりやすいエフェクトはかけられないからね。モノによっては霊力の流れすら気づかせないようにする必要もある」
「いつもお疲れ様です」
中華人民共和国と条約を結ぶ、書の超高レベル精霊人、オノノトウフウ。台湾省在住。
ロシア連邦と条約を結ぶ、数の超高レベル精霊人、ユークリッド。国後島在住。
ネットを通じて、この二人が対面でリアルタイムチャットを行なっている。
オノノトウフウは書道家をイメージした臨戦霊装で、仮面はひょっとこ。ユークリッドは研究者風の衣装をベースとした臨戦霊装で、無地の白仮面の上に黒縁眼鏡をかけている。
二人は今、秘密の回線を通して、ロシア連邦とウクライナ共和国との間で起こっている戦争について密談を交わしていた。
紫藤清夢氏も真っ青の、極めて真面目な国際問題についてです。
「”セキュリティ・スルー”は神通力によりあらゆるセキュリティを無効化する。さらに今回はスターリンクを利用してるからね、盗み聞きされる心配は無いよ」
さて、とユークリッドは本題を切り出す。
「コロナウイルスはオノノトウフウのおかげで被害は最小限ですんだけど、また面倒なことが起きたね。よりによって本物の戦争とは」
このままでは超高レベルが恐れる、神通力の軍事利用が本格化する。
超高レベルは条約により本来人の戦争に巻き込まれる危険はないが、特高レベル以下にこれは適用されない。
「心中察するぜ。俺たちはあくまでも条約を結んでるだけで当自国の国民ではないが、ロシアと結んでいるお前の身としてはなあ」
オノノトウフウは気遣いながらも、声は自信に溢れていた。ひょっとこの面のようなひょうきんさは、今はあまりない。
ネット越しでも、お互い素顔が透けて見えているのだろう。
ユークリッドも、声やジェスチャーだけでは推し量れない、どこか他人事のような顔色が、その白仮面の下にはあった。
「そこで今回、条約の”超高レベルが庇護する精霊人及びもののけ類”はこれに準ずる扱いとする”を有効化した」
ついにニヤリと、ユークリッドが応じた。
「ニュースで聞いたけど よく各国が承諾したね」
彼らは当然ながら、世界の行く末より精霊人の行く末を気にする。
たとえ国家が相手であろうと、自分の身は自分で守れる。これまでもそうしてきたし、これからもそうする。
気にすべきは自分たちに続く弟妹たちのことだけであった。
「ニュースでも言っていたろ? 今回の戦争は本来人側の責任にある。それに、この条約の裏をうまくかけば、洗脳化した得高レベルを大量に超高レベルのもとに送り込むことができるかもしれないという目論見があるんだろう」
安楽椅子によりかかり、ユークリッドは笑う。
「ああそれこそ無駄なことなのにね。こちらにはキューピッドもいるし」
キューピッドは精神操作のスペシャリストである。必要とあれば、政府要人・マスコミから個人のインターネットインフルエンサーまで、容赦なく廃人に追い込む。
洗脳を解くくらいはお手の物だ。
「そうだ、今度一緒に食事でもどうだい? ついでに神通力のデモンストレーションでも」
「いいね、世間的にはロシアと中国の接近にも見える」
ネット越しに、ふたつの笑い声が響き渡った。
万万が一、これを政府要人等が聞いていたら、震え上がっていたに違いない。
政治に無頓着とされがちな超高レベルだが、この二人は清夢の意思を強く引き継いでいるようだった。
揃って東側諸国と条約を結んだのも、なにかの縁なのだろう。
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