第11話(風林火山!3の2・中編)

         *


「オイ、イキモノ係。今ハ何対何ダ?」

 元は校庭、現在は宮殿の前に広がる砂地。ここではコロボックリたちが蹴鞠などして遊んでいる。

 未来が隠した靴は光宙みつひろの神通力によって主に調度品に見た目が変えられているが、透明化されたものもある。

 ワルキューレは神通力”瑞雲”を発動し、探索中である。

”瑞雲”とは、太平洋戦争で活躍した、水上偵察機。実物とは異なり大きさは中型犬程度、デザインもデフォルメされてはいるが、神通力により探索能力は十分にある。

「どっかん屋が180、悪戯トリック班が150ってとこかね」

 あすなろ・山吹と確認しあい、ひばちが現状報告をする。

「ム、ヨクナイナ。たまもハナニヤッテルンダ?」

 瑞雲が機首をフリフリしているさまは匂いで探索する犬のようであり、コロボックリがキャッキャと飛びかかり、思うように探索は進んでいない。

「タマモは図書室みたいだね」

”ナビゲーション”をレーダーとして使用したであろう、太郎右衛門から情報が入る。

「ム?」

 と、なにかに気づいたワルキューレが、音もたてずになめらかに移動する。

 そこには美優羽がいた。”鵜の目鷹の目”で探索中のようだが、視覚に連動しているようでワルキューレには気づいていない。

「モシモシワタシわるきゅーれ。今アナタノ後ロニイルノ」

「うきょおおぉぉ!?」

 口から心臓が飛び出るような勢いで、美優羽が飛び退いた。

「いきなりなによ!? びっくりするほどユートピアじゃない!」

 美優羽の文句の先にワルキューレはいなかった。

「オルカー?」「貴様見テイルナ!」と、探索中の花丸・留美音と脅かして回る。

「……ウーン、ヤッパリ4人揃ッテナイトカラカイガイガナイナ。アイツハ校内カ?」


 光宙みつひろの作り上げた宮殿に驚きを禁じ得ずも散策していると、未来は風鈴の姿を見かけた。探索もそこそこに、上の空のようにも見える。

「風鈴、どうしたの?」

「ん、ソラお姉ちゃんが……」

「美空が?」

 怪訝な顔になる未来に、口が滑ったと思うが、遅かった。

 右手を横ピースの構えにして、顔の前へ。これは姉の神通力、”ライトニング・スコープ”か。探索系で、効果は美優羽の鵜の目鷹の目に似る。

「あそこね」

「お姉ちゃん!」

 駆け出す姉を、風鈴は追いかけた。


         *


 シエルの乱入で少し調子を狂わされた光宙みつひろだが、気を取り直して書庫へやってきた。

 そこには、タマモがいた。

 ここにも靴は隠されているが、タマモは靴探しよりも巻物を広げて食い入るように中身を読みふけっていた。しっぽを犬のようにフリフリしている。

「おもー、この絵巻物が面白いのじゃ」

「ははは、源氏物語とかはよく知らなくてな、俺の知ってる漫画を書いておいたのさ」

「源氏物語は、光源氏がかっけーのじゃ」

「そうらしいな。今度漫画版でも見つけてくるか」

 軽く談笑していると、タマモが鼻をヒクヒク何かを嗅ぎ取った。

 靴探しを思い出したか? と思ったが。

「争い[#「争い」に傍点]の匂いがするのじゃ」

「争い?」

 直接的な戦闘は禁止していたはずだがと訝しむが、タマモはしっぽを真っ直ぐに立てる警戒姿勢で駆け出した。


「イシター、あなたは引っ込んでいなさい。先生、元の姿に戻りたいなら私に言ってください。いつでもお相手しますから」

 仮面をしているが、シエルの目は据わっていたことだろう。

 イシター(上江)はというと、目ではなく肝が据わっていた。

「オー、それは誰ですか? ミーは開平橋上江ネー」

 こういう場面は以前に何度もあったのであろう、見事におちょくり返している。

 そしてこういう場面に何度もあいながら慣れていないのであろう、清夢は軽くキョドっていた。

「そのネタは前にもやっているわよ、イシター」

 さらにこういう場面に何度もあいながら同じことを繰り返しているのであろう、軽くキョドった風鈴を連れて未来が修羅場へ合流した。

 シエルと同様目が据わっているのだろうが、般若の仮面をつけているので問題なかった。余計に怖いとも言うが。

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