元天使である俺は女の子に転生しました

原田たくや

第01話 プロローグ(1/2)

どうやら俺は巨人族に捕らわれてしまったらしい。


目に映るもの全てが規格外で、とにかくでかいとしか言葉が見つからない。

タンスや棚の上に配備されているウサギのぬいぐるみの赤い眼光が

まるで俺の動きをじっと監視しているようだ。

可愛さとは裏腹にウサギたちの手には刃物と銃といった殺傷能力が

高い武器が握られている。

もしかしたら、ヤツらはウサギの皮を被ったモンスターかもしれない。


「……明かりだ」


しめたぞ。巨人族は己の腕力を過信しすぎて扉を閉めるのを放置している。

あの光の閃光を辿ればこの屋敷から出られるかもしれない。


俺は両手を挙げて、血の色に統一された部屋のベッドの中から

立ち上がろうと足に力を込めていく。


無抵抗を演出している状態ならウサギたちに

発砲されることはないと思ったからだ。

殺す気なら巨人たちは即座に俺を始末しているはず。

俺を生かして捕らえた目的は他に何かあるはずなんだ。


天界の位置情報だろうか? 巨人族と敵対している悪魔の情報だろうか?

それとも俺を美味しく食べる気なのか?

生きた天使の肉は命を永らえさせる秘薬なるというも伝説も聞いたことがある。


ムダな憶測がメリーゴーランドのようにくるくると回って

俺の思考そして判断力を狂わせていく。


脳を使える生き物としてあるまじき行為だが背に腹はかえられない。

ここは行き当たりばったりの運命に身を委ねよう。

もう俺は天使から脱落した堕天使のような存在なんだから……


クソ、やけに胸元が重たい。

あいつらは俺のもがれた翼を封じ込めるための魔道具を

無理やりに装着させたのだろうか?

そんなことをふっと思っていると光の矛先から声が聞こえてくる。


「ドアが開いていたから勝手に入るよ。

 お父さんが食事の用意ができたから降りてきなさいって」


俺を逃がすまいとひょっこりと姿を現した巨人族。

巨人族のわりにひょろっとした肉体。背丈は俺以上だろうか?

まぁ、小型の巨人族っていっても俺より高いのは必然で当然ある。

小型の巨人は黒ベースの服にネクタイまで巻かれた礼装着まで身にまとって

生意気におしゃれを気取ってやがる。

巨人族は豊満なる筋肉を惜しみなく全面に出す種族じゃなかったのかよ。

どうせお前たちは俺を生け捕りにした祝賀パーティーを

開こうってこんたんなわけか?

メインデッシュあるいはデザートが俺だって言いたいんだろ。

おとなしく食われてたまるかってっ!


「先に忠告しておく。俺を食べて全然美味しくないぞ」


先手必勝である俺の言葉の攻撃。

いくら小型の巨人族っていえども腕力で勝負すると俺に勝ち目がない。

例えこいつ1匹を始末したとしてもすぐに増援を呼ばれると

即座にゲームオーバーだ。

一概には語れないが、巨人族の傾向は知力が少ないヤツが多いらしいと聞く。

何でも進化の過程で腕力があり過ぎて余り知恵を振り絞ることなく

生きていけた結果、脳の発達が遅れてしまったって話だ。

だからそこをうまく狙えば俺の生還する確率がぐっと上げれるはず。


「俺を焼いて食べようが煮て食べようが不味いのは不味い。

 きっとお腹を壊すだけだぞ」


「は……わあぁぁ……」


俺の心理攻撃の言葉責めは予想を遙かに越えて効果てきめんみたいだ。

小型の巨人族は思ったよりも小心者ようでかなり動揺している。

後もう一押しでヤツは観念して俺を諦めて逃げ帰ってくれるかもしれない。


「塩、コショウで味を整えても砂糖で甘くしてもムダだ。

 どんなに凄いシェフが厨房にいようと元である食材の本質は

 変わらないからな」


ここは間髪入れずに小型の巨人族を追撃する俺。

だか自らが自虐ネタを振って悲しくなってくる諸刃の攻撃だ。

巨人族に捕食されないためにも俺が惨めになるが

ここで引き下がるわけにもいかない。

俺は捕虜である身分を忘れ、ただ勢いだけで強引に小型の巨人族に迫っていく。


「俺なんかよりも他に旨い物なんてこの大地には

 いくらでもごろごろと眠っているだろ?」


「だから俺を食べることは諦めるようにリーダーを説得してくれって」


口調を使い分け今度は小型の巨人族をさとすように言う。

緩急をつけた言葉の攻撃だ。


「その……僕も年頃なんだから、セクハラとかして

 からかわないでくれる? 奈緒お姉ちゃん」


「俺を食べるとか? 下品な言葉を使わないでさっさと

胸元のボタンを止めてよ。

 その女の子として下着が見えていて恥ずかしくないの?」


「……奈緒お姉ちゃん??」


お姉ちゃんの響きに俺は反応して胸元のインナーの下に手を突っ込んで

胸をまさぐる俺。ぷにぷにって揺れ動くお肉たちのハーモニー。

俺を拘束していた重りの正体は魔道具じゃなくてこれだったのか?

俺の胸には小ぶりではあるが丸みある重量感あるたっぷりのお肉が

2つ仲良くぶら下がっていた。


これってもしかして、人智を超越して生き物の全てが愛しているって

語り継がれてきたおっぱい? おっぱいは大好きだけど冗談じゃないぞ。

天使なる前の俺は男だったはずだ。

何で今まで俺は自分の甲高い声の変化に気がつかなかったんだろう?

そもそも天使にはフォルムの違いはあるけど性別の概念がないはずなんだ。

大天使の使いとして死後の人間から天使に転生するのにもヒトに隕石が

当たるぐらいの確率以上に困難であるとミカエル様から

告げられていたはずなのに。

どうして俺がまた女の子の姿に生まれ変わったんだ?

俺の心の奥底に女体化願望があったって言うのか?


しかし指で触れるとぷるるんと弾けるように揺れる乳房。男の悲しい性だ。

おっぱいを目の前にして揉みしだかない男などこの世には存在しない。

俺は欲望に負けておっぱいを揉みしたく。ぷにぷに、ぷにぷに……


「……ふあぁぁ……はぁ、はぁ……」


自分のおっぱいを揉んでいると分かっていても何だか体が火照ってきてしまう。

これが女体の神秘ってヤツなのか? さすがに股間をまさぐるのはまずいよな。


「……はぁ、はぁ……」


だけど俺はついに性欲にも敗北して禁断の花園にある果実に

手を伸ばそうとする。


「最近はいつも部屋に閉じこもって変だったけど……

 特に今日のお姉ちゃんは変だよ」


「……その、そんな破廉恥なことは彼氏の目の前だけでやってよ。

 僕は何も見ていないし何も聞かなかったよ。奈緒お姉ちゃん。

 ちゃんと朝ごはんのことは伝えたから」


「じゃあ、僕は先に行くね。またね、奈緒お姉ちゃん」


通称小型の巨人族の弟(仮)は悲しげな瞳をして部屋から消えていく。

弟に気を遣わせてしまって本当にバカな姉である。

俺は何だか湯冷めしたようで自慰行為をするのは諦めて

再びベットに腰を落とした。

性欲を抑えきれなかった自分が恥ずかしい。穴があったら入りたいぐらいだ。

そっとベットの横に置いたある鏡を覗くと俺は整形手術を

施されたように容姿そのものが変わっていた。


「これが今の俺の姿なのか?」


短髪だった髪も伸ばされ三つ編みにされて結ばれている。

鋭く吊り上がった緑の眼光も黒くそして下がり、

二重になって大きくなっている。

あれほど丹念を重ねて全身にまとった筋肉の鎧もそぎ落とされ、

変わりにもちもちとみずみずしいお肉が胸とお尻に張り付いている。

身長もかなり縮んでいて、高い物を取るときは踏み台を

使わないと届かなそうだ。

道理で俺が巨人族の巣窟だと錯覚した理由も着々と分かってきた。


「……あいつらが大きいんじゃなくて、俺が小さくなったんだ」


だけどこれって以前の姿の俺をベースにして女体化したんじゃなくて

まったくの他人じゃないか? 神様のいたずらなのか?

やけに胸は発育しているがこの顔と身長なら小学生年長ぐらいだろうか?

よく俺が着ているパジャマを観察すると模様にウサギがいる。

俺はパンツの柄も気になって、スボンをずり下げてパンツのデザインを

確認するとパンツの裏にもかわいいウサギさんがいた。

これで小学生で確定だな。

だが、のんきにランドセルを背負って小学校に行っているわけにはいかないぞ。

一刻も元の体に戻る方法を考えていかないと。


……あれ、そもそも元の体ってなんだっけ。

人間だった時の男の肉体か? それとも転生した時の天使の姿の俺か?

今更にして天使だった頃の俺に戻る必要性は果たしてあるのだろうか?

俺は熱心に考え込んでしまう。


俺がまだ天使になる前の人間の男だった頃は引きこもりで学校をずる休みして、

アニメを鑑賞して自分を主人公に置き換えた妄想して毎日を消化していた。

時にはヒロインと結ばれ、時にはヒロインに刺される結末の俺。

正直、そんなつまらない人生はリセットしたいとずっと心の片隅で思っていた。


だから天使に生まれ変わった時の俺は歓喜なって自分の歩んできた道を

必死に変えようと戦っては怪我をしてそれでもまた前線に出て悪魔を討伐した。

そしてついには翼も失い、天界に帰れず路頭に迷った日々。

それでも来る日も来る日も天界を守護するために戦って……

そんな俺を哀れに思った神様が救いの手を差し伸べてくれたかもしれない。


確か日本のことわざにも郷には入れば郷に従えって

古い言葉が残されていたと思う。

この奈緒と呼ばれた少女の肉体でまたこの大地に再び降り立ってみるか。


「今度は友達100人ぐらいできるといいな」


この少女(奈緒)の意識に俺の口が引っ張られたのかもしれない。


「……こいつも俺と同じで引きこもりだったんだな?」


俺の中で眠っている奈緒に語りかける。

そして俺はクローゼットの床に置かれたランドセルのホコリを

落として部屋を出た。

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