あの人。
あの人の声を聞いたのは去年の夏の始まり頃だった。長い雨が終わり、熱気が鬱陶しく纏わり付いて寝れない夜だった。あの日、幸せな夢でも見ていれば、今、こんなことにはなってなかっただろうに、と毎日想う。
ディスプレイにある名前とは違う声で、でもどこか懐かしいような声だった。案の定、小中学校の同級生であった。電話越しだが、数年ぶりの再会。近況を報告しあった後、想い出話をしたが、話が尽きなかった。知らなかったことや、誤解していたことがあることも知った。
私の知るあの人は、いつもにこにこしていて、のらりくらりと物事をかわす、能天気そうな人であった。顔立ちも髪型までもふわふわとした印象を持つような人であった。でも、この電話で、これらはその裏にある辛い事実を周りに察されない為の努力によるものだと知った。それに気づけていなかったことが情けなく、小さいながらも懸命に日々を過ごしたあの人のことを思い、涙が出た。
電話をしていた当時の環境も大変な状況らしく、死にたい、と悲観していた。どうにか救ってあげたいという気持ちも虚しく、ただ話を聞いてあげることしか出来なかった。
数日後、私の連絡先を手に入れたらしく、ディスプレイに映った名前はあの人出会った。ほぼ毎日、夜になるとあの人から電話がかかってきた。正直に言えば、彼氏でも仲の良い友達でもなく、義理があった訳でもないが、毎度数時間の電話に付き合った。恋愛感情は無かった。その代わりに、とにかくこの人を救ってあげたい。生きて、すぐでなくともいつか幸せだと思える日を過ごしてほしい、と思う一心だった。続く。
遠い日の私へ。 @yuhki_kisk
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