誰が為に幕は降りる - 北葉高校放送部日誌 -

朝海拓歩

第1話 プロローグ

 書くこと。それが私の唯一の武器だ。


 私はただひとりで黙々と淡々とひたすらに文字を書き連ねていく。そこには言葉があり、命があり、私だけの世界がある。そのはずだ。私なら出来るはずだ。


 なぜか。決まっている。私が本物だからだ。


あいつら......私のかつての仲間たちのように無知で軽薄で覚悟のない半端者たちはもはや去りゆき、ここには私ひとりになった。

 私だけがまだ戦いの渦中に身を投じている。


 正直言うと、もう逃げ出したいと思うこともある。書くことは自分の弱さも未熟さも白日の元に晒してしまうから。文字を記す度に私はなんて無様な人間なんだろうと、そんな葛藤で眠れない夜を何度過ごした事だろう。


 そんな思いをしても書き続けるのは、これは私にとって既に呼吸と等しく、ままならない現実を生きるために必要な行為だからだ。


 だから、顔も見えない読者諸君。

 ネットの向こうにいる君に、私は願う。


 この文章、私の歩んだちっぽけな足跡が、少しでも諸君の記憶に留まることを願わずには居られない。


 明日もどうか、誰かが私を見守ってくれることを祈っている。


@某小説投稿サイトの1ページより



 投稿ボタンを押してノートパソコンを閉じると、既に日付が変わっていた。

 明日は私にとって試練の時だ。その試練を乗り越えればきっと私の作品は次のステージに上がれるはずだ。目を閉じて深呼吸をする。あの人の言葉が脳裏をよぎる。

「君は本物になれる」

 ずっと一人でもがいてきた私に射した一筋の光。今はその光を信じて、ただ行動に移せば良い。準備はしてきた。きっと大丈夫。私なら出来る。

 だって私は、私は本物なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る