1話 アローヨ村
移り行く時代と文化と供に『憎しみ』が生まれては潰え、生まれては潰えた。
共和をとった集団社会のなかで『悲しみ』と
『憎悪』が誕生した。
亀裂した緊張状態のなかで『恐怖』と『殺意』が芽生えた。
戦争・・・・ほんの些細な事でさえも、各々の思惑が混ざり合ってしまうのなら取り返しのつかない被害をもたらす。
争いは人に限った事ではない、縄張りを取り合うライオンから蟻までが種の繁栄をかけて生きている。
如何に賢く狡猾であろうとも、我々は争いから逃れる事は出来ない。
社会的地位を上げるために勉強して引き出しを増やす・・・・というのも一種の争いであり、言い換えるなら『競争』だ。
――結論的に人間は繁栄の生存競争から脱してしまえばそれは最早人間ではなく、動く肉塊だと言えよう。
秩序を知らぬ生命は淘汰され、絶滅の渦に巻き込まれていく。
これが『争い』の結果に起こる当然の事であり自然の摂理だ。
無論、その『理』のなかで生きれる生命達には抗う事は叶わないだろう・・・・
――例外が無ければ
かの世界に住まう、人智などちっぽけなものを超越した存在が世界の『理』を変えた。
彼等は自らが『理』に取り込まれるのと引き替えに、残る力のすべてを持って隣世を統合して一つの世界を創成した。
その際に数多の大地を統合し、一つの球体に収めた事から『地球』と名づけられた。
無論、異なる種族同士の望まぬ併合は互いの価値観の違いや文化の歴史から衝突は絶えず起きた。
――そして『戦争』が始まった。
世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と世界と・・・・・が
一つの『世界』で争った。
爪跡を残すように荒廃していく大地は後を絶えず、しかしながら『理』と等しい存在である地球は破壊されてもなお生命エネルギーを絶やすことは無かった。
――そして500年にも及ぶ戦争の末、ようやく人類は共和の道を選ぶ。
限りある命は殆ど絶滅し、数残った種民族は、統合化によって極大になった大地へと姿を消すように散らばっていった。
推定76億人はいるであろう人間に対し、
直径12,7420kmの地球は余りに大きく、広すぎた為だ。
――更に600年が経過した。
時代が変わりゆく中で人は変わった。
価値観を尊重し、受け入れた種族同士は一つの共同体となり、『愛』を生んだ。
協調性を尊び、多種族国家を作り上げた中には『信頼』が生まれた。
――まさしく世界に『平和』が訪れた瞬間であった。
その時その時が如何に過酷で辛くても、やがては慣れ、順応する。
人間とはそういうものだ、だからこそ美しいのかもしれない。
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そっと、触れていた本を閉じた。
浮き彫りになった表面の文字を指でなぞらえる、木漏れ日に照らされる中にザラりと乾いた音がわずかに聞こえた。
椅子の背もたれに大きくもたれ掛かると小さな欠伸を一つすると共に身体をストレッチする仕草をする。
目元を伝う一筋の涙には目もくれず、立ち上がって台所にあるレーズン入りのパン一切れを口にする。
サクサクと軽い音で気分を紛らわしながら玄関のドアへと手をかけ、開いた途端に差し掛かった強い日差しに軽い立ち眩みを起こし、ふらふらと覚束ない足取りでガーデニングチェアにもたれ掛かる。
テーブルの上に置かれた一枚のチラシには大きく『拳闘祭』と描かれていた。
拳闘祭・・それは1年に一度、ここアローヨ村で行われる年齢・老若男女問わず己の戦闘力を競い合い、頂点を決める大会である。
端から見たらぶっ飛んでるように見えるかも知れないが、実の所アローヨ村の住人は元・戦闘民族である。その基礎的な身体能力は然程では無いものの戦闘の際に頭髪が燃えるように赤く変化し、爆発的に
・・最盛期は王家に仕える程の優秀な種族だったと伝書に残されていたがそれは300年以上も昔の話で、突如として起きた異世界人との戦争で次第にその数を減らしていき、今となっては強力な血筋を持つ者はほんの僅かとなっていた。
しかしながら、最盛期だった当時の名残がこういった伝統文化になっているという訳だ。
「一ヶ月後の市民競技場にて朝の10時に開会式が行われる・・・と、今年はやっぱり
ゼノンが優勝かな?」
レーズンパンの最後の一口を口の中にポイと投げ入れると、テラスの階段を駆け下りて森へと続く橋を渡っていった。
BREATH OF GOD 猫ハム @nikutdi1150
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