世界滅亡

現夢いつき

世界の概要報告

 人口爆発は止まらなかった。しかし、その反面で日本の人口は極度に減り始めた。少子化対策に結婚を促進するような試みがいくつも取られたが、若年層の減少によって経済が低迷し始めたこともあり、経済的な面から結婚を断念する人が後を絶たなかった。

 仮に結婚したとしても、子供を作ろうとする者は少なかった。


 それゆえ、日本において人材は――特に日本人の人材は極端に価値のある物とされた。かなり無理をして国家は福祉を充実させた。そこには国民の血税の大規模な引き上げもあったけれど、支持率を犠牲に何人もの首相が遂行させた。


 今や日本は一大福祉国家である。

 全ての人間が凶悪な犯罪に巻き込まれることを除き、自らの天命を超えて長生きできることを保証された。

 そうなったのは、日本が生んだ新たな新薬の功績が大きいとされる。

 従来は患部や異常部のはたらきを促進するか抑制するか、もしくは、そこに関する部位にはたらきかけることで治療していた。これを、肉体的なアプローチだったとすれば、新薬は精神的なアプローチで解決した。

 イエスが奇跡によって病人を完治させたという伝説があるが、ようはそれを科学的に応用したのである。むろん、宗教的にかなり批判されることとなったが、高い実用性を前にそれらが正当性をえることはなかった。


 アンドロイドの出現もむろん、重要な役割を果たした。人材不足に歯止めをかけられたのはもちろんのこと、老人の介護も彼らの出現で比較的簡単になった。合理的で間違えないアンドロイドは人間よりも役に立ちその上、大量生産により安く売買された。

 とにもかくにも、この新薬の登場と供に人類は死への恐怖から少しだけ遠ざかった。行き届いた福祉は、さらに人類と死の間に割って入った。アンドロイドは日本の諸問題を解決した。

それが世界に広がった今、人類の死はその長すぎる寿命を全うするほかにない。


 ――そのはずだった。

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