最後の夏
@kein00
第1話
生ぬるい風が頬を撫でる。
りんご飴、金魚すくい、射的、少し赤みがかった光に照らされ色々な店が賑わっている。
「平成最後の夏...か」
最近みんなが口々に言っているこれが無ければ、今頃家で漫画でも読んでいただろうに。
2週間ほど前、この言葉に焦りというか何かしらの影響を受けた僕は好きな人をこの祭りに誘ってしまったのだ。
約束の時間は8時、刻一刻とその時間が迫ってくる、自分の鼓動が早くなるのを感じる。落ち着かない、足が動く。音が遠くなる。
───せわしなく動いていた視線が一点に釘付けになる。もう音などは聞こえない。
一瞬がとても長く感じられる。──彼女だ。
少しうつむきかげんでこちらの方へ近づいてくる。
こういう時って何て言えば良いんだろう、あがってしまって言葉がでない。彼女も視線を合わせない。少しの沈黙の後、「金魚すくいでもしようよ」となんとか言って出店を見て回ることにした。
最初はどうなることかと思ったが、回っていると段々と緊張が解けて、普通に話せるようになってきた。「この金魚良くない?」
「ほんとだ!綺麗!」「とってやるよ!」
良いとこを見せようとしたのは良いものの、もともと上手いわけではない。
予想通り金魚は穴を開け美しく水しぶきをあげながら水へと帰っていった。
「全然だめじゃん笑、私の方がうまい!」と言って自信満々にお金を取り出し、ポイと器をもらう彼女。どれ程うまいのだろうと思って見ていると、ものの数秒でお目当ての金魚を高く掬い上げ!...落とした。彼女と僕は目を見合わせて笑った。「さっきより高く水しぶきが美しいから芸術点が加算される....」彼女がキリッと開き直ってそう言う姿はなんだかおかしくて、可愛くて、楽しい。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、少し休もうかと言っていた時、ハッと今日の本当の目的を思い出した。――――想いを伝える。
これが今日の本当の目的だったのだ。
池のほとりに座り、夜空を見上げた。
あの星はなんだっけ、小学校の時に覚えたんだけどなー、話はしているものの本当の目的に気をとられて入ってこない。もう今日はやめておこうかと思った時、平成最後の夏と言う言葉が頭をよぎった。なにもしないで後悔するより、やって後悔しよう。そう心に決めたのを忘れていた。
やはりここで言うしかないだろう。
「俺さ、お前のこと、す...」花火が音をたてて上がった。彼女の頬を赤く照らしている。
「え。なに?」彼女が髪を耳にかけ、聞く。
「いいや、何でも」ここにきて花火に邪魔されてしまった。ただ悪い気はしない。照らされた彼女に見とれていた。
花火も終わり、みんなが帰り始めたので彼女を家まで送ることにした。
道路が熱を帯びている。他愛もない話をしながら帰る道はどこか幸福感に満たされ、心地が良い。 もうそろそろ彼女の家だ。
「また遊ぼう」と言うと「行けたらね」と返ってきた。無理か...と思ったが顔には出さず
家に入っていく彼女を見ていた。
――しかし、突然ふと何かを思いだしたように彼女が戻ってくる。ぐっと近くまでよって耳元で彼女が囁いた。「私も.....」。
夜空がとても美しい。
人肌の風が硝煙の匂いを運んでくる。
平成最後の夏には感謝したい。
最後の夏 @kein00
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