異世界に行った。そして猫になった。
ぬこぬっくぬこ
第一章 転猫
1にゃんめっ 誰か養ってください!
『この世界はあと数年で滅んでしまいます。どうか私達の世界をお救いください』
なんだこりゃ?
やばいな、なにかウィルスにでも感染したのだろうか?
なにやら変なメッセージがでて、ウンともスンとも言わなくなったオレのスマホ。
心当たりは……そういや昨日、新作ゲームのテスターに応募したな。
それの導入画面か?
それにしてはタイトルも何もない。
ブラックスクリーンにホワイトな文字が一行だけ。
これも演出の一つかもしれないが……
電源を切るか、このまま進めるか迷ったが、いざとなったら初期化すればいいかと思い画面をタップする。
すると画面が切り変わる。
『種族を選んでください』
ヒューマン SP10 ☆ 魔法・直接攻撃、共にそこそこの性能を誇る。誰にでもオススメ。
エルフ SP8 ☆ 魔法職特化型、魔法以外が非力なためソロプレイには不向き。援護職好きな人にオススメ。
ドワーフ SP12 ☆ 力が強く魔法も多少は使える。序盤からサクサク進めることが可能。攻撃職好きな人にオススメ。
デミ・ヒューマン SP5 ☆ 直接攻撃特化型、魔法は一切使えないが強力な攻撃力は魅力的。ゴリ押し好きな人にオススメ。
猫 SP20 ☆ 愛くるしいその姿で魔王すら魅了できる、かも知れない。決してオススメはしない。
おいっ、五番目!!www
猫って!
猫でどうやって世界を救うんだよ!?
草生えるわっ。
しかしSPとやらが多いな。
SPってスキルポイントか?
なにか凄いスキルでもあるのかもしれない。
そう思い、猫の部分をタップする。
『スキルを選択してください』
SP1 ☆ 暗視:暗いところでも良く見える、目だって光ります。
SP1 ☆ 嗅覚探知:人間の数十万倍といわれる性能を誇る、弱点にもなりえるので注意が必要。
SP1 ☆ 聴覚探知:ただ耳がいいだけはなく、音で方角や距離まで判断できる謎性能。
SP1 ☆ 忍び足:音を立てずに忍び寄る。その技術は猫の右に出る動物はいないといわれるほど。
SP1 ☆ 隠密:忍び足とセットで気配を殺せば、猫の存在に気づける人間は存在しない。
SP1 ☆ 気配察知:猫はハンター、獲物の気配は逃がしません。
SP1 ☆ 敏捷:猫科の走るスピードは世界最速。
SP1 ☆ 爪術:獲物を切り裂く鋭い鉤爪。
SP1 ☆ 柔軟:お城の頂上から落ちても生き残るほどの柔軟性を持つ。
SP1 ☆ 生命力向上:どんな時でもしぶとく生き延びる。怪我をしてもすぐに回復する。
SP1 ☆ 動体視力向上:視力はそんなによくないが、世界がゆっくり動いて見えるというほど動体視力が良い。
SP1 ☆ 魅力:その愛くるしさは誰もが認めるレベル。
SP8 ☆ 復活(9):猫には九つの命があるといわれています。
うん、猫だな。
猫以外の何者でもない。
でもざっと見てみると、猫って性能がいいな。
ただ、最後の奴以外はリアルで持っているだろ? ポイント必要なのか?
戻って他の種族のも見てみるが、全てのスキルを取れるのは猫だけな模様。
ちょっと面白そうだな。
猫になれるオンラインゲームって聞いた事ないし。
猫のまま画面を進めてみる。
『性別を選択してください』
オス ・ メス
とりあえずオスを選択。
『ようこそ我等が世界へ、貴方を歓迎いたします』
そう画面に文字が表示された瞬間だった。
スマホの画面から黒い手が伸びてきた気がした。
思わず目をつぶる。
そして再び瞼を開いたとき、世界は――――変わってしまっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
えっ、何……? どこ、ここ……?
いつの間にか硬い地面に横たわっていた。
いや、横たわってはいない? オレは今普通に地面に座っている……はずなのに、なぜか地面がもの凄く近い。
嫌な予感がして、自分の手を目の前に差し出して見る。
そこにはプニッとした肉球がっ!
「ニャッ! ニャニャーー!!」
思わず叫んだオレの口からは、なぜかニャー語しか発せられない。
ウェッ! 何? 何が起こったの!?
慌てて全身を見てみる。
真っ黒なフサフサした毛並み。が体中を支配している。
二本足で立ってみようとする。
プルプルしていくばも持たない。
歩くなんてもってのほか……どうやらオレは本物の猫になってしまったらしい。
夢……きっとこれは悪い夢に違いない!
そう思ったオレは近場の板壁に突撃してみる。
「ニギャーー!」
イデェエエ! イデェエエヨ! なんで覚めないのこの夢!!
夢、夢だよね!?
誰か夢だと言ってよ!
「にゃっ、にゃっ、にゃぁあ~」
アレから帰還の呪文を唱えたり、階段から飛び降りたりしてみたが、元の世界に戻れる気配がない。
地面に沈み行く夕日の中、民家の屋根の上でたそがれる。
はぁ……ハラ減った。
オレがこの世界に来た場所は普通に街中の裏路地であった。
街並みの家々は木の板を打ち付けただけの質素なものが多い。
猫を飼える様な裕福な家は見当たらない。むしろ非常食として扱われそうな勢い。
どうしよう、今日からノラ猫生活か……誰か養ってくれないかな?
なんだかいい匂いがしてきたので、それにつられてフラフラと歩いていく。
そんなハラペコなオレが目にしたもの。
それは串に刺さった旨そうな肉の数々。
ちょうど冒険者風の剣士がそれを受け取る場面。
口からダラダラと涎が止まらない。
そんな冒険者さんと思わず目が合う。
オレは「にゃ~ん」って言いながらひっくり返って服従の構えを取る。
ぜひ下さい! そのお肉!
ちょっとびっくりした表情をした冒険者さんは腰を屈めて串を差し出してくる。
おおっ! やってみるもんだ!
差し出されたお肉にもちろんかぶりつく!
うんめぇええええ!
今まで食べた事のないお肉やぁ!
柔らかく、肉汁もたっぷり!
口の中でホロホロ崩れるようだ!
もっと! もっと欲しいッス!
ゴロゴロ言いながら冒険者さんにスリスリしてみる。
そしたらなんと、さらに奢ってもらえる事に。
しかも! なんか高そうなお肉を頂けた。
文字は読めないが、数字のゼロらしきものがいっぱい並んでたお肉を買ってもらえた。
それがまた、なんとも言えないお味!
異世界すげぇえ!
食べる先からまるで消えているかのように感じる食感!
甘いとも辛いとも言いがたい不思議な味覚!
異世界来て良かったわぁ。
しかし、気前のいい冒険者さんだ!
顔はちょっと強面だけど、優しさが溢れている!
なんとか養ってもらえないだろうか?
歩き出した冒険者さんについて歩く。
最初は困ったような顔をしていたが、そのうち足を止めて手を差し出してくる。
オレは待ってましたとばかりその冒険者さんに飛びつく。
ゴロゴロ言いながら歩きながら抱かれるオレ。
そのうち眠たくなってきたので、冒険者さんのフードの頭部分に潜り込んで寝に入るオレであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今日は奇跡がおきた!
なんと! あの愛らしい、猫、なる動物と接する事が出来たのだ!
接するというより、この手に抱いて撫でることまで出来た!
これはなんという奇跡!
今までこの強面な顔の所為か、俺に自分から近寄って来る動物など、人間を含めて存在しない。
うん、自分で言ってて悲しくなってきたな。
妹がその昔、犬を飼っていたのだが、俺がエサをやろうとしても警戒して近寄りゃしない。
サーカスを見にいったら、俺の所為で動物達が怯えてショーが出来ないと言われ追い出された始末。
そんな俺の目の前に、涎を垂らした猫が一匹現れた。
よほど腹をすかせていたのか、俺の顔など見ずに一心に俺の手の串を見ている。
出来る限り怖がらせないようにソッと串を差し出すと、俺を恐れずに食いついてきた。
しかもその表情が、なんていうか……まるで天にも昇るかのような仕草。
思わずほっこりしてしまう。
俺は始めて動物に餌やりが出来た事に感動して、一番高い串を買う。レッサードラゴンの肉だ!
それを食べたその猫は、ゴロゴロ転がりなら体中でおいしいを表現してくれる。
なんとも表現豊かな猫だ、猫という動物はこんなにも愛らしいものなのか。
俺の足元にすりよってくる猫。
そっと撫でて見る。
おお、これが猫の肌触りなのか。
サラサラでフワフワで……なんだか何時までも撫でていたくなる。
今まで周りの人間が、ペットはいいぞ、癒やされるぞ。なんて言っていたのを、バカにして聞いていたが、これは……本当にいいものだ。
一瞬連れて帰りたいと思ったが、俺が借りている部屋はペット禁止だ。
連れて帰る訳にはいかない。
後ろ髪を引かれる思いでその場を後にするが、ふと振り返るとその猫が後をついてくる。
耐えられなくなった俺は思わず手を伸ばす。
すると、そんな俺に向かって飛び込んでくる猫。
もう駄目だ! 俺はこいつを飼う! 絶対に飼うぞぉおお!
よし! 明日はペット可の不動産を探しに行かねば!!
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